14. 盗賊、スカウトされる
めちゃくちゃ長くなりました…汗
レッド、ブルー参戦です!
(……さて、どうしたものか)
意気込んでみたものの。
「ヒーローショーって、具体的にどうやって形にすればいいのかな……」
自室のベッドに倒れ込み、私は天井を見つめて悶々としていた。
エルナとアルスの、あの顔が忘れられない。魔道具を手渡した瞬間、二人の頭の上に巨大なハテナマークが浮かび、文字通り「ポカーン」と静止してしまったあの光景。
(物語を知らない子には、ただの『光る棒』なんだもんね。でも、テレビもないのにどうやってあの躍動感を伝えればいいんだろ……。かといって絵本じゃ、音や光の迫力が死んじゃうし……。あぁ、もう! どうすればいいの!!)
考えても考えても、この屋敷の中だけでは「素材」が足りなすぎる。
枕に顔を埋めてじたばたしていると、不意に窓の外から、勇ましい馬の嘶き(いななき)が聞こえてきた。
(……馬の声? 何かあるの?)
窓から身を乗り出して下を覗くと、中庭ではギルバート様を先頭に、騎士たちが遠征の準備を整えているところだった。カイルさんが手慣れた様子で荷積みの最終チェックを行い、鋭い目付きで騎士たちに指示を飛ばしている。一ヶ月に数度、物資調達と魔核収穫のために王都へ向かう定期遠征だ。
(……そうだ。ここで悶々としてても始まらない。外に出れば、何かヒントがあるかもしれない。王都なら、もっといろんな人がいるはずだし……!)
私は鏡の前に立つと、机に置いてあった適当な髪ゴムで、ざっと髪を掬い上げて高い位置でポニーテールにした。
緩やかなうねりを持つ髪が、結び目から弾むようにこぼれ落ちる。 揺れる毛先が首筋に触れる感触が、なんだか気合を入れ直してくれているみたいだ。
「よしっ、準備完了!」
鏡の中の、引き締まった自分の顔に頷く。
一階に駆け下りると、そこには見送りに来たエルナと、柱の陰に隠れるように立つアルスの姿があった。
「ルーナ様! ほんとうに、ほんとうにいくの……?」
エルナが私のスカートをぎゅっと掴んだ。その小さな指先は、白くなるほど力が入っている。
「ええ、ギルバート様と一緒に王都まで。すぐ帰ってくるから、お留守番お願いね」
私が笑って頭を撫でようとすると、エルナはビクッと肩を揺らし、泣き出しそうな顔で私を見上げた。
「……やだ。いかないで。……だめ、かえってこなくなっちゃう。お外には、こわいのがいっぱいいるの……っ!」
「エルナ、大丈夫よ。ギルバート様も、強い騎士様たちも一緒なんだから」
宥めても、エルナの震えは止まらない。
ふと視線を上げると、遠くの柱の影でアルスがこちらをじっと見ていた。声をかけようとしたけれど、彼と目が合った瞬間、彼は弾かれたように視線を逸らし、そのまま奥の部屋へと走り去ってしまった。
(アルスくん……? いつもなら『さっさと行けよ』くらい言いそうなのに。なんだか、二人とも様子が変……?)
そんな後ろ髪を引かれる思いを振り切るように、私は中庭へ飛び出した。そこにはすでに黒い愛馬に跨り、出発の準備を整えたギルバート様の姿と、その横で同じく馬に乗り手綱を握るカイルさんの姿があった。
ギルバート様は黒い騎士隊服に身を包み、深くフードを被っている。馬の黒さも相まって、その姿はまるで闇に溶け込む死神のようで、周囲の空気さえも凍りつかせるような威圧感を放っていた。
「……ギルバート様! お待ちください!!」
私は部屋を飛び出し、階段を駆け下りた。
宿の外へ飛び出すと、冷ややかな視線がフードの奥から私を射抜く。
「……ついて来るだと? お前はまた何を企んでるんだ、ルーナマリア」
「お金になりそうなことです! ギルバート様!」
「……金の話をすればいいと思ってるだろ」
「そんなこと……ちょっっと思ってます!」
「正直者め」
ギルバート様が、呆れたように、けれどどこか楽しげに「フッ」と微かに笑った。
(……!! また、笑った!?)
脳内でミニルーナが『2度目のデレ頂きました!』のポーズをキメている。
カイルさんが眼鏡のブリッジを押し上げ、可笑しそうに肩をすくめた。
「やれやれ。閣下の失笑を引き出すとは、奥様も相当な手練れですね。よろしい、馬車の用意をさせましょう」
「奥様! 今回の遠征に同行されるんですか? 最近、屋敷のご飯がめちゃくちゃ美味しいんで、道中の飯も期待してますよ!」
準備をしていた騎士たちが、親しみを込めて声をかけてくる。
「ふふ、お任せなさい! 王都でいい食材も探してくるから!」
ところが、王都へ向かう道中で平穏は破られた。
「ヒヒィーン!」
突如、馬の鋭い嘶きが響き、行軍が止まった。
「止まれ! 荷物を置いていきな……って、おい、嘘だろ」
「チッ、死神の紋章……。死神の戦士かよ、ハズレくじだぜ」
現れたのは数人の盗賊たち。ギルバート様は愛馬に跨ったまま静かに剣を抜き放った。
次の瞬間、空気が凍りついた。
(……え?)
速すぎて、見えない。
ギルバート様が動いたと思った瞬間には、先頭の男の武器が中を舞っていた。
鋭い剣閃が空を切り、踏み込みの衝撃で地面の土が爆ぜる。銀色の刃が閃くたび、盗賊たちは悲鳴を上げる暇もなく地面に転がされていく。
屋敷で見せる静かな佇まいとは正反対の、荒々しくも美しい、圧倒的な武。
(……これが、本物の戦闘……っ)
魔物相手とは違った、初めて目の前で見る「命のやり取り」に身震いしたその時、脳裏に彼と出会った日の光景が鮮烈に蘇った。
――黒い髪を無造作に流し、返り血と泥にまみれた軍服姿。数えきれない戦傷が刻まれた横顔。
(あの時も……怖いくらい、かっこよすぎたんだ……)
最後の一人を片付けた勢いで、被っていたフードがバサッとはだけた。一瞬だけ露わになった漆黒の髪と銀色の瞳にドキッとしたけれど、ギルバート様は面倒そうにすぐフードを引っ張り直す。賊が全員無力化されると、ギルバート様とカイルさんが冷徹にその処遇を話し合い始めた。
「……さて。カイル、こいつらはどうする」
「いつも通りなら衛兵に引き渡しですが……彼らも元は食い詰めた連中。学がないため騎士団の筆記試験にも通らず、家族を養うために賊に身を落とす……。職がなければまた繰り返しますから、仕方ありませんね」
カイルさんとギルバート様が、冷徹に盗賊の処遇について話し合っている。
その最中、私は地面で震える男たちから目が離せなかった。
(……結構若い子もいる。あの男の子、さっきギルバート様の剣を紙一重でかわしたよね? それに、あっちの男の人、逃げ回る時に無駄にキレのある動きを……)
その瞬間、私の脳内に天啓が降りた。
(これだ……! 磨けば最高の『アクション俳優』になる。悪役もヒーローも、彼らなら演じきれる!)
ギルバート様が、感情を排した瞳で剣を振り上げた。
「……生かしておいても害にしかならん。ここで断つ」
迷いのない一撃が、死を覚悟して目を閉じた盗賊の首筋へ振り下ろされる――。
「ちょっと待ったーーーー!!!!! タイム、タイムです!!!」
私は馬車の扉を蹴り開け、なりふり構わずその間に割って入った。
「ルーナマリア!? 何をしている、どけ!」
「どきません! ギルバート様、その人たち殺さないで!」
私は地面に転がっている男たちを指差した。
「筆記試験がダメでも、その身のこなし! 逃げ回る時の無駄にキレのある動き! 私が全部買い取ります! 今日からあなたたちは、私の物語を彩る『アクション俳優』だよ!」
「あくしょん……はいゆ……?」
剣を振り上げたまま固まるギルバート様と、背後で「は?」と声を漏らしたまま固まるカイルさん。
呆然とする一同をよそに、私の脳内では「悪の組織」と「正義のヒーロー」の殺陣の構成が、凄まじいスピードで組み上がっていく。
ギルバート様が、我に返ったように低く冷徹な声を絞り出した。
「……ルーナマリア。こいつらを生かして連れて行く責任は、お前が取るのか?」
射抜くような鋭い視線。けれど、私は一歩も引かずに言い放った。
「取ります!」
即答だった。
胸の奥が少しだけ震えていたけれど、それでも視線は逸らさなかった。その迷いのない返球に、ギルバート様は一瞬だけ目を見開き、やがて重いため息と共に剣を鞘に収めた。
「……好きにしろ」
「ありがとうございます! 」
死を覚悟していたのに、謎の女に「買い取る」と宣言された盗賊たち。
一同、唖然。
……そんな空気もお構いなしに、結局、彼らは私の「役者候補」として同行することになった。
その夜の野営。私はさっそく、遠征に持ち込んだ貴重な収穫物と、道中で騎士たちが手際よく仕留めてくれた新鮮な肉を使って調理を始めた。
土地が痩せていることに変わりはないけれど、プランター栽培や芋類を中心に、卵の殻を砕いて肥料にするなど工夫を凝らして、ようやく採れはじめた大切な野菜たち。そこに合わせるのは、出発前に料理長が「奥様のためなら」と快く分けてくれた秘蔵のスパイスだ。
玉ねぎや人参にそっくりな野菜をじっくり煮込み、スパイスの香りが辺りに漂い始めると、準備は完了。
「今日のメニューは、キャンプの定番……カレーだよ!」
スパイスの香りが辺りに漂うと、騎士たちが吸い寄せられるように集まってきた。
「うんめぇぇぇ〜!」
「最初はこの茶色い見た目にビビったけど、この匂い、たまんねぇな!」
米はこの世界では貴重なので、今回はナンを大量に焼いておいた。
騎士たちがナンをちぎってカレーにダイブさせる姿を見て、私は嬉しくなる。
(あぁ、やっぱりカレーは正義だね。ご飯だったらもっと最高だったんだけど……贅沢は言えないか)
そして、捕虜として繋がれている盗賊たちにもカレーを振る舞った。
「こんなうめぇ飯、久しぶりだ……」
中には涙を流して食べる男までいる。その中心の、比較的若い青年二人に声をかけた。
「うま……なにこれ。止まんねぇんだけど」
「めっちゃうまいじゃん! なあ、これおかわりあるのかな?」
私はその二人をじっと見つめる。
汚れに隠れているけれど、整った目鼻立ち。しなやかな筋肉。そして、食べっぷりの良さ。
(おおっと、ここで戦隊でいう「レッド枠」と「ブルー枠」を確保ーーー!! 盗賊にしておくにはもったいなすぎるルックス……これは育てがいがある!)
私はレッド候補の子に話しかけた。
「おかわり、まだあるよ。……ねえ、君たち名前は?」
「いいの!? 俺はアレンだ!」(レッド枠:元気で直情型っぽい)
「僕はリオン」(ブルー枠:少しクールでシュッとしてる)
他の4人の名前もしっかり聞き出し、彼らがどうして賊になったのか、家族の話なんかを聞きながら場はどんどん盛り上がっていく。
「アレンにリオン、それにみんな。城に帰ったら特訓ね!」
そんな、すっかり「身内」のように盛り上がる様子を、少し離れた焚き火の前でギルバート様がじっと見ていた。
手元のカレー(大盛り)を口に運びながら、彼は複雑そうな、けれどどこか毒気を抜かれたような眼差しをこちらに向けている。
「……ルーナマリア。お前は、賊とまで仲良くなるつもりか」
少し呆れたようなその声に、私は満面の笑みで答えた。
「仲良くなるんじゃなくて、プロデュースするんです、ギルバート様!」
夜の帳が下りる中、パチパチと爆ぜる焚き火の音と、カレーを貪る男たちの笑い声が響いた。




