72.金のアステリオンと銀の巨人
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「そりゃ、おまえのために作ったんだから、操縦者はおまえだろ」
背後でセドリックが不器用な笑みを浮かべて言い、リィンも「あはは、確かに」と涙を拭って笑った。
魔導研究棟の静寂を、重厚な機械音が切り裂いた。
マキナが黄金のレバーを引くと、溢れ出した魔力が機体の隅々まで駆け巡り、鋼鉄の巨体に命が宿る。
「……ついに、目覚めたんだね」
マキナの震える声に応えるように、モニターに無数の数式が展開される。
「名前……名前をつけなきゃな。この国の古い言葉で『星の輝き』――その名は、アステリオン!」
アステリオンの瞳が青白く輝き、背部のスラスターが火を噴いた。
「アステリオン、行くぞ!」
「飛んだぁぁぁぁーーー!!!! リアルロボットが空を飛んだよぉ!!」
ルーナの絶叫を背に、アステリオンは重力を振り切り、夜の帳を切り裂いて王都の上空へと舞い上がった。
辿り着いた王都は、地獄絵図と化していた。逃げ遅れた住人たちの悲鳴が響き、崩れた建物の影から下級魔獣が這い出してくる。
「こんなに……ひどいなんて」
「屋敷に身を隠していた人たちが、パニックで外へ出たんだろうね」
「住人たちの避難が最優先ね! ギル、ネレイス、手分けしましょう!」
ルーナたちが救助に回る中、上空からアステリオンが巨獣の前に立ちはだかった。
「これでも……くらえーーー!!!!」
マキナが叫び、操縦桿を押し込む。アステリオンの右拳が魔力を纏い、巨獣の横面に深々とめり込んだ。
ドォォォォォン!! と空気が爆ぜるような衝撃音が響き、山のような巨獣が大きくよろめく。
「よし、効いてる!」
しかし、巨獣は狂ったような咆哮を上げ、その全身から禍々しい雷撃を放った。
「うぁぁあああ!!! こいつ……! 魔法が使えるのか!!!」
激しい電光がアステリオンの装甲を焼く。さらに絶望は重なり、闇の中からさらに二体の超大型魔獣が姿を現した。
「三体……!? そんな、嘘でしょ!!!」
ルーナの絶叫が響く中、アルスは王宮の最深部を睨み据えた。
「ゼクス様! 王宮に向かってください! お願いします!!!!」
アルスは隣にいた妹の肩を抱いた。
「エルナは……母上と一緒にいて!」
「う、うん……。お兄様、エディを……エディくんをよろしくね」
「アルス!? 何を言ってるの!」
エルナを託されたルーナが、驚愕に目を見開く。
「危険すぎる! アルス、戻れ!」
ギルバートが鋭い声を上げ、息子を連れ戻そうと一歩踏み出した。しかし、アルスは振り返り、父の目を真っ直ぐに見つめ返した。
「父上! お願いです! 僕に行かせてください!!! エディを助けられるのは、僕しかいないんだ!」
叫ぶなり、アルスは王宮へと続く地下通路へ向かって走り出した。
「アルス!!」
ギルバートが後を追おうとした瞬間、背後から数体の魔獣が牙を剥いて飛びかかる。
「くっ、こんな時に……!」
「私が彼を追いましょう!」
ゼクスがアルスの後を追って闇の中へと消えていく。ギルバートは剣を振り抜き魔獣を退けたが、その表情には焦燥が滲んでいた。
「……きっと大丈夫だよ、アルスなら」
ルーナがエルナを抱き寄せながら、静かに、しかし確信に満ちた声で言った。
「あの子はもう、守られるだけの子供じゃない。私達は……私達にできることをしよう」
「…………そうだな。すまない、ルーナ」
ギルバートは一度だけ王宮の方角を見つめ、それから再び剣を構え直した。
王宮の最深部。
エディは膝をつき、頭を抱えていた。
「僕はエディ……。物語を、正さないと……。僕はなんのために生まれたの……? 分からない……分からない!!」
その時、閉ざされた彼の意識に、聞き慣れた少年の声が突き刺さった。
『縛られるな! お前の物語をはじめろ!!』
「うぁ……あああああ!!!!!」
地下通路を駆け抜け、アルスとゼクスが最深部へと躍り出た。
「いた!!!!! エディ!!」
エディを取り囲む黒いオーラが、侵入者を拒むように爆ぜた。
「邪魔するなぁぁああああ!!!!!!」
「ぐわっ……!」
凄まじい衝撃に、盾となったゼクスが吹き飛ばされる。
「ゼクス様!!」
アルスは地面を蹴り、黒い霧の中へ飛び込んだ。
「エディ! これを見ろ!!!!」
掲げたのは、大切に持っていた「スターレンジャー・ブルー」のフィギュア。
「そ……れは……」
「俺たちは仲間だって言ったじゃないか!」
「僕は人形だ! この人形と同じだ! そう作られてここにいる! 仲間になんかなれない! 僕の存在意義を、消そうとするな!!!」
絶叫とともに放たれた禍々しいオーラの刃。それがアルスを貫こうとした瞬間、満身創痍のゼクスが間一髪でその身を投げ出した。
「ぐっ……」
「ゼクス様!!!」
「なんで……なんでだよ!」
アルスは震える声で叫んだ。
「これはただの人形なんかじゃない。母上の、みんなの想いが形になったものだ! 短い時間だったけど、俺はエディと友達になれて嬉しかった。お前が人形だって言うなら、なんで今、そんなに迷ったり怒ったりするんだ!!!!」
「…………っ」
「お前にはちゃんと感情がある! ロボットでも人形でもない、人間なんだよ!!!」
アルスは涙を溜めながら、真っ直ぐにエディを見つめた。
「お前は、ヒーローになるんだ!!!! 皆を救うヒーローに!!!! それがお前の物語だ!!!」
エディの目から、一筋の涙がこぼれ落ちる。
「……僕にも……感情が……ある」
彼は、自分の手の中に握りしめられていた「レッド」のフィギュアを、壊れんばかりに強く握りしめた。
「……あぁ。僕は……僕たちは……!」
次の瞬間、王宮を突き破るほどの銀色の閃光が爆発した。闇を、脚本を、定められた運命をすべて焼き払う、清浄な光。
空を覆う暗雲を真っ二つに割り、光の中から現れたのは、アステリオンに劣らぬ巨躯を持つ、銀色に輝く巨人。
「エディ……」
見上げるアルスの瞳に、かつての気弱な編集者の姿はなかった。そこにあるのは、誰の指図も受けない、世界でただ一人の「勇者」の姿だった。
突如王宮から出現した「銀色の巨人」に、街はさらなるパニックに包まれる。
「もうなにがきても驚かない自信あったけど、さすがにウルトラすごいやつまでくるとは思わないじゃん……え、やっぱり私、映画の中にでもいるの……? 問題は味方かどうかってことだけど……」
混乱するルーナの前に、銀色の巨人がゆっくりと跪き、その手のひらを差し出した。
「母上!」
「アアアアルスとゼクス様!? 手のひらに乗って降りてきたぁぁ!?」
「大丈夫です! この巨人は、エディです!」
「エディィィィイーーーー!?」
あまりの急展開にキャパオーバーになりそうなルーナを、変身を解いたギルバートがしっかりと支える。エディは慈しむようにゼクスとアルスを地上へおろすと、空を睨み据えた。
「ははは! よくやった坊主!」
ネレイスが痛快そうに笑い声を上げる。アルスは天に向かって拳を突き出した。
「エディ!!! がんばれー!!!!」
その声に応えるように、銀色の巨人が、力強く頷く。
隣へ着地し、重厚な金属音を立てて身構える黄金の巨人、アステリオン。
マキナとエディ。異なる世界から来た二人の巨人は視線を交わし、王都を蹂躙する三体の巨獣へ向けて同時に拳を構えた。
王都の夜が、決戦の舞台へと変わった。




