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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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57. 最凶の魔女 vs 最狂のオタク

評価、ブクマ、リアクションありがとうございます~!感想などもぜひぜひ、お待ちしておりますm(_ _)m

爆音を察知し、騎士団が訓練場へと雪崩れ込んでくる。だが、そこで彼らが見たのは、恐ろしい死闘ではなく――。


「はぁっ、はぁっ……ぜぇ、……っ!!」


胸を押さえ、膝をついて激しく肩で息をするルーナの姿だった。

あまりの「リアル変身」の尊さと衝撃に、脳内の処理が追いついていない。

彼女の頭の中では、久しぶりに登場したミニルーナが、真っ白な降伏旗を振りながら泡を吹いて倒れていた。


「ルーナ!!!!! どうした、しっかりしろ!!!」

「おい……おい小娘。戦う前に力尽きるんじゃないよ」


漆黒の装甲に身を包んだネレイスが、毒気を抜かれたように声を上げる。だが、ギルバートは彼女をキッと睨み据えた。


「戦うだと!? それどころじゃないだろう!!!」

「!?(この状況を『それどころじゃない』って言い切りましたよ、この人……)」


カイルが戦慄しながら心の中で呟く。目の前には「未知の変身を遂げた魔女」がいるというのに、主君の優先順位は微塵も揺らがなかった。


「ハッ! まさか貴様、いち早くルーナに精神的な攻撃を仕掛けたのか……!?」

「なにもしとらんわ!」

(くっ……ついついカイエンの喋り方とツッコミがうつって……!)


ネレイスは自らの口調の乱れに眉をひそめ、盛大なため息をついて腰に手を当てた。


「あー……その嬢ちゃん、心臓になにか持病でもあるのかい?」


「(あ、いま絶対『苦労してるんだな』っていう同情の目を向けられてますね、旦那様)」


背後では、駆けつけた騎士団たちがカイエンの時と同様、目の前で何が起きているのかわからず唖然としていた。


「いったん、はぁ、はぁ……みなさま……いったん、落ち着いてください……」

「いや、奥様が落ち着いて!?」


カイエンの必死のツッコミも虚しく、ギルバートの怒りは沸点に達していた。


「……ルーナ、安心しろ。今、お前の仇をとる!」


カイルは額に手を当て、絶望したように天を見上げた。

「(あーーーーー、話聞いてない……)」


主君の暴走を止められない己の無力さを噛み締めるカイルの横で、戦いを望むネレイスが不敵に笑う。


「そうこなくてはね!」


ギルバートの手元で、ソードルクシアが共鳴するように鳴った。彼は懐から取り出したメダルを迷いなく剣の溝へ滑り込ませる。


装填セット!」


カチン、と硬質な音が響く。、自分の魔力をメダルへと流し込んだ瞬間、ソードルクシアが青白い光を放った。ギルバートが剣を振るうと、その軌跡を追うように地面を鋭い氷の結晶が走り、一瞬で訓練場を極寒の世界へと変えていく。


「ふん……面白い魔法だねえ!」


ネレイスが漆黒の拳を突き出し、迫りくる氷の刃を粉砕する。激しい火花と氷の飛礫が散り、空気を切り裂く衝撃波が訓練場を揺らした。


「カ、カイル様、俺たちも参戦した方がいいのでしょうか……」

「なんか入り込めない雰囲気……」


鬼気迫る戦いに騎士団の人たちは見るからに動揺しているが、カイルは冷めた目で戦況を見つめたまま、


「いえ、なんかもうどうでもよくなってきました」

と吐き捨てた。


ギルバートとネレイスが再び激突しようとしたその時、訓練場の入り口から予期せぬ声が響いた。


「母上!? なんだかすごい音がして……」

「おかあさまーーー!」


乳母の手を振り切って駆け込んできたのは、アルスとエルナだった。幼い二人は砂埃の舞う訓練場に目を丸くしている。

さらに反対側の通路からは、公演を終えたばかりのセレスティアとマリーナ、そして守護獣のシェロンが躍り出た。


「敵ですわね!? ルーナ、お下がりになって!」

「シェロン、行きますわよ!」

『おうよ! ひっさびさに腕が鳴るぜぇ!』



戦力過剰な助っ人たちの登場に、訓練場のボルテージは一気に跳ね上がる。さらに、カイルの背後に身を潜めていたカイエンの姿を見た瞬間、マリーナが指を差して叫んだ。


「あーーーーーー!!! お前はあの時の!!!」

「あーーーーーー!!!! 秘薬盗んでった、あのアホな姫さんや!!!」


思わぬ再会に怒鳴り合う二人。騎士団の困惑、子供たちの乱入、夫婦の温度差、そして元泥棒と被害者の再会――。


(……地獄か。……いや、ここにマキナがいないことだけが、唯一の救いですね)


カイルは遠い目をしながら、まだここに来ていない発明狂の女を思い出し、深い安堵と諦めを同時に覚えた。


訓練場はまさに特撮映画のクライマックスのような大立ち回り――だが、それを見ているルーナの心境は極限まで複雑だった。


(カッコいい! 凄すぎる! あの装甲はどんな素材でできてるの!? 触りたい! デザインに改良の余地はありそ……じゃなくて! このままだとネレイス様が全方位からボコボコにされる! 待って、私の大事な『変身ヒロイン(ヴィラン)』が! 興奮していいのか、心配するべきなのか、もうどっち!?)


「ストップストップ! まってまって! ギルバート様! みんなもお願いだからまってー! 鎮まれーーーっ!!!!」



叫ぶが、激闘の音にかき消されて届かない。

ルーナの脳内はカオスと化し、ついに臨界点を突破した。



「もぉぉおおおお、いい加減にして!!!」



ルーナは猛然と走り出した。火花が散り、氷の礫が舞う危険な戦場へと迷いなく突っ込み、二人の至近距離まで詰め寄る。そして、手に持っていた専用ルクシライザーを空高く突き上げ――引き金を引いた。



パァン!!!!!




魔導具から放たれた強烈な閃光と乾いた破裂音が、訓練場の空気を強引に引き裂く。その異様な音に、剣を交えていた二人がピタッと動きを止めた。


「ルーナ!?」

「ギルバート様! これ以上ネレイス様に攻撃したら、私、ギルバート様のこと嫌いになっちゃいますよ!!」

「!?」


世界が滅びるよりも恐ろしい宣告を受けたギルバートが、彫像のように固まる。あまりの空気の急変に、やる気満々だったセレスティアとシェロンも顔を見合わせ、そろーっと音を立てないように後ろへ下がっていった。

その様子を見て、ネレイスは仮面の下で喉を鳴らして笑った。


「ふ、ふはははははは! この土地で『死神』と呼ばれる男が……面白いじゃないか、この嬢ちゃん!」



「ネレイス様ぁぁああ!!!! 私の女神……っ!」



変身が解け、漆黒の装甲を消して老婆の姿に戻ったネレイスに、ルーナが猛然とダッシュする。


「ネレイス様ぁぁああ!!!!」

(め、目が! 目が怖い!!!)

ネレイスは生まれて初めて、自分より恐ろしい気迫を纏った存在を見て思わず固まった。

ルーナはそのまま勢いよく抱きつく。



「!? な、なんだ、離れろ! 離せと言っているだろう!」


「いやですううぅぅ! 私の推しいいぃぃぃ!」


ネレイスは激しく抵抗するが、ルーナの腕の力は驚くほど強かった。老婆の姿に戻ったネレイスの瞳に、不意に暗い影が差す。


「…何をわけのわからんことを!あんた達のような光り輝く側にいる人間に、私の何がわかる。私は闇の中でしか生きられない魔女だ。誰からも必要とされず、疎まれ、生きてきたんだよ!」


ネレイスの声は、怒りよりも深い孤独に震えていた。


「だから、私もお前など必要ない! 誰も必要じゃないんだ!」


突き放そうとする冷たい言葉。だが、ルーナはその言葉ごと、彼女をさらに強く抱きしめた。


「いいえ、必要です! 私には、あなたが必要です、ネレイス様!」


「なっ……何を……。何を言っている。私のような闇に魅入られた女が、お前たちのような光の中に何が必要だというんだ!」


突き放そうとする冷たい言葉。だが、ルーナはその言葉ごと、彼女をさらに強く抱きしめて顔を上げた。その瞳は、ネレイスさえも射すくめるような、純粋で熱烈な光を宿している。


「私がどれだけネレイス様を必要としているか、聞いてください!語らせてください!お願いします!」


「な、なんなんだ……」


「ネレイス様、あなたがこれまで誰にも理解されず、たった一人で闇を抱え、孤独に研鑽を積んできたその『生き様』! それこそが、どれほど美しく、気高く、そして――最高に『カッコいい』か、お分かりですか!?」


「……は? カッコ、いい……?」


「そうです! その漆黒の装甲を纏った姿! あれは単なる闇の魔法じゃない、あなたの魂が形になった『変身』です! 孤独な世界で、自分を守るために作り上げた最強の鎧! その重みが、悲しみが、私にはビンビン伝わってきます! その闇があるからこそ、あなたの変身はこれほどまでに尊く、輝いているんです!!」


ルーナの言葉は止まらない。一拍置く暇さえ与えず、ネレイスの「存在意義」をオタク特有の解釈で定義していく。


「ネレイス様! あなたのその力も、積み重ねてきた経験も、絶望を知るその瞳も! 全部私が生かしてみせます! 私が、ネレイス様を幸せにします! だから、うちに来てください!!」


目をキラキラと輝かせ、愛の告白のようなセリフを吐くルーナ。

最恐の魔女ネレイスは、生まれて初めて「理解不能な巨大な愛」という名の恐怖に直面し、その場で硬直したのだった。

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