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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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11. 胃袋は最強の弱点

「野菜スイーツで、資金作りだと?」


ギルバート様が怪訝な顔をし、カイルさんは「また突飛なことを……」とこめかみを押さえている。私はめげずに、厨房まで歩きながら具体的にプレゼンを開始した。


「王都では葉物野菜が中心で、根菜はほとんど出回っていません。あっても調理方法が確立されていないんです。そこに目をつけたんですよ!」


厨房の重い扉を開けると、湯気の向こうから料理長が顔を出した。


「おう、奥様! そんなにゾロゾロ引き連れて……今日は一体何の騒ぎだ?」


「料理長、またまたお力をお貸しください! 今日は『辺境の宝』を化けさせますよ!」


私は料理長と協力して、次々と試作品を仕上げていく。サツマムやカボチャコの優しい甘みを活かしたプリンにパウンドケーキ、サクサクのクッキー。さらに、カボチャコやジャガムの濃厚なポタージュ。


「食事の添え物にもなり、菓子にもなるなんて……毎日勉強させてもらってますよ、奥様!」


料理長がガハハと笑いながら、手際よくオーブンからパウンドケーキを取り出す。

まずは目の前の3人に試食してもらう。ギルバート様は一口、ゆっくりとカボチャコのタルトを口に運んだ。


「……信じられん。これが、あの無骨な根菜だというのか? 砂糖は最小限だというのに……」


驚愕を隠しきれない様子のギルバート様に、カイルさんも驚きで眼鏡を曇らせながら続く。


「相変わらずあなたは規格外ですね…。あの泥臭い芋が、これほど洗練された味になるなんて……」


「素晴らしいよルーナ! 脳が焼けるような新感覚だ!まるで未知のエネルギー回路を接続されたような衝撃だよ。これを食べれば私の魔道具開発も3倍速で進むね、いや進むよ、進ませてくれ!!」


マキナさんは椅子から立ち上がって拳を震わせている。


「……あ、なんかヒラメキが降りてきたかも。ボクは行かねばならない! 待ってなさい私の魔道具たち~!」


そう言い残して、マキナさんは嵐のように厨房を飛び出していった。


「……これならば、食にうるさい王都の者たちも口を開くだろう」


最後はギルバート様が、静かに、しかしほんのわずかに口角を上げて頷いてくれた。


(デレた……! 今、ほんの少しだけデレた! あの死神の戦士、ブラック担当がデレたぞー!)


冷静を装いつつも、私の頭の中では扇子を持った何人もの小さいルーナが「いよぉーっ!」と小躍りしている。


「そして! 今日の真のメインはこれです!」


私が差し出したのは、黄金色に輝く薄切りの揚げ物――ポテトチップス。


「ギルバート様、これを騎士団の皆様にも食べてもらっていいですか?今ちょうどお昼時ですよね!食堂へ行きましょう!」


私が意気揚々とバスケットを抱えて食堂に行こうとすると、隣を歩くギルバート様が少しだけ声を落として言った。


「……騎士団のやつらは、質実剛健といえば聞こえはいいが、要は食えれば何でもいいという連中ばかりだ」


ギルバート様は、普段の無愛想な顔に少しだけ困ったような色を混ぜる。


「特に最近は魔物の活性化で任務が重なり、食事はただの『燃料』としか思っていない節がある。野菜に至っては、皿の隅に置かれた飾りだと思っている始末だ。奴らの意識を変えるのは、一筋縄ではいかんぞ」


「ふふ、燃料ですか。なら、最高に火力の高い燃料を投下してあげましょう」


私が不敵に笑うと、彼はわずかに目を見開いた。


「……あなたのそういうところ、もはや尊敬に値しますね」

カイルさんの呆れ声が後ろから聞こえる中、私たちは騒がしい食堂の扉を開けた。



「皆、聞いてくれ。今日から我々の食卓に協力してくれることになった、ルーナマリアだ」


ギルバート様が私を紹介した瞬間、食堂がざわついた。


「ルーナマリアって……ギルバート様の奥方の?」

「大輪の氷の花、あの『氷の令嬢』様か……?」

「なんて冷ややかな美貌だ……近づくだけで凍え死にそうだぜ」


(いや、ただのぽっちゃり気味な芋好き女ですけど!?)


遠い目をしている私の前には、ジャガムバターや、さっき作った料理がずらりと並べられる。


「おいおい、これ、野菜なんだろ……? 野菜なんて食べてもなぁ」

「この『ジャガム』ってやつ、初めて見るけど。こんなゴツゴツした塊が本当に食えるのか?」


屈強な騎士たちが半信疑いで料理を囲む。けれど。


「……待て、これめっちゃいい匂いするぞ」


一人が恐る恐る、ポテトチップスを口に放り込んだ。……パリッ。


「な……なんだこれ! 止まらない! 塩気とこの食感、悪魔的だ!」

「こっちのジャガムバターもヤベェぞ! 芋ってこんなに美味しいのか!? 噛むと甘みが溢れてくるぞ!」

「野菜? これが? 嘘だろ、明日から毎日これでいいぞ!」


(いや、流石に毎日はキツイと思いますよ)


心の中で冷静にツッコミつつも、お祭り騒ぎの食堂を見て私は確信した。


(これは……金になる。ははは、ははははは!)


私の脳内では、扇子を持ったミニルーナたちが「成金万歳!」「資金繰り解消!」と書かれた垂れ幕を持って狂喜乱舞している。


(そうよ、私は悪役の方の令嬢なんだから。この胃袋という名の弱みを握って、辺境から王都まで、芋の魔力でひれ伏させてやるわ……!)


狂喜乱舞する食堂の喧騒を、少し離れた扉の影から見守る二つの影があった。

カイルが手元の懐中時計をパチンと閉じ、隣に立つ主へと視線を向ける。


「閣下。……約束の一週間が経ちましたが、いかがいたしましょうか。彼女の滞在についてですが」


カイルの問いに、ギルバートは無言で視線を投げた。

その先では、泥だらけの令嬢が騎士たちに囲まれ、「もっと揚げろー!」「おかわりだー!」と野太い声でせっつかれながら、豪快に笑い飛ばしている。

かつての『氷の令嬢』の面影など、微塵もない。

ギルバートは鼻を鳴らし、わずかに、本当にわずかに目を細めて呟いた。


「……ふん。これだけ兵の士気を上げられては、追い出すわけにもいくまい」

「では、継続ということで?」

「……。……まあ、認めてやらんこともない」


ぶっきらぼうに言い捨てて背を向ける主の耳が、心なしか少しだけ赤い。カイルはその様子を眼鏡の奥で愉快そうに眺めると、恭しく一礼して後を追った。



――そこから、怒涛の三ヶ月が過ぎた。



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