伏線ゼロ
たとえ更紗さんが私に一票を投じていたとしても、それだけで王子役が決まるなんてこと、あるわけがない。
そう自分に言い聞かせながら、私は教室の前に掲げられた投票結果を見つめていた。
朝倉――4票。
久保田――3票。
その他の候補者は、名前がずらずらと並んで、いずれも1票か2票。
……おかしい。
どう考えても、おかしい。
「姫」として更紗さんが選ばれた時は、クラス全体が納得した雰囲気だった。
けれど今は、たった4票で「王子様」が決定してしまおうとしている。
いや、これ絶対にシステムに欠陥がある。
民主主義の敗北。
再投票すべきだ。
やり直し、やり直し!
心の中で懸命に抗議のプラカードを掲げていたけれど、現実は無情だった。
クラスの皆はメインキャストが決まったことで一気に盛り上がり、拍手が飛び交っていた。
普段ほとんど話したこともないような女子が、私の肩をポンと叩いてくる。
「応援するよ!」
あ、この子、確か更紗さんと仲良かった子だ。
……もしかして、投票したの、キミ?
問い詰めたい。
でもできない。
そんな勇気、私にはない。
だからせめて、できる限り絶望を顔に出さないように、私は努めて無表情を貫いた。
――負けてたまるか。
……いや、勝ち負けじゃないのだけど。
こうして、私は「眠れる森の美女」の王子様役に抜擢されてしまった。
唯一の救いは、王子の出番があまり多くないことだ。
というか、前半にはまったく登場しない。
姫が森の奥で茨に包まれて眠りについたあと、突然やってきてキスをするという、物語的には超便利枠。
登場の理由は「たまたま通りがかったから」らしい。
伏線、ゼロ。
納得いかない。
物語構成として破綻している。
私だったらこんな脚本にはしない。
「古くから両国に友好関係があって、王子と姫は幼なじみ。
でも政略のもつれで国交が断たれ、それでも会いたい想いを抑えきれず、王子は密かに森を訪れる――
そして茨の奥、眠る姫を見つける……!」
私はそんな設定を熱弁した。
……下校途中の、更紗さんに。
彼女は、ニコニコと、まるで太陽のような笑顔で私の妄想話を聞いてくれていた。
あんなこと、言わなきゃよかった。




