セレスティアside: 退屈な王女と白き守護獣
私はずっと、“つまらな”かった。
重たいドレス、ありきたりな会話、そして見飽きたお菓子。
私は第一王女。セレスティア・ド・エルバイン。
このままお父様が決めた人と出会って、結婚して、嫁いでいくのだろう。
そんな、レールの敷かれた人生。
兄の婚約者であったルーナマリア様も、かつては同じだった。
王都で見かけるあの人も、いつもつまらなさそうな顔をしていたから。
だから、兄に婚約破棄をされたと聞いた時も、特に何とも思わなかった。
ただ、いつも無表情だったあの人が、聖女リリアを虐めるような、そんなことに楽しさを見出すような人にはどうしても見えなかった。
きっとあの人は陥れられたのだろう――貴族社会ではよくある、醜い足の引っ張り合いだ。
けれど、いつもの退屈なお茶会で辺境領の話を聞いた時、私の中の何かが開いた気がした。
そして実際に、この辺境領でルーナマリア様に再会した時、私は彼女を別人かと思った。
かつての面影がないほどに引き締まった体型も、その明るい人柄も、なにもかもが違っていた。
驚いたのは、それだけではない。
ギルバート様とは王都で何度か会ったことがあり、会話をすることはなかったが、その鋭い眼差しや「死神」と呼ばれる由縁の恐ろしい噂も聞いていた。
そのギルバート様が、ルーナを見る顔つきがあまりにも穏やかで驚いたのだ。最初はルーナが怪しい魔術や魔道具でも使ったのかと思ったほどだ。
でも、違った。彼女は見つけたのだ、この辺境の地で。
自分の魂が、一番輝ける場所を。
その夜、寝室で私は「アレ」を呼び出す。
「シェロン、出ておいで」
空間がゆらりと揺れ、小さな竜の角を持った白くて可愛らしい生き物が姿を現した。
王族にごく稀に生まれるという「守護獣」持ちの姫、セレスティア。
この力は当然、国家機密として秘匿されている。
「まったく、急にこんなところにくるもんだからビックリしたぞ!」
浮かび上がったシェロンが不満げに鳴く。私は窓の外の静かな夜景を見つめながら微笑んだ。
「だって楽しそうだったんですもの」
「で? セレスはここが気に入ったのか?」
「気に入ったどころじゃないわ。永住するつもりでいるわよ」
私の断言に、シェロンは少し呆れたように、けれどどこか楽しげに宙を舞う。
「よくわかんないけどヒロインだっけ? ボクには関係ないけど」
そう言って欠伸をするシェロンを眺めながら、私はこれから始まる日々に胸を躍らせる。
だが、この時の私はまだ知らなかった。
まさか自分が目指す「ヒロイン」に、この伝説の守護獣までもが演出として巻き込まれることになることを。




