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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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58. 最凶魔女、辺境領に移り住む

評価、ブクマ、リアクションありがとうございます!

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感想もぜひぜひお待ちしております<(_ _)>

「ル、ルーナ……! そんな、初めて会った女にそんな熱い告白を……っ!」


絶望に打ちひしがれ、膝をつくギルバート。だが、ネレイスはルーナの熱量に絆されたように大笑いした。


「あはははははは!!! 気に入ったよ、あんた! 気に入った! ……いいだろう、ルーナ。私を幸せにしておくれ」


ネレイスはギルバートに向かって、勝ち誇ったようにニヤリと笑ってみせる。ギルバートは「ギリリ……」と歯噛みし、対照的に嫉妬の炎を燃え上がらせた。


「やったーーーー!!!!!!!」


訓練場にルーナの歓喜の叫びが響き渡る中、セレスティアは「お腹がすきましたわ」と優雅に扇子を閉じ、シェロンが「野菜スペシャル~!」と叫んでランチへ駆け出す。マリーナは文句を言う間もなくセレスティアに引きずられていった。騎士団もメシの時間だと解散していく。去り際が潔いというか、もはやこの家の人々は、ルーナの異常な行動力に慣れすぎていた。そんな喧騒の中、カイエンだけが、数十年ぶりに心からの笑顔を見せたネレイスをじっと見つめ、静かに一筋の涙を頬に伝わせた。


「丸く納まったみたいだね」

「……やっぱりいたんですか、マキナ」


カイルは背後の気配に振り向きもせず応じる。


「ボクが参戦したら情報過多になって、カイルの胃に穴が空いちゃうかなって思ってさ」


「もう空いてますよ。スースーします。秋風が通りますね」


「それにしても……ルーナってほんと人たらしだよねぇ。ギル、確実に拗ねてるよ」


「まぁ大丈夫でしょう。結婚式まであと半年ぐらいですし、そろそろ旦那様の重い愛を受け止めるいい機会です」



――数刻後、執務室。


エルナの放った「浄化」の光が収まると、そこには肩まで切りそろえられた濃い紫色の髪を持つ、圧倒的なオーラを放つ爆美女が立っていた。


その姿に、その場の空気が一瞬だけ止まった。


「あー!!! あの時の!」


髪型、髪色こそ違えど、銀髪の美女『カイエ』に瓜二つの美貌。


「……まさか、元に戻れるとは思わなかったよ」


自ら呪いの毒を呑み、闇に堕ちたネレイスだったが、その姿だけが完璧に全盛期へと巻き戻されていた。


「ネレイス様~!!!!」


カイエンが喜びのあまり半泣きで抱きつこうと猛進するが、「ええい! 暑苦しい!」と即座に頭をガシッと抑えられ、寸止めを食らう。


「闇魔法は……まだ使えますか?」


ルーナの問いに、ネレイスは不気味な黒い霧を手のひらに浮かべる。


「あぁ。姿形だけ『浄化』されたみたいだね」


「狙い通り~!!!」


「おかあさま! わたしえらい?」


ルーナは満面の笑みでエルナを抱きしめると、隣で少し所在なげに立っていた息子にも視線を向けた。


「アルスもえらーい! 妹をしっかり支えてくれてありがとうね」


ルーナがその小さな頭を優しく、大きな愛を込めて何度も撫で回すと、アルスは顔を真っ赤にして視線を泳がせた。


「お、俺は何もしてない……。ただ、そこにいただけだし……」


そうぼやきながらも、アルスは誇らしげに口角を上げ、母親の手の温もりを噛み締めるように嬉しさを隠しきれずにいた。

そんな家族の温かな光景を、ネレイスはどこか眩しそうな、それでいて少し寂しげな目で見守っている。

その視線に気づいたルーナは、ふっと表情を引き締めると、一歩前へ出て深々と頭を下げた。


「改めましてネレイス様。ようこそヴォルフラム領へ。私、ルーナマリア・フォン・ヴォルフラムは、あなたを心より歓迎いたします」


礼儀正しく、けれど力強いその言葉に、ネレイスはふんと鼻を鳴らして組んだ脚を組み替えた。爆美女としての圧倒的な覇気を纏い、彼女は試すような視線をルーナに投げかける。


「様はいらないよ。堅苦しいのは嫌いでね。……で? お前は私に何をさせようとしてるんだい。ただのんびりここで過ごさせようとしてる訳じゃないんだろう?」


その瞳には、「私の力をどう利用するつもりだ」という、かつての最凶魔女としての鋭い光が宿っていた。

ネレイスは、組んだ脚を揺らしてルーナをじっと見つめる。その瞳は、すべてを見透かすようだった。


「ギギギ……、あんな美女に詰め寄られて、ルーナ、生きてる?」


物陰から見守るマキナが小声で呟く中、ルーナは(いや、マキナも相当な美女だからね…)と思いつつ一歩も引かずに、むしろ身を乗り出して手を握りしめてキラキラの瞳で迫る。


「『変身』について詳しく聞きたいです!」


「近い近い……。あれは、この闇魔法を込めたネックレスを媒体にして、あらかじめ作っておいた装甲を内部に封じ込めて呼び出しているのさ」


ルーナの脳内に激しい衝撃が走る。


(自由自在……ということはよ? そのネックレスがあれば、理論上誰でも変身可能ということ……!?)


「それは、私の描いたデザインをマキナに作ってもらって、それをネレイスさ…んん!ネレイスが封じ込めたり……?」


「……やったことはないが、可能だろうね」


「つまり……あの作品も、あの作品のも、最終形態のコスチュームが再現できる……!!?」


ルーナの脳内に、前世で見た数々の特撮ヒーローや魔法少女の輝かしい姿が駆け巡る。そのネックレス一つで、瞬時に、しかも物理法則を無視したクオリティで着替えられるのだ。


「……お前、それを私に作らせて軍事利用でもするのかい?」


ネレイスの声には、隠しきれない棘があった。

彼女の常識では、これほどの力を貸す代償は「破壊」や「支配」に他ならない。自分を若返らせ、手厚く迎えたのも、結局は都合よく強力な兵器として利用するためなのだろうと、心のどこかで冷め切った結論を出していた。


「え? まぁ領を守るのに使うこともあるかもしれませんが……」


ルーナは少しだけ考えて、すぐに満面の笑みで言い放った。


「メインは『ヒーローショー』ですね!」


「……ヒーローショー???」


聞き慣れない単語に、ネレイスが完全にフリーズする。


「子どもたちの舞台で変身するんです! カッコイイですよ~! 絶対うけます! 領内の子供たち、全員腰抜かしますよ!」

「……舞台? 子供たちを……腰抜かさせるために、私の闇魔法を使うってのかい?」


ネレイスは、自分の耳を疑った。この、大陸を恐怖に陥れる闇の力が今、見ず知らずの子供たちの娯楽のために、全力でカスタマイズされようとしている。


「ふぅーー!!!!! 激アツじゃないか! そのネックレス預からせてくれ!あと、あの装甲がどんな希少素材でできているのか、どこで採掘されているのか詳しく聞かせてもらおうか!?」


マキナが鼻息荒く身を乗り出すが、ネレイスはあっさりと、拍子抜けするような答えを返した。


「あんなもの、深海に行きゃ山ほどあるよ」


「深海……! よし、すぐに行こう! 」

「落ち着いてマキナ。深海となると、ネレイスかカイエンの手助けが必要だよ。でも、カイエンは店長業務で忙しいし……」


ルーナが「どうしようかなぁ」と腕を組んで呟いていると、隣で涼しい顔をしていたカイエンが、事も無げに口を開いた。


「そんなん、休みの日に行けばええですやん」


その一言に、ルーナの表情が凍りついた。直後、彼女は弾かれたようにカイエンに詰め寄る。


「でたよ、この社畜精神!! よくないよ! お休みの日に働こうとするの! ホワイト企業の風紀が乱れるでしょ!」

「ええぇ~……本人がええって言うてるのに、なんで怒られるんですか……」


カイエンは本気で心外だと言わんばかりに肩をすくめる。彼にとって休日を捧げるのは当然の献身だった。だが、ルーナの世界では、それは許されざる悪徳である。そんな二人の、噛み合っているようで噛み合っていない奇妙なやり取りを、ネレイスは珍しそうなものを見るような目で見守っていた。


「……ふふ。なるほどね。カイエンの負けだ」


「ネレイス様まで……。私はただ、効率を考えてですわ」

「効率よりも大事なものがあるって、この小娘の背中が語ってるじゃないか。……悪くないね、こういうのも」


ネレイスはどこか満足げに目を細めると、毒気を抜かれたように息を吐いた。


「あ、あとネレイスって怪しい薬が作れるってカイエンが言ってたような気がするんですけど。……怪しい薬って、一体なんなんです?」


ルーナの純粋な問いに、ネレイスは形の良い眉を少し上げ、妖艶な笑みを浮かべた。


「そりゃぁ、分かるだろう? 暗い夜をより深くするものや、理性を溶かすようなものさ……まぁ趣味で作ってるようなもんだから、たいしたものではないよ」


(え、それって……媚薬とか!? ほんとに!? でも恥ずかしくてこれ以上は聞けない! 子供たちもすぐそばにいるし!!)


ルーナは顔をカッと熱くしながら、慌てて話題の軌道を修正した。


「あ、あの! ふ、普通のお薬……例えば風邪薬とか、傷薬とかも作れたりするんですか?」

「まぁ、作ろうと思えば作れるさ。……気が向いたらね」


ネレイスは退屈そうに指先を眺める。彼女にとって、人助けのための「普通の薬」は、刺激の足りない作業なのかもしれない。


「じゃあ、気が向いたら作ってみてください!」

「……それでいいのかい? 私の力だ。もっとこう、強力な劇薬を作らせて軍事利用するとか、そういう発想はないのかい?」


ネレイスはまた、敢えて突き放すように、試すような視線を向けた。本当に、この小娘はどうなっているんだと、その底知れなさに毒気を抜かれ始めていた。


「だって、ネレイスには人生を楽しんでほしいですから! 義務感で嫌々作るより、ワクワクしながら作ってほしいんです。むしろ、いつかはその技術を伝えて、次世代の調剤師を育ててほしいなって思ってます!」


「……」


ネレイスは一瞬、呆気に取られたように目を丸くした。利用価値で人を量る世界にいた彼女にとって、ルーナの言葉はあまりに異質で、けれど心地よい。


「なるほどね。……あんたは、いつも『先』を見てるんだね。自分の代だけじゃなく、その後のことまで」


「へへ、それがプロデューサーの仕事ですから!」


ネレイスは小さく笑う。


「じゃぁネレイス様の店舗兼、おうち用意して、薬作りの工房設けて~スタッフも雇って~」


トントン拍子に決まっていく破格の条件に、ネレイスは目を白黒させた。


「至れり尽くせりじゃないか。おい、大丈夫なのかこの小娘、頭の中どうなってんだい」

「……もう慣れた」


ギルバートが遠い目で答えると、ネレイスは心底同情を込めて肩をすくめた。


「あんたも大変だねぇ。……ふふ。でも、なるほどね。カイエン、あんたがこの小娘に絆された理由が、ようやく分かった気がしたよ」


ネレイスは優雅に椅子に深く腰掛け、面白そうにルーナを見つめ直した。



一通りの話を終え、それぞれが自室へと戻っていく。カイエンは、ドリームファクトリーやマリアドームを案内するため、ネレイスを連れて執務室を後にした。

その去り際、カイルがルーナの肩にポンと手を置く。


「……ご武運を」

「え?」


カイルはそれだけ残し、何故か逃げるように去ってしまった。首を傾げたルーナがゆっくりと後ろを振り返ると、そこには窓の外の暗闇よりも深い、光の一切ない瞳をしたギルバートが立っていた。


「お前は一度、俺のことで頭の中を埋め尽くせ。今夜は寝られないと思え」


熱く、甘く、そして容赦のない夜が更けていった。


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