君の美しい瞳にボクは
更紗さんとの会話の余韻が、まだ胸の中に残っている。
なんとなく、それなりにやる気が出てきていた。
今なら、少しぐらいなら頑張れる気がする。
そんな気分で、家に帰ってから脚本を開いてみた。
まずは王子の台詞をチェックしようとページをめくっていく。
すると最初に目に入ったのは。
「君の美しい瞳にボクは——」
バタン。
無意識に本を閉じた。
なにこれ。
なにこの台詞。
こんなの、人前で言うの?
舞台の上で?
私が?
更紗さんに?
ガクガクと膝が震え出す。
無理だ。無理無理無理無理。
どこをどう頑張っても無理だ。
あんなに調子乗って「出来る限り頑張る」とか言った自分を全力で殴りたい。
気づけば私はスマホを手に取っていた。
そして、無意識に更紗さんの電話番号に発信していた。
――人生初、更紗さんへの電話だった。
繋がった瞬間、私はこう告げた。
「むり」
そして即切断。
布団に潜って現実から逃げようとしたその時、即座にスマホが鳴った。
表示された名前に心臓が跳ねる。
迷った末、申し訳なさが勝ち、受話ボタンを押す。
「明日、デートしようよ」
第一声がそれだった。
脳がパンクした。
◇
そして翌朝。
私は更紗さんと図書館に来ていた。
「役柄についてもう少し知りたいの」と言われてのことだった。
駅で合流した時、まず目に入ったのは彼女の服装。
淡いクリーム色のワンピースに、同系色のカーディガン。
ふわっとしたスカートの揺れと、揃えられた白い靴。
ほんのり香るシャンプーの匂いに、柔らかく結ばれた髪。
隣を歩くだけで、まるで春の精霊と一緒にいるみたいだった。
可愛い。
すごく可愛い。
……それに比べて、私はというと。
黒のロングスカートに、同じく黒のタートルネック。
柄も装飾も一切ない。
地味と言えば地味だが、母からは「どこか鋭い雰囲気を纏ってる」との謎の評価を得ている。
「しまった……普通に制服で来ればよかったかも……」
ぼそっと呟くと、更紗さんがすぐに反応する。
「えっ、澪ちゃんすっごくかっこいいよ?黒が似合うし、なんか騎士様みたい!」
その言葉に戸惑いつつも、少しだけ胸があたたかくなる。
ま、まぁ……姫に仕える者としてはそれで良いのかもしれない。
王子役だし。
たぶん。
きっと。
自信なくそう考えた瞬間、彼女がぴたりと立ち止まり、指を唇に当ててきた。
「めっ」
きょとんとしていると、彼女は笑って囁いた。
「今日は王子様とお姫様の役柄を知る日なんだから、出来れば王子様としての演技をしてほしいな」
……割と無理難題だと思う。




