◆640◆
「でも、シェルシェが出演するユールズモンのCMは見たかったなー。悪の組織の女首領に扮したシェルシェがずらりと居並ぶイケメン戦闘員に指令を下している場面は絶対カッコいいと思うんだよー」
シェルシェの出演拒否によりお蔵入りとなった突拍子もないCM案の内容を、冗談とも本気ともつかぬふわふわとした口調で解説するコルティナ。
「とても宝飾店のCMとは思えませんが。子供向けのヒーローショーのCMと間違えていませんか?」
付き合いは長いが冗談と本気の境目がないこの親友の発想に時々付いていけなくなるシェルシェ。
「そこは大丈夫ー、無駄にお洒落な演出で大人向けの雰囲気にするからー。宝飾店のCMは『日常とかけ離れたキラキラ感』が基本だよー。対して子供向けのヒーローショーのCMは、『日常と隣り合わせのワクワクドキドキ感』が大事だねー。『ヒーローと握手しにおいでよ!』的なー」
「なるほど、それぞれのCMに合った演出があるのですね」
「そーそー。逆にその辺を押さえてさえいれば、何をやっても自由な所があってねー。実際、宝飾店のCMって日常とかけ離れ過ぎて意味不明なモノも多いよー。ミノンが怪獣の着ぐるみ姿で大暴れしてたCMなんかは、その最たるモノだったでしょー?」
「アレは本人も大層気に入ってました。スカした色男を演じるより、ずっと楽しかった様です」
「ミノンは根がやんちゃな男の子だからねー。まー、本人の素の性格とまるっきり違う役を演じて人気が出るのはよくある事だけどー」
「あなたが演じている役はほとんど素の様な気がしますが。まあ、あなたやパティの様な芸達者と違って、武芸一筋のミノンには少々荷が重かったかも知れません」
「それで最後くらいはわがままを聞いてあげたって事ー? 妹思いの優しいお姉ちゃんだねー」
「もちろん、慣れないタレント業から解放されたミノンが三冠を達成してくれればマントノン家にとっても最高の宣伝になる、という下心もなくはないですが」
「優しいお姉ちゃんの正体は、巨大怪獣を操る悪の組織の女首領だったかー。でも、そう簡単に三冠は達成させないよー」
「ええ、簡単ではないでしょうね」
そこでシェルシェは、ふふっ、と笑い、
「ですがどんな結果であれ、あの子が心置きなく戦えたのであればそれで構いません。大人の事情など無視して暴れ回ってこその巨大怪獣です」
優しいお姉ちゃんそのものの穏やかな表情となった。
「何て事だ! 悪の組織の女首領が浄化されているー!」
その穏やかな表情を茶化すコルティナ。
「まあ、それはそれとして」
それをスルーした上で、穏やかな表情から一転、妖しげな笑みを浮かべ、
「CMを降板すれば契約上は広告主との関係が切れますが、世間はそんなに早く切り替えられるものでもないでしょう。しばらくはそのCMと縁付けられたままのイメージが残るものです」
世界征服を企む悪の組織の女首領そのものの表情になるシェルシェ。
「そーだねー。エーレとアウフヴェルツ、私とアトレビドなんかがいい例だねー」
「つまり、次の大会におけるミノンの活躍は、まだユールズモン宝飾店にとってもいい宣伝になるのではないですか?」
「なるねー。しかも、『大会に全力で臨む為にあえて契約途中でCMを降りた』っていう、熱いストーリーが背後にあるから、世間からの注目もバシバシ集まるよー」
「ならば、ユールズモンにとってミノン降板による業績悪化を避ける最善手は、『CM降板後もミノンを応援しています』という姿勢を公にアピールする事だと思うのですが、いかがです?」
「うふふ、その通りだよー。ユールズモンの好感度は爆上がりだねー!」
「では、その方向で調整をお願いします。広告戦略については疎いものですから、具体的な手段については全てお任せしますね」
「そこまで計算出来てるなら立派な戦略家だよー。やっぱりシェルシェは悪の組織の女首領だねー」
「ふふふ、女首領である事は認めますが」
親友の軽口に妖しく笑いつつ、
「断じてマントノン家は悪の組織ではありません」
そこだけはきっぱりと否定するシェルシェ。




