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辺境に追放された悪役令嬢、特撮オタク保育士の知識で領地を聖地化したら死神公爵に溺愛されました  作者: 栗原りんご
第1章 ヴォルフラム編

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10. 天才技師と資金不足

「誰ー!!!!!?」


心臓が口から飛び出るかと思った。叫び声とともにペンを放り出す。


「あぁ、ごめんね。驚かせるつもりはなかったんだ」


そこに立っていたのは、まばゆいばかりの金髪ストレートヘアをなびかせた、知的な雰囲気の女性だった。

知的な眼鏡の奥に光る右目は鋭く、しかし左目は長い前髪で隠されている。隙間からわずかに覗く痛々しい傷跡が、彼女がただ者ではないことを物語っていた。


「ボクはマキナ・エーデルシュタイン。この城の魔道具を一手に引き受けている技師さ」


「ル、ルーナマリア・スカーレットです……」


「ルーナマリア……ああ、なんて素晴らしい響きだ! ギルバートにあんな顔をさせるだなんてすごいよ!どんな野蛮な娘かと思えば、こんなに可憐で、それでいて瞳の奥に狂気……いや、情熱を宿した宝石のような子だったなんて!」


マキナさんは私の両手を力強く握りしめ、眼鏡をクイッと押し上げながら目を潤ませている。


(……あんな顔とは? あの鉄仮面の旦那様が、一体どんな顔をしていたというの……?)


(というか……この人、やべぇ人だ。特撮シリーズにたまに一人はいる、技術に全振りしすぎて距離感がおかしい『やべぇ枠』の科学者ポジションの人だわ)


「……庭でジャガム掘って食べてるだけの女ですけど」


「それが最高に面白いんじゃないか! 公爵令嬢が自ら土を掘る!? 素晴らしい、既存の価値観の破壊だ! ボクは君のような、常識の枠を蹴り飛ばす人物に出会えるのをずっと待っていたんだよ!」


(圧が強い圧が……! 美人なのに、物理的にも精神的にも距離がゼロ距離だよ!)


マキナさんは身を乗り出し、私の肩をガシガシと揺らす。反応がめちゃくちゃオーバーだ。と、彼女の鋭い右目が机の上の紙に吸い寄せられた。


「……ッ!? こ、これは……っ!?」


「これですか? 武器にもなる『変身アイテム』のデザイン案です」


「へんしんあいてむ……?」


この世界のおもちゃといえば、せいぜい積み木やパズル、お絵描きなど、簡単なものしかなかった。だからマキナさんは、目の前の図面が何を示しているのかすぐには理解できなかったのだろう。

そこに、私はオタク特有の早口で一気に畳み掛けた。


「そう! 魔道具のコンロやオーブンを見て、応用できないかなって思ったんです。ここに魔核をはめて、『変身!』とか『ミラクルパワー!』って言いながら――ここ、絶対に重要なんですけど――スティックならこの鈴を鳴らす! 剣ならここのスイッチをガチッと押すんです! すると、女の子はフリフリだけど防具もついた可愛い服に、男の子は仮面とマントがついた最高にクールな姿になるんです! しかも、このアイテムから直接、炎や雷の魔法が出たりするんですよ! 本当は変身バンクのBGMとか名乗り口上の音も入れたいところなんですけど、そこは贅沢言わないので、まずはとりあえず試作品を!!」


「なっ……なんだいその革新的なアイデアは! 天才か!? 君は天才なのか!?」


「魔法の起動に『名乗り』という心理的トリガーを設けることで、術者の魔力収束を高めるというのか……? しかも形状変化による外部装甲の展開……。実戦用にも……いや、実戦どころか世界の戦術が変わるのでは…?」


マキナさんは眼鏡の位置を何度も直しながら図面を凝視し、ブツブツと独り言を漏らし始めた。


「ストップストップ!実戦の前にまずは子どもたちを喜ばせたいです!」


私が必死にブレーキをかけようとした時、部屋の入り口から氷点下の声が響いた。


「……随分と楽しそうだな」


マキナの肩が跳ねる。

振り向くと、ギルバート様が立っていた。

その視線は私ではなく――机の上の図面に向いている。

ハート型のステッキ。

剣のスケッチ。

びっしり書き込んだメモ。

彼は無言で数秒、それを見つめた。


「……魔力収束効率の向上、装甲展開、遠隔発動……」


ぽつり、と呟く。


「理論上は、可能だな」


「…え?」


一瞬だけ、彼の目に興味の色が灯った。

ほんの一瞬。すぐに消えたけれど。


「だが――」


視線が私に向く。


「残念ながら、そんな資金はない」


「えぇ~」

(持ち上げて落とすじゃん…)


よく見れば、ギルバート様の後ろには呆れ顔のカイルさんも控えていた。

……ちょっと待って。冷徹美形のギルバート様に、爽やかイケメンのカイルさん、そして隣には金髪美女のマキナさん。

なにこの部屋、顔面偏差値が高すぎて密度が濃い。イケメンと美女に囲まれまくっているけど、そんな中にいる自分はといえば「絶賛ダイエット中(予定)のぽっちゃり令嬢」……。

あまりの公開処刑っぷりにいたたまれなくなって、私はそっと遠い目をした。


「ギル、いつの間に……」


「今来たところだ。マキナ、お前はまた予算度外視の遊びに手を貸そうとしているのか。今の辺境領に、子供の遊び道具を作る余裕などない。騎士団の装備は老朽化している。城壁の修繕も追いついていない。

冬が来れば、備蓄も足りなくなる」


淡々とした声。


「優先順位は、分かるだろう」


部屋の空気が、すっと冷える。


ギルバート様の一言に、マキナさんは「うぐっ……」と胸を押さえて崩れ落ちた。


「あぁ……そうなんだよ、ルーナ。今は資金不足でね……。魔道具の改良は急務だけど、玩具に回せるほどのお金は……」


なるほど、まずはこの「夢」を形にするための軍資金を作らなきゃいけないってことね。

んーーーーー。

お金、お金かぁ……。


ここに来てやった事って芋掘って料理して

これから野菜育てようぐらいしか…


その時、頭の中で何かが弾けた。

(……そうだ。野菜スイーツで、資金作りができないかな!?)


ジャガムやカボチャコ、そして届いたばかりのラズリやブルリ。


これらを使って――

王都の貴族が見たこともない「甘くて太らないお菓子」を作る。


(バターと砂糖まみれのスイーツしかないこの世界で、“ヘルシーで美味しい”は絶対に刺さる)


しかも、見た目も可愛くして――

名前もそれっぽくして――


(“ミラクルスイーツシリーズ”…とか? いや、もっとこう…!あと、元の世界では『青汁』が爆発的に売れてたし絶対お金になるはず!!!)


「……ギルバート様!」

顔を上げる。


「私に、調理場の一部を自由に使わせてください!」


銀の瞳が細められる。


「……理由は」

「この領地、私がお金を生み出してみせます」


一瞬の沈黙。

カイルが目を見開き、マキナが息を呑む。

私は不敵な笑みを浮かべた。

そんな私の様子を、ギルバート様は冷徹な面持ちのまま、けれどその奥に拭いきれない興味を滲ませて見つめていた。やがて、彼はわずかに口角を上げると、低く、試すような声で告げた。


「……ほう。お手並み拝見といこうじゃないか」


約束の一週間は、とっくに過ぎていた。


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