保健室で
保健室に行くと、担当の先生はすぐに私を迎え入れてくれた。ベッドに横たわる。私はぼんやりと白い天井を見つめていた。体育の授業はどうなっているのだろうか。榊原先生はどう思ったのだろう。そんなことが気がかりだったが、次第に私はうとうとと眠ってしまっていたらしい。
目を覚ました時には、ベッドの横に榊原先生が座っていた。いつもの厳しい表情ではない。どこか考え込むような顔をしている。
「芦川。すまなかったな。無理させてしまって。もっと気をつけてやるべきだったのに」
先生の言葉に私は驚く。まさか、榊原先生が謝るなんて。私は叱られるものだと思っていた。怒られるものだと思っていた。なのに、先生は自分が悪かったと言った。
「そんな……先生は悪くありません」
思わずそう答えた。実際、私が勝手に怖がって、勝手に動けなくなっただけだ。
でも、先生は首を横に振った。
「いや。先生がもっと早く動いておくべきだったんだ」
そして少し言い淀むように視線を落とした。
「やっぱり、中学で何かあったんだな……」
先生は独り言のように呟いた。
「え……?」
思わず顔を上げてしまった。榊原先生は、私の中学時代のことを知っているのだろうか? だとしたら、どんな話になっているのだろうか?
「……実はな、ずっと気になっていたんだ」
先生は静かに言った。
「多香美女子校の高等部に進まなかったこと。中学では水泳で実績があったのに、水泳部に入らなかったこと。それに、お前は体育の時だけ妙に私を避けていただろう」
最後の言葉を言うと、先生は苦笑した。
「だからな、体育か、水泳部か、その辺で何かあったんじゃないかとは思っていた。ただ、先生の考えすぎだったらいいと思っていたんだが……どうやら、そうでもなかったみたいだな」
私は驚いた。ずっと避けてきた榊原先生が、実はそこまで気にかけてくれていたなんて。
「先生……」
「いい。今は言わなくていい」
先生は優しく私の言葉を制した。
「誰でも話したくない過去はある。いつか話したくなった時に話したい人に話せばいいさ」
そして先生は私の肩にポンと手を置いた。
「ただな、芦川、お前は悪くないからな。中学でお前に何があっても、お前が責任を感じる必要はない。水泳の授業がどうしても無理なら、それは仕方ない。体育の点数が足りない分は、先生が別の方法で補填できるよう考える。お前が無理をして続けることはないんだぞ」
その言葉は、すんなりと私の心の底に落ちた。
不思議だった。
たったそれだけの言葉なのに、胸の奥に張りついていた何かが少しだけ軽くなった気がした。
「先生……ありがとうございます」




