第19話 悔いを叫ぶ魂
私達は、とんでもないことに巻き込まれてしまったのかもしれない。
数時間前まで普通だった光景が、この一瞬にして狂乱へと変わる。
教会にいた全ての人間が人ならざる者、ロストへと変貌を遂げた。
『……ふ"ひゃ…………で"…れたぁ……"』
『………ロスト……まさか本当に変わってしまうなんて……』
立ち尽くすわたしたちをロストはじっと見つめる。
ロストが動きを見せた瞬間、リベルはそれを察知した
『離れろ!!』
ロウワーさんと私をリベルが突き飛ばす。
私とロウワーさんは教会前の広場まで突き飛ばされた。
『リベル!!』
私が名前を呼んだその時だった。
目の前にあった教会の壁が崩壊する。
壊された瞬間に気味の悪い声が村に響き渡る。
立ち煙が上がるが、それからは無数のロストが飛び出した。
それと紛れ、リベルの姿があった。
『リベル!!ベル!君は早くここから逃げろ!』
『ロウワーさんは!?ここにいたらロストが…!!』
『リベルを連れてくる……私の異能があれば助けられないことはない…!』
『でも……!1人じゃ危ない…!!あんな数のロストがいるのに…!!』
ロストは見た感じでも、数十体はいる。
どれも恐ろしいのにそこに1人で突入するなんて、自殺行為にしか思えない。
『そんなこと言ったら……ますますリベルが危険だな……私の背中を押してくれたのか?』
ロウワーさんはそうして笑った。
だが強がっているように見えた。
だって片手で太ももを押さえている。そうでもしないと震えが止まらなくなるから。
『……なら私もいく…!仲間を置いて逃げるなんて出来ない!!』
『……君にはまだ異能が発現してない。ロスト相手には…無いと敵わない。君が行っても……言っちゃ悪いが足手纏いになる。』
ロウワーさんから言われた言葉は悔しいも現実的な事だった。
確かに異能無しの私が行っても役に立てない。
香りの異能、戦闘向きではなくても役には立つかもしれない。
『…分かってくれベル。今起きてるのはただ事じゃ無い。合理的に行かなければこの村はいずれ壊滅する。それほどの事態なんだよ………
早く"ルクス"が来てくれれば良いんだけどな…』
『ルクス……?それが来ればみんな助かるの…!?』
『……絶対とは言いきれないが…壊滅は免れる。』
教会が崩壊する音が響き渡る。
『………私は行く、君は逃げろ!!』
そう言うとロウワーさんは教会の方へと走っていく。
『ロウワーさん!!』
手を伸ばすがロウワーさんの背中は離れていく。
このままでいいのだろうか…?
私だけがこの場に残されて……逃げるのが最適なのか…?
私に出来ることは本当にない……?
『……私にだって……異能があれば……なんで私には……!!』
私は"自分を憎んだ"。
なぜ私はいつも助けられてしまうのか。
"私が助けられれば……"異能があれば…
《ガチガチガチガチガチ……》
そう言うとネックレスが振動し始める。
私はそれに気付く。
『……ネックレス…確かナイフだったよね………これで戦えるかな……』
だがあの男が渡したのは超小型ナイフ……刃は1センチ…2センチほどしか無い。
役に立つだろうか……
でも……本当に足手纏いになったら………
私が行って2人が殺されてしまったら……
どうしたら良いんだろう…?懸命な判断が出来ない…
でも、私の魂が止まるのを許さなかった。
次の瞬間には教会へと向かっている。
仲間が仲間のために危険な場所へと走った。
私だって彼らの仲間……助けてもらった。
仲間がそこにいると知っていながら逃げて……
それで彼らが死んだら、私はおかしくなる。
今度は私が助ける…!!
(お願い……!!間に合って!!)
教会の目の前まで戻る。
しかし立ち煙でどうなっているか分からない。
ロストの気味の悪い声は聞こえるが……2人の声は聞こえない。
上手く見えない……この中にロストが潜んでいる。
私は震えが止まらなかった。
不思議な感じだ。
身体も魂も、2人を救けるために動こうとしてる。
でも、またそれとは別に……この先は危険。
行くべきではないと拒否している。
確かに助けなきゃいけない、じゃないと2人が死んじゃう……
でも怖い……
その時、遺跡の記憶が蘇る。
あの時、遺跡で私がリベルと会った時……彼はロストに怖気付かずに立ち向かってたな……
(あの時……ロストに近づいた時には……私には気づいてたのかな……)
私がいると知って……ただ倒すんじゃなくて…
私を助けようとしてくれてたのかなぁ……
リベルがロストと戦うとき……
彼は狂気の中笑ってた。
『……そうだよ、、私だって……できる……!!』
『笑えば……怖いのなんてへっちゃらだよ……!!』
リベルが私にしてくれたように……!!
私は指で口角を上げる。
そしてその笑みを固定したまま、崩壊した教会へと入って行った。
しばらく進むと煙が晴れた。
『……視界が晴れてきた……!リベル…ロウワーさん!』
視界が晴れる。
そこにあったのは、4体のロスト。
その4体はそれぞれ人間離れした姿。
数分前まで人間だったとは思えないほどに。
(……………今……目があった……?)
私は咄嗟に近くの瓦礫の影へ隠れた。
息が荒くなる。
深く息を吸い吐く、片手で胸を押さえ、もう片方の手を口に当てる。
音を出したら……背後にいるロストが私を………
鳥肌が止まらない。すぐそこに死がある状態だ。
《……ひっ……》
すると怯えたような声が響いた。
私は声を出してない……。
ロストの声………にも聞こえないし……
まさか他にも人が……?
音は隣から聞こえた……
私は勇気を振り絞って隣を覗く、すると倒れた柱の側に1人の小さな女の子が隠れていた。
手には小さなぬいぐるみを持っていてる。
ぎゅっと抱いていて、必死に声を抑えている。
目には涙が浮かんでいて泣き出しそうだった。
(……隠れてる…?……この距離なら声は届く…!)
『……ねぇ!聞こえる…?』
私は小声でその子へと話しかける。
『……ひ"っ……!?』
女の子がこちらに気付き驚いて声を上げようとする。
私は慌てて喋らないでと合図した。
女の子は必死に声を抑えたままうなずいた。
『……1人…?他に人はいないの…?』
そう聞くとその子は首を横に振った。
(1人……こんな小さな子が………)
その子はぬいぐるみを抱きしめている。
恐怖を紛らわせたいんだろう。
私も見ているのが辛くなった。
私も遺跡で今のような状況になった、その怖さは知ってる。
でもこんな小さな子がこんな状況に遭って……
全然感覚は違うだろう。
(……助けなきゃ…私が助けないと……この子を…!!
私まで怖くなってどうするの…!)
『…もう大丈夫……!お姉ちゃんが……助けてあげる!
パパとママの元へ帰してあげる…!絶対に…!
だから……泣かないで!!』
私は震えそうな手を押さえながら笑いそう言った。
女の子は心無しか少し落ち着いたように見えた。
ぬいぐるみを抱きしめる力が緩んでいたから。
『…今からそっちに行くから……!動かないでね…!』
私はそう言って……見つからないようにゆっくりと物陰から出た。
たかが数メートル程だが……私には長距離を歩いているように感じた。
(………この子を連れて2人を探すのは危険………2人には異能があるからまだなんとかなるかもしれない…!!まずはこの子を外へ出させなきゃ…!!)
私はなんとかその子のいる柱の陰へ移動する。
『……なんとかなった…』
女の子が震えてこちらを見つめていた。
『……大丈夫だよ、外に絶対出させてあげるから…!
君…名前は?』
『……クレア…』
女の子は小さい声でそう言った。
『クレア……素敵な名前だね、大丈夫だよ、クレア。
私……ベルが助けるから…!!手を握って、離しちゃダメだよ。』
私が手を差し伸べるとクレアは小さい手で私の手を握った。
その手は震えていなかった。
(よし……でもここからどうやって……入り口に行くには物陰を通らないと……でもロストに見つかるリスクも高い………)
左側には壁に穴が空いてる……
おそらくロストが開けたんだろう……
そこからなら出られるかもしれないが……
ギリギリ瓦礫などの陰で上手く出れるかもしれない。
時間はない、そこの穴から出よう。
『……あの壁の穴見える…?あそこから外に出よう…
そしたら安全な場所まで逃げれる…!』
女の子は小さくうなずいた。
ゆっくりゆっくりと……
壁の穴へ近づく。
そしていよいよ目の前まで来た。
だが瓦礫のすぐ裏にはロストがいる。
『……音を立てないようにね…でももう出れるよ…!』
『うん…!』
そう言うと女の子は少し大きな声で言った。
きっと安心しているんだろう。
このまま外に出れれば…
と思ったが______
『……危ない!!』
教会の天井にヒビが入り、崩壊する。
私はなんとか女の子を崩落した瓦礫から避けさせたが……
危機は去っていなかった。
(痛い…!!足を捻った……!!クレアは…!?)
『……クレア?大丈夫…?ケガは……』
『………っ"…!!』
女の子は私の背後を見て固まっていた。
だがその顔を見て私の脳内に最悪なビジョンが思い浮かんだ。
『……まさか…"』
振り返ると4体のロストがこちらを見つめていた。
その距離は近く、すぐに手が届きそうな距離だった。
『べ……ベルお姉ちゃん……!!』
女の子は泣き出しそうになる。
(どうしよう……見つかった)
(どうすればいい?このままじゃ殺される…)
(異能もない、対抗できない…)
(リベルもロウワーさんも近くにいな_____)
私が周囲を気にしていると奥に倒れているリベルとロウワーさんがいた。
『……………え?』
それを見て……時が止まったかのようだった。
守れなかった。
そしてまた守れない。
目の前にいる小さな子の命も……守れない。
救けるって言ったのに、まんまと見つかって、この子は私を信用してくれたのに。
私はそれに応えられない。
ロストはニヤリと笑う。
クレアは声も出ない状態だった。
(なんで私は助けられないのかなぁ……)
(異能があれば……助けられたのかな……)
(私って……なんでこんなに弱いんだろう……)
ロストが腕を伸ばそうとする。
(守れない……弱い自分が憎い………)
《ガチガチガチ………》
ネックレスが振動し始める。
(力があれば………強ければ………ロストを……2人も……クレアも……)
《ガチガチガチガチガチ…!!》
ネックレスの揺れが強くなる。
(………力が欲しい…………!!)
私の中で何かが動いた。
《………………》
黒い場所……
何もない。
でも私の中の力が欲しいという気持ちは消えていなかった。
『…………ここは……?』
あ
そう思っていると奥に……あの男がいた。
その後ろ姿からは……
今の私と同じような……何かを感じた。




