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水面の影と光  作者: 与一
第1章 ある生徒について
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保健室で

保健室のベッドに横たわり、私はぼんやりと白い天井を見つめていた。中学時代の悪夢がまたしても蘇り、胸が締め付けられるようだ。

保健室の先生が何度か様子を見に来たが、私は曖昧な返事しかできなかった。心配して声をかけてくれるクラスメイトの気配も感じたが、それにも応えられない。うとうとする。

授業を終えた榊原先生が私の様子を見に来てくれた

「どうだ? 調子は?」

先生はベッドサイドに腰掛け、静かに尋ねた。

「はい……少し落ち着きました」

私は正直に答えた。

「やっぱり、中学の水泳で何かあったんだな…」

先生は独り言のように呟いた。

「え……?」

思わず顔を上げてしまった。榊原先生は、私の中学時代のことを知っているのだろうか? だとしたら、どんな話になっているのだろうか?

「……実は、ずっと、気になっていたんだ、芦川、お前のことは。多香美女子校の高等部に進学せず、うちに進学したこと。中学では水泳部でいい戦績を持っているのに、推薦入試ではなく、わざわざ一般入試でこの学校を受験したこと。うちの高校には、多香美女子校以上に立派な屋内プールもあるのに、水泳部に入らなかったこと。そして、何より、学校生活は楽しく送っていて、誰とでも打ち解けているのに、唯一、体育の授業の時だけは、妙に私に距離を置いていたこと。だから、体育の授業化水泳部かで何かあったのではないか、と心配していたんだ。先生の取り越し苦労だったらいいのにと願っていたのだが、やはり、何かあったのだな」

 私は驚いた。榊原先生が、私のことをそこまで気にかけてくれていたなんて。

「先生……」

「いい。今は言わなくていい」

先生は優しく私の言葉を制した。

「誰でも話したくない過去はある。いつか話したくなった時に話したい人に話せばいいさ」

そして先生は私の肩にポンと手を置いた。

「でもこれだけは言っておく。芦川、お前は悪くないからな。お前が中学で何があっても、お前が責任を感じる必要はないんだからな。水泳の授業がどうしても無理なら、それは仕方ない。体育の点数が足りない分は、先生が別の方法で補填できるよう考える。お前が無理をして続けることはないんだぞ」

その言葉は、驚くほどストレートで力強く響いた。今までの私なら、また誰かに甘えてしまうのかもしれないという負い目を感じて、反発していたかもしれない。でも今は、素直に受け止めることができた。榊原先生の言葉には一切の嘘や計算がないように思えたからだ。

「先生……ありがとうございます」

涙が出そうになるのをこらえて答えると、榊原先生は少しだけ微笑んでいた。


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