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結婚…(涙)
よろしくお願い致します。
結婚——
その言葉が、こんなにも重いとは思わなかった。
周りは、完全に固められていた。
逃げ道は、もうない。
それでも、俺にはひとつだけ、確かめたいことがあった。
……本当に、俺の子なのか。
頭ではわかっている。
疑うべき状況だということは。
だが——
今の俺に、それを確かめる術はなかった。
言えば終わる。
言わなくても、終わっている。
このまま、話は進んでいく。
「別に、うちの会社を継ぐ必要はないぞ」
たぬきは、そう言った。
だが、その口調は優しさとはほど遠い。
「うちは、この地で百年続く建設会社だがな」
わざとらしく、時計を見せつけるように腕を動かす。
「まあ……一人娘に手を出したんだ」
ニヤリと笑う。
「それ相応の責任は、取ってもらうがね」
ネチネチとした言葉が、じわじわと絡みついてくる。
逃がさない。
そう言われているようだった。
さらに——
「ねぇ、仕事もうちでやればいいじゃん」
みゆきが、軽い口調で言う。
「そしたら、ずっと一緒にいられるし」
……冗談じゃない。
ここで、あの会社に入ったら終わりだ。
完全に囲われる。
仕事も、生活も、全部。
俺は——
奴隷になる。
それだけは、わかっていた。
富裕層の一人娘には気をつけてください。




