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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第2章 アステリア編

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73. 私たちの物語

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黄金の巨人・アステリオンと、銀色の巨人・エディ。

二大巨人は地響きを立てて突撃を開始した。アステリオンが重厚な装甲で巨獣の猛攻を受け止め、その隙をエディが超高速の銀光となって突き抜ける。

マキナは操縦席から、隣で戦う銀色の巨体を見上げた。


「アルスが言っていたけど……君はエディくん……なのかい?」


銀色の巨人が、慈しむような、しかし力強い動作でゆっくりと頷いた。


「……よし。ボクも腹は決まったよ。一緒に、この腐ったシナリオを書き換えよう!」


マキナの叫びと共に、アステリオンが巨獣の首を強引に抑え込む。そこへ、エディが全身の光を拳に集め、魂を込めた一撃を放った。一体の巨獣が、結晶となって粉々に砕け散る。


「よっし!」


マキナが喜んだのも束の間、 残る二体は執拗だった。一体がアステリオンを拘束し、もう一体が死角からエディの背後を強襲した。


「エディ!!」


「……っ……!」


背後から雷撃を受け、銀色の巨人が膝をつく。マキナのアステリオンもまた、過負荷で機体各所から火花を散らし、ピンチに陥った。

絶望が王都を覆おうとした、その時――。


「がんばれ! がんばれエディ! マキナ!」


アルスが声を限りに叫んだ。


「がんばれーーー!!! 負けないでーー!!!」


エルナがステッキを掲げ、小さな光を天に送る。


「がんばれ!!!!!!」


ルーナの叫びに呼応するように、避難していた人たちが一人、また一人と窓から、崩れた壁の向こうから声を上げた。


「がんばれ!!!」「負けるなーーー!!!」


王都中を包み込む、何万もの祈りの声。


(そう……これよ。ヒーローはここから逆転する。みんなの応援が力に変わる……これが、物語の黄金律!)


ルーナが目頭を熱くして見守る中、アステリオンのコクピットに変化が起きた。


『……まったく、見ていられませんね。マキナ、これを使いなさい』


「しゃべっ……!」


マキナが驚愕する間もなく、黄金の台座が更なる変形を遂げ、機体の右腕に眩い輝きを放つ黄金の剣が実体化した。


「やっぱり喋るタイプのロボットだった! きたーーーーー!!!! これぞ王道!!」


興奮するルーナの期待に応えるように、アステリオンは黄金の剣を一閃。拘束を断ち切り、エディの手を引いて立ち上がらせた。

銀の巨人はその手を取り、全身から銀河のような光を放出する。アステリオンの黄金の剣がその光を吸い込み、巨大な光の刃へと膨れ上がった。


かつて、アステリアの王子、リュシアンに魔獣の群れに放り込まれ、命からがらヴォルフラムまで逃げてきたあの日。

戦争になったあの戦いでは、自分が行けば足手まといになると思って、ボクの作った魔道具に全てを託した。……いや、それは体裁のいい言い訳だ。本当は、単にもう二度と、アイツに会いたくなかった。アイツに屈した惨めな自分を、思い出したくなかったんだ。


「……でも、神様はボクにチャンスをくれたんだね」


操縦桿を握る手に、力がこもる。

この燻った気持ちも、逃げ出した弱さも、アイツへの恐怖も、全部この一発に込めて――!



「ボクはもう、逃げない……! アステリオン、ボクの魂(魔力)を全部持っていけ!!」



「これで、終わりだぁぁぁ!!!」



黄金の斬撃と、銀の破壊光線が同時に放たれる。

残る二体の巨獣は、その圧倒的な輝きの中に飲み込まれ、世界のバグを消去するように跡形もなく消滅した。



静寂が訪れる。

王宮を包んでいた禍々しい光が霧散し、戦場には柔らかな朝日が差し込み始めていた。光の柱がゆっくりと収束し、そこから小さな人影が姿を現す。


「エディ!!!!! 」


アルスを先頭に、みんなが土煙を上げて駆け寄った。


「お、終わった……?」


誰かが呟いたその声が、合図だった。



「わーーーー!!!!!!」



地を震わせるような、凄まじい歓声が上がった。屋敷に身を潜めていた人々、遠巻きに戦いを見守っていた住人たちが、一斉に広場へと駆け出してくる。抱き合い、涙を流し、空に拳を突き上げる人々。その中心で、アルスとエディは互いの無事を確認するように、力強く腕をぶつけ合った。



「かっっっっこよかった、エディ!」

「エディくん、カッコよかったよ!」


「あ、ありがとう……」


人間らしく、少し照れながら笑うエディ。その姿を、ギルバートやゼクスたち大人たちが、温かく、そして誇らしげに見守っていた。


『……素晴らしい戦いでした。君たちはこの国を、いえ、世界を救ってくれた。心から感謝を』


アステリオンの重厚で知的な声が、周囲に響き渡る。


「あなたは……一体?」


ルーナが尋ねると、黄金の巨人は静かに視線を落とした。


『私は、管理者のこの子と共に、あの台座へ封印されていた守護プログラムのようなもの。永きに渡り、アステリアの安寧を見守ってきました』


その時、王宮から馬を飛ばしてきた騎士が、戦慄の表情で転がり込んできた。


「……王と、王妃が消えた……?」


屋敷に戻り伝えられたのは、信じがたい報告だった。王族の二人は、巨獣が倒された瞬間に塵となって消滅したというのだ。


「虚像だったのか……」


ゼクスが呟く。アステリオンは静かに首を振った。


『元からこの国には、管理者のこのエディと共に、「光の脚本」と「闇の脚本」が眠っていました。アステリア王家はそれを代々守ってきたのです。……しかし、代替わりするにつれ、彼らはその力を我がものにしようとし、禁忌の封印を解いた』


『神にでもなろうとしたのでしょう。光の脚本と闇の脚本を統合すれば世界を書き換えられる。この世界の何もかもを自分のものにしようとした代償――自らをも脚本の一部に変え、物語バグの消滅と共に存在そのものが消えてしまった。自業自得の末路です』


「でも、エディはなんであんな巨人になったの?」


ルーナが不思議そうに首を傾げると、エディがフィギュアを握りしめて答えた。


「イメージしたんだ。僕の中のヒーローを。最初はアルスに貰ったこのスターレンジャーだったんだけど……。なぜか、もっと強く浮かんできたのが、あの銀色の巨人だったんだ」


『君が思い浮かべたヒーローが、それだったんじゃないか? ……ルーナマリア』


「え、私!?」


指を差されたルーナが、漫画のように飛び上がる。アステリオンの青い瞳が、彼女を真っ直ぐに見つめた。


『「光の脚本」は――君の中にある。この世界を救いたいと願った君の魂が、最も正しい形でエディに力を貸したのだよ』




「え、えええええええええええぇぇぇぇ!!! 私が脚本!? 私が世界を救う設定なのーー!?」




絶叫し、頭を抱えてその場にしゃがみ込むルーナ。



「……私の前に『闇の脚本』が現れたのはなぜなんだい?」


ネレイスが、苦い記憶を噛み締めるように問う。


『脚本は、求められた者の前に現れる。……あなたは、何かを強く求めていた。そうではありませんか?』


「…………。っ、そうだね」


ネレイスは自嘲気味に笑い、空を見上げた。奪われた誇りか、あるいは失った過去か。闇は彼女の心の隙間を突いたのだ。


ルーナは頭を抱えたまま顔が青ざめていく。

何か恐ろしいことに気づいたように、震える指先で自分を指差す。


「……ってことは、私が、みんなを危険に晒してたってこと!? 私がこの世界に来たから、こんな大事件が起きて、みんなが死にそうになって……」


もし、自分が「物語の起点」だとしたら。

今まで一緒に笑い、戦ってきたギルバートやアルスたちの苦難さえも、自分の存在のせいだったのではないか。その考えがルーナの胸を締め付ける。

耐えきれず、ルーナの瞳から一粒の涙がこぼれ落ちそうになったその時。


「……何を馬鹿なことを考えている」


低く、落ち着いた声と共に、温かな温もりがルーナを包み込んだ。

ギルバートが、震える彼女の肩をそっと抱きしめたのだ。


「ギル……」

「お前がいたから、俺は過去と向き合うことができた。アルスもエルナも、お前がいるから笑っていられる。お前がこの世界に、俺の元に来てくれたことを、俺は一度だって呪ったことはない」


ギルバートは、ルーナを安心させるようにその背中を大きく、優しい手つきでさすった。


「苦難など、生きていればいくらでもある。だが、それを希望に変えてくれたのは脚本システムじゃない。お前だ、ルーナ」


その腕の強さと、胸に伝わる確かな鼓動に、ルーナの強張っていた心がゆっくりと解けていく。


アステリオンの瞳は、どこまでも穏やかに彼女を見つめていた。


『ルーナマリア。……光の脚本があなたに惹かれたように、あなたはただ、出会いを引き寄せていただけだ』


「引き寄せた……?」


『ええ。物語がどう動くか、結末がどのようなものになるのか。それは文字に刻まれた運命ではなく、この世界に生きているあなた達が、その時々に悩み、選び、作り上げたものなのです』


「ネレイスの前には、ちゃんと『闇の脚本』が本として現れたんだよね? なのに、なんで私の場合は体の中にあるの? 食べた記憶もないし、そもそも本なんて見てないよ?」


ネレイスも、かつて自分の前に現れた禍々しい「本」の感触を思い出し、アステリオンを見上げる。


『脚本とは、意志の器。ネレイスは力を「手段(道具)」として求めた。だがルーナマリア、あなたは異質な魂の持ち主だ。身に覚えがあるだろう?脚本にとって、あなたは読み書きする対象ではなく、書き記すべき「白紙の原稿」そのものだった。だから脚本はあなたの鼓動と一つになったのです』


アステリオンは黄金の指先を、戦場に立つ一同へと向けた。


脚本システムはただ、舞台を用意したに過ぎません。そこでエディを救いたいと願い、盾となり、拳を振るったのは、脚本の文字ではなく彼ら自身の意志だ。あなたはきっかけを与えたかもしれませんが、この「希望ある結末」を書き上げたのは、紛れもなくあなた達全員なのですよ』


「…………」


ルーナは、隣で自分の手を握りしめているギルバートの大きな手と、自分を見上げるアルスの真っ直ぐな瞳を見た。

脚本が用意した結末ではなく、自分たちが選び取った今。


「……そっか。私のせいじゃなくて、私たちの『成果』なんだね」


ようやく顔を上げたルーナの唇に、いつもの不敵で明るい笑みが戻った。


「ルーナ……君が。……ふふ、道理で。君の周りではいつも面白い『物語』が動き出すわけだね」


マキナが納得したように頷く。しかし、ルーナはまだ混乱と不安の中にいた。


「王族がいなくなっちゃったってことだよね。これからアステリアはどうなるの?」


その問いに、一歩前へ出たのは研究棟にいたはずのセドリックだった。


「それは問題ありません」

「セドリック?」


マキナが問いかけると、彼は身に纏っていた魔道具のブローチを外した。


「俺、実は王の隠し子なんです。ほら」


ブローチの魔法が解けると、そこにはアステリア王家にしか現れないという、鮮やかなオレンジの髪と碧眼の瞳を持った青年が立っていた。


「えええぇ!?」


マキナが驚きで声を裏返すと、セドリックは少しだけ申し訳なさそうに、だが王族としての気品を感じさせる笑みを浮かべた。


「マキナ、黙ってて悪かった。今まで王妃に狙われるのを恐れ、物心つく前から男爵家に預けられて、容姿を魔道具で変えて潜伏していたんだよ。……これからは、リィンと共にこの国を支えていく」


セドリックはリィンと視線を交わし、それからマキナを真っ直ぐに見つめた。


「マキナも……と言いたいところだけど、君は帰る場所がありそうだ」


マキナは一瞬、ヴォルフラム領での日々を思い出し、柔らかく微笑んだ。


「あぁ」


「……君になら、君たちになら、この国を任せることができそうだね」


「マキナ、この国を救ってくれてありがとうな。……元気でな」


セドリックが差し出した手を、マキナは迷わず握り返した。


「あぁ。アステリオンのこと、よろしく頼むよ」


二人は、共に研究に没頭した日々を惜しむように、そして新しい門出を祝うように、力強く握手を交わした。


一件落着の空気が流れる中、アステリオンの巨体が静かに発光を始めた。


『私の役割もここまでです。私はまた、脚本たちと共に、永き眠りにつくとしましょう……』


「ちょっとまったーーーー!!!!」


ルーナの鋭い制止に、アステリオンの動きが止まる。


『!? ……どうしました、ルーナマリア』


「眠らなくていいよ! また代替わりで利用されるかもしれないし、そもそももう『脚本』なんていらなくない!? これ、消せないの!?」


ルーナは全員を見回し、力強く言い放った。


「これからも、私たちの物語は、私たちで紡いでいきたいから!」


その言葉に、ギルバートも、ゼクスも、そしてネレイスも、深く頷いた。誰かに書かれた台本ではなく、自分たちの足で歩く未来。アステリオンの瞳に宿る青い火が、どこか満足げに揺れた。


「……ふむ。あぁ、だから脚本は、あなたを選んだのでしょうね。定められた結末を拒む、その強い意志を」


「あ、最後に脚本に書きたいことある!」


急に目を輝かせたルーナに、みんなが怪訝そうな顔で注目した。


「合体できるロボット、あと4体ぐらい増やしたいな!」


「なんで!?」


全員の声が揃う。マキナも呆れ顔だ。


「だって、アステリオンさん1人じゃ寂しいじゃん! それに、やっぱり5人揃ってこそでしょ!?」


「戦隊の理論をここに持ち出すな!」というツッコミを華麗にスルーし、ルーナはアステリオンを見上げた。


『はははは! 実に面白い。管理者の縛りを解き、ただの『命』としてこの国を見守るのも悪くない。ルーナマリア、あなたが描くこれからの物語、楽しみにしているぞ』


「まっかせて! 超カッコいい合体シーン、考えておくから!」


アステリオンの巨体は消えることなく、この国の守護神としてその場に留まった。

これからアステリアは、いつか現れるであろう「5体の守護ロボット」と共に、新しい歴史を刻んでいく。


誰にも書き換えられない、彼ら自身の物語を。

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