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5/11

元カノ、高度な復讐計画の対象となる

「……結局、日向坂ちゃんとメシ食ったわけ? ははは。りっくんらしいね」




 五時間目の開始を待つ教室。前の席から振り返った竜水が、からかうような笑みを浮かべて俺を見ていた。




「不可抗力だ。あいつが二人分サイズの弁当なんか持ってくるから、見かねて処理を手伝ってやっただけだ」




 俺は視線を逸らし、淡々と答える。




「へえ。処理ねえ。まあ、そういうことにしておいてあげるよ」




 竜水は何かを見透かしたように肩をすくめると、前を向いた。




 ……クソ。なんか勘違いしてやがるな、コイツ。コイツは中学時代の俺と日向坂の関係及びその結果と予後を知っているだけに、始末が悪い。いや、当時はコイツのおかげで色々助かったがそれはそれだ。今は始末が悪い。




 俺は奥歯を噛み締め、机の下で拳を握った。




 やがて予鈴のチャイムが鳴り響き、気怠げな空気とともに五時間目の授業が始まった。


 教師の単調な声が子守唄のように響き、チョークが黒板を叩くコツコツという音が規則的に教室に響き渡る。いつもなら板書を一言一句逃さずノートに書き写す俺だが、今の視線はまっさらなノートに向けられたまま、焦点すら合っていなかった。


 黒板の文字など脳を素通りしていく。


 シャープペンシルを指先で弄りながら、昼休みの自分の行動を思い返すと、一瞬、己の失態にじわりと冷や汗が滲んでくる。




 完璧な『ざまぁ』を執行するはずが、結果だけを見れば『友達から』などという妥協案を飲んでしまったからだ。




 だが、断じて俺は、あいつの健気な態度や甘い卵焼きにあっさりと絆されたわけではない。




 二年間、血反吐を吐くような思いで自分を磨き上げてきた俺が、あんなチョロい真似で陥落するはずがないのだ。




 俺の本来持つ、これまで鍛えてきた集中力は、今や学業ではなく、己の行動の正当な理由を認識するために稼働していた。




 そうだ。よく考えろ。そもそも、通常の『今更もう遅い』と突き放すだけの短期的な『ざまぁ』は、あいつには効かなかった。あいつは泣き崩れるどころか、もちなおした明るい笑顔を浮かべて『第二ラウンド』などと宣言してきたのだ。





 だからこそ、俺の頭脳は無意識のうちに、より高度で残酷な復讐へとシフトしていたのだ。




 いいだろう。そっちがその気なら、俺も第二ラウンドに移行する。




 あいつからの『お友達から』という提案を受け入れたのも、決して絆されて妥協したわけではないし、あいつの哀しそうな顔をみたくなかったからでもない。長期的な視点に立ち、あいつをより深い絶望に突き落とすための布石として、俺の直感が瞬時に判断し、あえて受け入れたに過ぎない。





 俺はノートの端に意味のない直線を何本も引きながら、口元を片手で覆う。




 あいつは俺に好意を寄せ、『友達』という名目で近づいてくる。俺はそれを甘んじて受ける。一緒に登校し、弁当を食い、時には休日を共に過ごすかもしれない。




 あいつは俺との関係が前進していると錯覚し、期待を膨らませるだろう。




 だが、俺は絶対に絆されない。




 あいつが高校生活という、人生で最も輝かしい青春の二年間を俺に費やし、俺への想いを極限まで高めたところで――最後はこっぴどく振る。




 俺が苦しんだ二年間と同じ、いや、それ以上の時間を無駄に消費させた上で、絶望のどん底に突き落としてやるのだ。もちろん、その間に俺に新しい彼女ができても構わない。友達『から』始めたいという希望には応えた。だが、友達『で』終わることは当然あり得るし、文句を言われる筋合いはない。日向坂は、貴重な高校生活を報われない片思いでドブにすてるのである。




 これぞまさに、『2カ年限定・青春浪費ざまぁ計画』……!




 完璧だ。我ながら、完璧な論理構築だ。




 これなら、あいつからのアプローチを全受領しても、それは単なる『計画の遂行』に過ぎない。俺のチョロさなど微塵もない。すべては俺の手のひらの上での出来事なのだ。弁当も食おう。美味しいからな。





 自分の中で完璧な大義名分を確立した俺は、不意に斜め前、少し離れた席へと視線を向けた。




 と、その視線に気づいたのか、日向坂がふいにこちらを振り返る。


 ばっちりと目が合った。




 日向坂は一瞬、「えっ?」と驚いたように丸く目を見開いた。俺から自分に視線を向けているという事実が信じられないのか、ほんの少し戸惑うように瞬きをする。だが、次の瞬間には頬を淡く染め、嬉しさが溢れ出したように目尻を下げた。




 そして、教師にバレないように胸元の高さで小さく手を振り、底抜けに明るい笑顔を向けてくる。やっほー、と言っているのが口の動きでわかる。




「…………」




 俺は無表情のまま、ゆっくりと視線をノートに戻した。だがその内心では、口元を歪めて邪悪な笑みを浮かべていた。




 ……ふふふ。俺の恐ろしい計画も知らずに……。




 笑っていられるのも今のうちだ。




 お前の貴重な青春は、俺が根こそぎ奪い取ってやる。


 せいぜい、今のうちに期待に胸を膨らませておくんだな。




 俺は『青春浪費計画・進行中』と、誰にも読めないような乱雑な字でノートの端に書き殴った。

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― 新着の感想 ―
チョロさ丸出しの自分を正当化するためだけの言い訳乙 クソ女が最初にきちんと謝ってればこの展開で楽しめたと思うけど、 そうじゃないからここで離脱です
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