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ふーん act2

何度かの全体練習を乗り越え。

ついに、本番当日になった。


……なお。

練習では、問題のキスシーンだけは立ち位置と台詞の確認だけで終わっていた。

つまり『額への疑似キス』は、ぶっつけ本番である。

何その恐ろしい仕様。


私は舞台袖から、こっそり客席を覗いた。

……人が、多い。


保護者。

在校生。

先生。


想像していた何倍もの観客が体育館に集まっている。


(こんな所で、本当に演技するの?)


胃が痛い。

いや、姫役の更紗さんに比べれば、私の出番なんて少ない。

少ないんだけど、だからといって緊張しない理由にはならないのだ。


私は隣にいる更紗さんへ目を向けた。

彼女も流石に少し緊張しているようだった。

けれど、それでもクラスメイトと笑って話すくらいの余裕は残っている。

羨ましい。


「それでは次の演目」


放送係の声が響く。


「眠れる森の美女です」


幕が開いた。

開いてしまった。


舞台の上では王様とお妃が赤ん坊の誕生を祝っている。

妖精たちが祝福を授け。

最後に現れた魔女が呪いを告げる。


時は流れ。

姫は美しく成長し。

隣国の王子との交流を……。


「あ」


私は気付く。


「私だ」


王子の出番だった。


舞台へ出なきゃ。

歩かなきゃ。

台詞も言わなきゃ。


……あれ。


足が動かない。

胸が、どくどくと鳴っている。

頭の中が真っ白になる。

何を言えばよかったけ?

どう歩けばよかった?

何を。

私は。


いや違う。

こんな時は。

困った時は。

理想の自分を。

架空の自分を思い描いて。


「ふーん」


頭の中で何かスイッチが切り替わった気がした。

次の瞬間。

頭の中の霧が、すっと晴れていく。

身体が自然と前へ出る。

姿勢を正し。

胸を張り。

練習で何度も繰り返した動きが、淀みなく身体から溢れ出した。


「君の美しい瞳に、ボクは心奪われた」


客席が静まり返る。

自分でも少し驚いた。

緊張で棒読みになると思っていたのだが。

若干過剰な演技になっている気がする。

……まあ、それくらいが舞台ではちょうどいいのかもしれない。


こうして私の前半の出番は、何事もなく終わった。


舞台袖へ戻った瞬間、全身の力が抜ける。

今は成功した興奮で誤魔化せている。

でも。


今日、自宅へ帰って。

お風呂に入りながら、この台詞を思い出したら。

私はきっと。

頭を抱えて湯船の中でジタバタするんだろうなぁ。


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