奇跡
今日もありがとうございます。
また俺は試乗車を用意して、みさきの家へ向かった。
何度目だよ、この展開。そう思いながらも、どこか期待している自分がいた。
インターホンを押すと、扉の向こうから現れたのは――
みさきと、そしてあの男。
「おお、来たか」
出た。たぬき親父。
今日も相変わらず、金時計がいやらしく光っている。
(今回はこいつも一緒かよ……)
正直、面倒くさい。だが逆に考えれば――
このたぬきを落とせば、一発で決まる。
「今日はぜひ、お父様にも乗っていただきたくて」
俺は営業スマイルを貼り付け、丁寧にドアを開けた。
みさきはクスッと笑い、たぬきは満更でもなさそうに鼻を鳴らす。
「ほう、気が利くじゃないか」
(よし、食いついた)
試乗が始まる。
最初は腕を組んでいたたぬきも、次第に前のめりになり――
「この加速、悪くないな」
「静かだな、これは」
明らかに態度が変わっていく。
みさきは助手席でニヤニヤしている。
こいつ、完全に面白がってやがる。
だが――今日は違う。
「実はこの車、今かなり条件も良くてですね」
自然に言葉が出る。
焦りも、空回りもない。
気づけば、たぬきは俺の話を真剣に聞いていた。
「お前、なかなかやるな」
その一言で、空気が変わる。
(……いける)
団塊世代の小金持ちに効く、伝家の宝刀――
そう。
値引きだ。
俺が毎日パチンコ屋で培った、
値引きのためのパチンコ
「ここまで下げられるのか……?」
たぬきの目が、ドルにゆっくりと変わる。
さっきまでの威圧感は消え、そこにあるのは――ただの欲望。
(かかったな)
「今日決めていただければ、この条件は……正直、どこのディーラーでもでないです」
静かに、しかし確実に追い込む。
たぬきは腕を組み、うなる。
だが視線は、もう完全にこちら側だ。
みさきは横でニヤニヤしている。
完全に面白がってやがる。
「……よし、それでいこう」
来たーーーーー!
「ありがとうございます!」
頭を下げながら、心の中でガッツポーズ。
(ちょろいぜ)
店に戻る道中、風もないのに――
あのたぬきの上機嫌な様子が、やけに印象に残った。
今回は――
俺の勝ちだ。
今後もよろしくお願い致します。




