第18話 狂乱の始まり
突如として、デシリア村の住人が次々と狂人化していくという事態が起こった。
事態は益々酷くなるばかり、現時点で教会の司祭に診てもらうしか治す方法はない……
数分が経ったが……私が呼ばれる気配はない。
いくら私も症状を一時的に止まったとはいえ、手遅れになるのではないかと不安になる。
『……まだ………私の番は来ないのかな…?』
『少し前に行って様子を見るか、それでどれくらいかわかるだろ』
前に行って様子を見ることに。
『すいませーん通りますよー………っと、なんか教会の中騒がしいな………いつも静かなのに、まぁ非常事態だしね』
私たちは人混みをうまくかきわけ、教会の扉の前までやってきた。
教会の扉は完全に閉まっておらず、少し開いていた。
その間から中の様子を伺う。
そこには……………
《ああ"ぁあぁ"ぁあっ!!あ"ぁぁああぁあぁっ"!!》
『し、司祭様まだですか!!?』
暴れ狂う住人を押さえる信徒と、それに対して何か唱えている?司祭と助祭が目に入った。
他にも道具のようなものを押し当てる者もいた。
『あの……タクトは……治るんですよね…?元に戻るんですよね…!!』
『危険です!離れてください!!』
先程の女性が目に入る。
彼女は司祭さんの腕を掴み懇願している。
その女性に離れるよう注意する助祭もいた。
だが司祭は険しい顔をしていた。
一方で男性は……以前として変わらず……暴れ狂っている。
『……彼らは今…"別の何か"へ変わろうとしている…繭のような状態なのです、我々はそれを防ぐため彼らに宿る何かを祓除しています……』
司祭は女性へそう告げる。
その言葉は私とリベルの耳にも届いた。
まさか……何か取り憑いている………?
一体なんでそんなことが………
『う"わぁあぁあぁ!!』
すると悲鳴が響き渡った。
それは外にも聞こえ、外にいる住民は驚き教会の方へと振り向いた。
私達は様子を見ていたため、声の原因は分かった。
『……い"っ……!う、腕がぁ……"!!』
1人の助祭が暴れ狂う村人に噛みつかれていた。
私はその一部始終を目撃していた。
その姿はまるで欲のまま喰らう獣そのもの。
『誰か!奥から布でもなんでもいい!傷を防げるものを持ってこい!』
司祭はそう助祭は伝える。
助祭は教会の奥へと走っていく。
『……噛まれた…?』
私はその光景を見て言葉を失う。
普通だった人間が、今はもう変わり果て暴徒と化していた。
なぜこんなことが……?
『……ん?』
そんなことを思っているとロウワーさんが何かに気づいたようだ。
だがロウワーさんの顔は今までに見たことのないくらいの驚いた顔……
ロウワーさんは固まっていた。
まるで呼吸も忘れているかのように。
ロウワーさんは教会の奥にある、大きい灯火を見つめていた。
『………神恩の灯火が………消えている……?』
ロウワーさんはそう言った。
『…ロウワーお前何言ってんだ?前も灯火がなんとかって言ってたな……今はそれ気にするところじゃねぇだろ……』
『……神恩の灯火は……この地の神がもたらす加護を象徴し、神が存在していることを表す………でもそれが、炎どころか火種すらもない状態……それが表すのは………』
『…神がこの地からいなくなった………死んだ……』
私とリベルはそれを聞き固まる。
正直私は神が死んだなど言われても実感が湧かない。
だがロウワーさんはすごい深刻そうな顔をしている。
『………ロウワー、お前何か知ってるのか?』
『……この偽りの国が保っていられるのは…
存在する"十二の理の神"がいるからなんだ…そのうちの1人がこの地に存在し、加護をもたらしていた。
けれど……それがいなくなったっていうことは……
世界の均衡が崩れる……この地から……加護が無くなる…』
加護が無くなる……
いや、世界の均衡が崩れるとあった……
一体どういうことだろうか……?
この世界に堕ちて一日も満たないのに、急にとてつもない事を聞かされてしまった……
『……ロウワーさん、それとこの病気?に何か関係が………?』
『……おそらくだけど………この地から加護が無くなったことによって……この地に眠っていた、あるいは封じられていた…ロスト……邪悪そのものが目覚め、解き放たれてしまったのかもしれない……』
ロストが……解き放たれる……?
ロストって……あの遺跡で見た怪物……
あれが解き放たれる……?
『……じゃあ………あの人たちは……ロストに取り憑かれている……って事……?』
『……いや…まだわからない……私の情報が正しければだけど……まだその最悪の事態は完全には始まってない……今はその前兆……なのかもしれない。』
『だが見てわかる通り……あのおかしくなった人たちはロスト特有の異形にはなっていない……でも、教会の人たちが言っていた繭の状態………おそらく本当にその状態なんだろう……時間が経てば……異形へと変わり果ててしまうのかもしれない……』
ようやくこの時、私は神が死んだことの重大さを知る。
世界の均衡が崩れると言われても想像は付かなかったが……今起きているこの状況がロウワーさんのいう通りになってしまうと思ってしまったから。なってもおかしくないと思ってしまったから。
その時だった_______
教会から響いていた、あの暴徒達の声が一切聞こえなくなった。
私たちはそれに気づいた、教会を再び見ると……
暴徒達の動きも止まっていて、全員が白目をむいていた。
まるで……死んだかのように。
『……収まった…?何が起きたの……?』
私たちが困惑する顔とは別に……
司祭達の顔は一気に青ざめていた。
『……ラルク司祭…まさか…………』
『……間に合わなかった………この地に刻まれていた……封印が解かれてしまった……"』
《ズズズズズズズズ…》
禍々しい黒きモノはすでに地を蝕み始める。
だがそれを助祭以外の人間は知らない。
『……封印されていた"奴ら"が放たれる……!!』
司祭はそう言った。
他の人たちは困惑したままだったけど、私たちは理解できた。
司祭達が言ってたことは……ロウワーさんの言っていたことに似ていたから。
『……非常事態だ………早く"ルクス"に伝えるんだ!!早くしなければこの村以外にも______』
司祭が叫んだ、その時だった______
『あひゃ"ひゃひゃ"ひゃ"ひゃひ"ゃひゃひ"ゃひゃ"!!』
大人しくなっていた全ての暴徒が一斉に笑い出した。
それはまるで狂喜、、司祭はその場に立ち尽くしていた。
その目はもう……絶望に塗れた目だった。
『で"れれ"レレレ"れ"れ"レレる"るるる"るる』
この時……私はようやく理解した。
あの扉がなんだったのか。
あれは"奴ら"が出てこれないようにしていた封印そのもの。
でもそれが今……神が死んだことにより開いてはいけない扉が開かれてしまった。
溢れ出してしまう。
《ズッ……!!》
暴徒の口から黒いモヤのようなものが吹き出す。
『う"ご……っ"!?』
それは近くにいた人間の口に入り込んだ。
周りにいた司祭のみに限らず、付き添いでいた人間にも無差別に入り込む。
『…………"っ…!!』
私たちはそれを目撃する。
『あ"へ……ひ"ゃ……ひ"……ひ"ひ"ゃひゃひゃ"ひゃ…』
黒いモヤが入り込んだ人もだんだんと狂い始める。
『あ"っ……な"…んで……』
1人の女性が腰を抜かし床に座り込む。
それは私が順番を譲ったあの女性だった。
《ガタガタガタガタガタガタ……》
暴徒の身体の挙動がおかしくなる。
全身の穴という穴から黒い液体が吹き出し、腕はあり得ない方向へと曲がっている。
『だ……誰か………"』
『……早く!!』
私は我に帰り、女性の方へと走り出そうとする。
だが………
『バカ!お前まで!!』
リベルが私の腕を掴んだ。
『リベル…!!離して!じゃないとあの人が……!!』
《ブチチチ………》
私がリベルへそう叫んでいると……
生々しい音が響きわたった。
それと共に、教会内に黒い巨影が広がる。
『え…?イヤイヤイヤイヤイヤイヤ…!!やめ___』
《ダン!!》
何かがぶつかるような音が響く。
それを目撃した他の住民も後ずさる。
目撃したリベルは驚いていた。
『…………"マジかよ…』
私も恐る恐る振り返る……
そこにはもう……私の知っている人たちは写っていなかった。
そこにあったのは……いなかったはずの異形の怪物と……
床に投げつけられたかのような……無惨な女性がいた。
私は悟った。
今、開いてはいけない扉が開かれてしまったという事
今、本当の狂乱が起きはじめようとしている事を。
もう手遅れであるという事を。




