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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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56. 聖地の誕生と黒鉄の変身

評価、ブクマ、リアクションありがとうございます~!感想などもぜひぜひ、お待ちしておりますm(_ _)m

魔女ネレイスが厳重な警備のもと地下牢へ収容されるのと時を同じくして、元聖女リリアの処遇が決定した。彼女は「北の修道院」への移送のため、馬車へと押し込まれる。


「……まだ、まだ終わらないわ。見てなさい、きっとこの後、私の王子様が助けに来てくれるんだから……!」


虚空を見つめ、うわごとのように執念を口にするリリア。その姿が遠ざかるのを、ギルバートとカイルは氷のような冷徹な眼差しで見送った。彼女が夢見る「救済」が二度と訪れないことを、その場の誰もが確信していた。



数日後。辺境領の空気は、冬の予感を吹き飛ばすほどの熱気に包まれていた。

「おもちゃ屋」『ドリームファクトリー』のオープン初日。そして、この日に合わせて新劇場もようやくお披露目となったのだ。


この劇場はもっと早くにお披露目のはずだったが、あのカイエンによる「美女誘惑騒動」の煽りを受け、お披露目が大幅に伸びてしまっていた。

しかし、その「お預け」状態が逆に領民たちの期待を限界まで膨らませていたらしい。



「お待たせいたしました! 本日、ついに開門です!」



目の前にそびえ立つのは、マキナの魔導技術とルーナの情熱が結晶した巨大多目的劇場


――その名も、「マリア・ドーム・スタジアム」!


異世界初の「特撮の聖地」がいよいよ幕を開ける。


「正直、名前だけは変えてほしいって何度も訴えたんだけど……」


ルーナのささやかな抵抗は、ギルバートの「君の名を冠するに相応しい場所だ」という強い熱意に押し切られ、結局この気恥ずかしい名前が刻まれることになったのだった。

このドームを四つのブロックに分けるという画期的な構造は、以前ギルバートが発案したアイデアを形にしたものだ。そのおかげで、スタジアム内は効率的かつ、プロデューサーであるルーナの緻密な計算に基づいた理想の空間となっていた。


【Aブロック】:王道の輝き、正義の象徴『スターレンジャー』。

【Bブロック】:女の子たちの永遠の憧れ『ミラクル☆ドリーム』。

【Cブロック】:食育と笑いを融合させた新星『オヤサイマン』。

【Dブロック】:大人たちの鑑賞に堪える、重厚なドラマパート。


「今はまだ4作品だけど、すぐにラインナップを増やすからね!」


ルーナは燃えていた。巨大な宇宙怪獣と戦う銀色の巨人、バイクを駆り覆面で孤独に戦う戦士、星の守護を受けた五人の美少女戦士たちや、悪の妖精と契約する伝説の……戦士たちはやめておこう。現代知識という名の「宝の山」は、まだ無限に眠っている。


オープニングセレモニーは、音楽家シオンとその弟子たちによる、心臓を叩くような情熱的な生演奏で始まった。

入り口には、スーツを纏ったアレンやリオン、華やかな衣装に身を包んだセレスティアとマリーナが立ち、満開の笑顔で観客を出迎える。


「わあああぁっ!」


子供たちの歓声が地を揺らす。小さな手たちがヒーローたちと次々にハイタッチを交わし、魔法のような劇場内へと吸い込まれていった。


「……可愛い。なんて平和で、素敵な光景なの……」


アルスとエルナも「キャー!」とはしゃぎながら、光のアーチを駆け抜けていく。マキナが子供たちに混ざって元気いっぱいに走り回り、カイルが「危ないですよ!」とハラハラしながら追いかける。その多幸感に、ルーナの目にはうっすらと涙が浮かぶ。

隣ではそんなルーナの肩を、ギルバートが慈しむように優しく抱き寄せていた。


一方、隣接するおもちゃ屋も戦場のような忙しさだった。

スタジアム内では最新作のおもちゃや舞台パンフレットなどの限定品に絞って販売し、それ以外の商品は看板で『ドリームファクトリー』本館へ誘導するようにしている。さらに、スタジアムで舞台を観劇した人だけに配られる「限定グッズ」の引き換え場所をおもちゃ屋に設定した。

このルーナの緻密な導線設計が見事に当たり、おもちゃ屋にはプレゼントを受け取ろうとする親子連れと、そのまま色んなおもちゃを手に取る客たちで長蛇の列ができていた。


「店長! 在庫が足りません!」

「店長! 休憩の回し方は――!?」

「わーーー!!! ちょい待って、順番や! 順番!」


必死に指示を飛ばすカイエンに、様子を見に来たルーナが声をかける。


「カイエン、大丈夫そう?」

「なんや、死ぬほど忙しいけど……みんな笑うとるから、めっちゃ楽しいわ!」

「頑張ったらビッグボーナスだよ! 店長さんも、スタッフのみんなもね!」

「ひゃー! 目標売上の倍、達成したるでぇ!」


牢で眠るネレイスを案じていた時の暗い顔は消え、充実感に満ちたカイエンの目を見て、ルーナはそっと胸をなでおろした。




――その更に数日後。城の地下牢。

静まり返った廊下で、交代で監視についていた騎士が、鉄格子の向こうで横たわる魔女の指先が微かに動くのを見逃さなかった。


「……っ、報告だ! 魔女が、目覚めるぞ!」


騎士の声が石造りの廊下に響き渡り、すぐさま城内に緊張が走る。

数分後、慌ただしく駆けつけたギルバートとカイルが牢の前に立ったその時。ハッとして跳ね起きたネレイスが、鋭い視線で周囲を射抜いた。


「……良いタイミングでお目覚めになられましたね。おはようございます、ネレイス様」

「……誰だ、貴様」


「カイルと申します。そしてこちらは、領主ギルバート・フォン・ヴォルフラム様です」


鉄格子の向こうから、ギルバートが冷徹に告げた。


「聞きたいことが山ほどある。闇魔法のこと、闇の脚本、そして元聖女が使ったあのブレスレット……。あれも貴様に関係しているのか?」


「……っ、ああ、う……」


ネレイスは問いかけに答える代わりに、ズキズキと疼く頭を強く押さえた。まるで泥のように重い眠りから無理やり引きずり出されたかのような、ひどく気だるげな様子で顔をゆがめる。


「……カイエンはどこにいる。あいつは……あの野郎は、元の姿に戻ったんだろう」


「水晶は割れていたとカイエンから伺っていましたが……知っていたんですね」


ネレイスは頭を押さえたまま、焦点の定まらない目で薄笑いを浮かべた。


「私がここにいることが、その証明だろうよ。まさか光魔法の使い手がいたなんてねぇ……。だが、そんなブレスレットなんて知らん。闇の脚本も、私が作ったもんじゃない」


「……何?」


ギルバートの眉が動く。ネレイスは苦々しく吐き捨てた。


「現れたのさ。急に目の前にね。『使ってください』と言わんばかりに、あつらえ向きの力が転がっていた。それだけだよ」


ネレイスは懐から、どす黒い輝きを放つ『闇の脚本』を取り出した。それはかつて彼女が絶対の指針としていたもの。だが、彼女はそれをゴミ同然の扱いで、鉄格子の隙間から牢の外へと放り投げた。


「……まぁ、最近は脚本通りにいかない事の方が多かったからね。こんなもんは、もういらんわ」


カツン、と乾いた音を立てて足元に転がってきた脚本。ギルバートはそれを素早く拾い上げると、隣に控えるカイルへと託した。カイルは無言で頷き、その不気味な冊子を懐へ収める。

二人が沈黙したその時、廊下を走る足音が響き、カイエンとルーナが駆け込んできた。


「ネレイス様!!!!」

「カイエン! なんだその格好は! この、へたれが! 敵に飼い慣らされたのか!」

「ヒィッ!」


カイエンの身を包む「ドリームファクトリー店長」のロゴ入りエプロン姿に、ネレイスの血管が怒りで跳ねる。思わず蛇に睨まれた蛙のように硬直して怯えるカイエン。だが、その隣に立つルーナは、彼を背にかばうように一歩前へ出た。


「敵だなんて、人聞きの悪いことは言わないでほしいわ。彼は今、うちの領地で一番重要な『夢を売る店』を任せている、私の大切なパートナーなんだから」


ルーナは真っ直ぐにネレイスを見据えた。カイエンが元の姿に戻れたのも、おもちゃ屋で輝いているのも、ルーナが彼を「道具」ではなく一人の「人間」として扱い、居場所を与えた結果だった。


「すんまへん、ネレイス様……。でも、ウチを殺さずに保護してくれただけやない。奥様はウチに、胸を張って生きられる場所をくれたんですわ!だからネレイス様も…」

「お前というやつは……! 絆されおって!!!」


ネレイスの瞳に、激しい嫉妬と怒りが混じった色が走る。自分だけが知っていたはずの「駒」が、見知らぬ小娘の言葉で塗り替えられたことへの、耐え難い屈辱。

ネレイスの咆哮とともに、手元からどす黒い魔力が爆発的に溢れ出した。


「離れろ、ルーナ!」


ギルバートが咄嗟に彼女を抱き寄せ、その場から飛び退く。直後、闇魔法が牢の鉄格子を飴細工のように捻じ曲げ、破壊した。爆煙の中、ネレイスが猛然と脱走する。


「ネレイス様、待ってぇな!!!!」


叫ぶカイエンが背中を追う。ギルバートは鋭い視線を廊下の先へ向けながら、隣のルーナに短く告げた。


「ルーナ、お前は安全なところへ……」

「私も絶対行く! いざとなったら、これがあるから!」

ルーナが懐から取り出したのは、あのリリア戦の時に使った「ルーナ専用のルクシライザー」だった。鈍く、けれど気高く輝くその魔道具は、単なる玩具の枠を超えた護身用の輝きを放っている。


「……ふっ、わかった。だが俺の側を離れるなよ」


ギルバートはわずかに口角を上げると、ルーナの手を強く引き、二人は爆音の響く訓練場へと駆け出した。


老婆の姿では遠くまで走れないはず。だが、訓練場で追いつかれたネレイスは、不敵な笑みを浮かべて振り返った。


「っははは!……お前ら、私が戦えないとでも思ったかい?」



黒い魔力が空気を軋ませる。

誰も、動けなかった。

ネレイスは、ゆっくりと笑う。




「『変身』」




ルーナが息を呑む。

ネレイスがそう唱えた瞬間、老婆の姿が黒い粒子に包まれ、一点。

大気を震わせる重厚な金属音とともに、現代の「覆面を被ったライダー」を彷彿とさせる、漆黒の装甲を纏った戦士が現れたのだ。


(え、待って待って待ってどういうこと!? 今、目の前でリアル変身が行われ……え!?)


鈍く光る複眼。禍々しくも洗練されたフォルム。

ルーナの頭の中は、驚愕と混乱でホワイトアウトした。


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