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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第2章 アステリア編

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74. 復興の先へ

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王都に平和が戻り、旅立ちの朝が近づいていた。アルスは自分のことのように期待に目を輝かせ、親友の肩を叩いた。


「エディは俺たちと一緒にくるよな!」


だが、エディは拳を握りしめ、苦しそうな表情でうつむいた。その瞳には、喜びよりも深い諦めが滲んでいる。


「……ごめん、僕はいけないんだ。僕はこの地……アステリアという座標から離れられないんだよ」


「そんな……」


かつての「脚本」が彼に刻み込んだ、見えない鎖。それが今も彼を縛り付けていた。

その時、静かに佇んでいた守護神アステリオンの瞳が、青く優しく発光した。


『エディ。……君はもう、自由だ』


「え……?」


『「光の脚本」と「闇の脚本」は、ルーナマリアの手によってその呪縛を解き放たれている。システムとしての制約はもはや存在しない。お前を縛るものは何一つないのだ。お前自身の足で、お前の物語を歩むといい』


「…………!」


エディの瞳に、初めて「希望」という名の光が灯った。それを見逃さず、エルナがギルバートの服の裾をぎゅっと掴んで見上げる。


「おとうさま! いいでしょ!? エディくんも一緒に連れていって!」


ギルバートはふっと口角を上げ、息子と、そして新しく仲間に加わろうとしている少年を頼もしげに見つめた。


「ああ、もちろんだ。……ふっ、カイルの反応が楽しみだな。あいつのことだ、また泣き言を言いながらも、全力で面倒を見るだろう」


その頃、遠いヴォルフラムの地で、留守を預かるカイルの右腕がゾクリと震えたが、それを知る者はまだ誰もいなかった。

その後、一行は合流したカイエンと共に、マキナの実家である屋敷へと戻った。

マキナの両親は、娘が無事であったこと、そして国が救われたことに涙を流して感謝した。


「本当に……ありがとうございます。マキナを、これからもよろしくお願いします」


「お父様、お母様、いいのですか……? その……ボクはヴォルフラムへ戻ります。跡継ぎが、いなくなってしまいますが……」


申し訳なさそうに視線を落とすマキナに、父は穏やかな、しかし決意の籠もった声で告げた。


「それは私たちも悩んだ。でもな、私たちは、お前が生きていてくれただけでもう充分なんだよ」


「お父様……」


「親戚筋を頼ろうとも思ったが……。エディくん、もしよかったら、うちの子にならないかい?」


「えっ……?」


驚きに目を見開くエディに、マキナの父が優しく歩み寄る。


「養子として、君を正式に迎え入れたい。君はこれからヴォルフラムで沢山のことを学び、広い世界を見てくるんだろう? そしていつか、この地に帰ってきて、学んだことを伝えてくれると嬉しい。……どうかな?」


「!!! エディがボクの弟になるのか! 最高じゃないか!」


マキナが歓喜の声を上げ、エディの頭をくしゃくしゃに撫で回す。


「……僕に……おとうさんと、おかあさんと、おねえさんが、できるの……?」


エディの声が震える。これまで「物語の部品」としてしか存在を許されなかった少年が、初めて「個」として愛された瞬間だった。


「一件落着だな!」


アルスの明るい声が合図となり、エディの目から堰を切ったように涙が溢れ出した。


「う、うああぁぁぁ……っ!」


マキナとマキナの両親が、泣きじゃくるエディをそっと、しかし力強く抱きしめる。

屋敷の庭に咲き誇る花々の香りと、家族という盾に守られた柔らかな陽だまりの中で、エディは初めて知る「家族」の温もりに包まれた。彼は涙で顔を濡らしながらも、朝日よりも眩しい、最高の笑顔を見せた。

それからしばらくの間、一行は王都の復興を手伝いながら過ごした。

エディはマキナの両親から溢れんばかりの愛情を注がれ、アルスたちと共に平和な時間を噛み締める。



そして、ついにその日がやってきた。ヴォルフラム領へ向けて出発する、お別れの日が――。

出発の準備が整い、広場には別れを惜しむ人々が集まっていた。相変わらず調子の良い声を響かせているのは、合流したばかりのカイエンだ。


「なんや、騒がしい旅路やったで! でもな、おもちゃ屋3号店を王都の一等地に構える契約はバッチリや! これからは魔道具仕掛けのロボット人形もガンガン売り出していくで。アステリアの復興景気、ワイが盛り上げたるからな!」


「お前は本当に……。国がひっくり返るような大事件の最中にも、商売の種を見つけていたのかい」


呆れ顔で吐息をつくネレイスだったが、「そういうネレイス様こそ、その手荷物はなんなんですか!」とカイエンに指差されると、少しだけ頬を染め、自慢げに抱えた荷物を叩いた。


「いやぁ、買い物というのが楽しくてついつい買いすぎてしまったよ。脚本の中に閉じ込められていたとはいえ、アステリアの最新魔道具は素晴らしいな! 」


満足げに微笑む彼女の足元には、見慣れない意匠の箱が山積みになっている。

賑やかに言い合う二人を横目で見ながら、エディは時折振り返り、遠ざかるアステリオンの巨体と、新しくできた「両親」の住む街を名残惜しそうに眺めた。だが、アルスに手招きされると、決意を宿した瞳で力強く前を向いて歩き出した。


長い船旅も終わり、一行はエルバイン王国の港に着いた。

ゼクスは静かにギルバートの前へ進み出た。


「私はここでお別れです。ギルバート様…いや、ギルバート陛下。同じ王として、私はエルバイン王国の復興にすべてを捧げる所存です」


「あぁ。復興も大変だが、お前は妃選びも難儀しそうだ。……応援しているぞ」


ギルバートが揶揄うように笑うと、ゼクスの顔が瞬時に真っ赤になった。


「きさ……! そ、そうですね……。復興が終わったら、ゆっくり、本当にゆっくり考えますよ! それよりも、お二人の戴冠式と結婚式、楽しみにしていますね」


(そうだった……すっかり忘れてた……)


ルーナの脳裏に、かつての「夏」の記憶が蘇る。思わず泳ぐ視線を、ギルバートの鋭い眼光が捉えた。


「ルーナ、まさか……」


「いや、ほら! そんな事考えてる余裕もなかったし! あはは~!」


「ゼクス陛下、改めてこの子たちを守ってくれてありがとうございました」


ルーナは照れ隠しに声を張り、ゼクスの手を取って深く感謝を伝えた。


「復興のお手伝いは任せてね! ヴォルフラムからも色々と支援を送るように手配するから」


「心強いです。この世界全ての人々の心に『ヒーロー』が宿れば、きっと平和な世界であり続けることができるはず。ルーナマリア様、あなたのその意志をエルバイン王国でも広めてみせます」


ゼクスは深く頭を下げた。

だが、ふと視線を感じて顔を上げると、そこには自分の妻の手を握られたことで、あからさまに眉間に皺を寄せ、ムッとした表情を浮かべるギルバートが立っていた。


「……ギルバート陛下、そんなに睨まないでください。ははっ!これではルーナマリア様も、この先大変そうだ」


ゼクスは肩をすくめて苦笑した。相変わらず、最強の騎士と謳われる男も、愛する妻のこととなると形無しらしい。


「……余計な心配だ。行くぞ、ルーナ」


ギルバートはルーナの手をゼクスから取り返すように引くと、促すように馬車へと歩き出した。


「心にヒーローを宿す……か。そんな強い女性に、私もいつか出会えるだろうか」


ゼクスは小さく呟いた後、誰もいなくなった街道の先を見つめた。


別れを済ませた一行は、エルバインの国境を越えた。

それから馬車に揺られること一日。懐かしい森の匂いと、慣れ親しんだ街道の景色が広がる。

夕闇に包まれ始めた頃、木々の隙間から、黄金色に輝く夕日に照らされたヴォルフラム家の屋敷の尖塔が見えてきた。

門前では、エルバイン王国から知らせを受けていたカイルが、一分の隙もない姿勢で待っていた。


「お帰りなさいませ。皆様、お怪我はありませんか?」


いつもの冷静沈着な、鉄壁の執事。その姿を見た瞬間、ルーナは馬車の窓から身を乗り出して大きく手を振った。


「ただいま、カイル! ちょっくらアステリア国を救ってきたよ!」


「…………はい?」


カイルの眉間が、わずかにピクリと動く。


「国を……救った、とは?」


「エディっていう新しい仲間も増えたし、 詳しい話は中でね!」


「……またあなたは誰かをたらかしてきたんですか。しかも今度は子ども……。やれやれ、右腕の震えの正体はこれでしたか」


カイルは天を仰ぎ、深く、深いため息をついた。しかし、その後に続く「お帰りなさいませ」という小さな呟きには、主たちが無事に戻ったことへの安堵が滲んでいた。


「皆様。……まずは、お風呂とお食事の準備をいたしましょう」


カイルが重厚な扉を開け放つと、屋敷から温かな灯りが溢れ出す。

騒がしくも温かなヴォルフラム家の日常が、再び動き出そうとしていた。

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