保健室で
保健室のベッドに横たわり、私はぼんやりと白い天井を見つめていた。中学時代の悪夢がまたしても蘇り、胸が締め付けられるようだ。
保健室の先生が何度か様子を見に来たが、私は曖昧な返事しかできなかった。心配して声をかけてくれるクラスメイトの気配も感じたが、それにも応えられない。うとうとする。
授業を終えた榊原先生が私の様子を見に来てくれた
「どうだ? 調子は?」
先生はベッドサイドに腰掛け、静かに尋ねた。
「はい……少し落ち着きました」
私は正直に答えた。
「やっぱり、中学の水泳で何かあったんだな…」
先生は独り言のように呟いた。
「え……?」
思わず顔を上げてしまった。榊原先生は、私の中学時代のことを知っているのだろうか? だとしたら、どんな話になっているのだろうか?
「……実は、ずっと、気になっていたんだ、芦川、お前のことは。多香美女子校の高等部に進学せず、うちに進学したこと。中学では水泳部でいい戦績を持っているのに、推薦入試ではなく、わざわざ一般入試でこの学校を受験したこと。うちの高校には、多香美女子校以上に立派な屋内プールもあるのに、水泳部に入らなかったこと。そして、何より、学校生活は楽しく送っていて、誰とでも打ち解けているのに、唯一、体育の授業の時だけは、妙に私に距離を置いていたこと。だから、体育の授業化水泳部かで何かあったのではないか、と心配していたんだ。先生の取り越し苦労だったらいいのにと願っていたのだが、やはり、何かあったのだな」
私は驚いた。榊原先生が、私のことをそこまで気にかけてくれていたなんて。
「先生……」
「いい。今は言わなくていい」
先生は優しく私の言葉を制した。
「誰でも話したくない過去はある。いつか話したくなった時に話したい人に話せばいいさ」
そして先生は私の肩にポンと手を置いた。
「でもこれだけは言っておく。芦川、お前は悪くないからな。お前が中学で何があっても、お前が責任を感じる必要はないんだからな。水泳の授業がどうしても無理なら、それは仕方ない。体育の点数が足りない分は、先生が別の方法で補填できるよう考える。お前が無理をして続けることはないんだぞ」
その言葉は、驚くほどストレートで力強く響いた。今までの私なら、また誰かに甘えてしまうのかもしれないという負い目を感じて、反発していたかもしれない。でも今は、素直に受け止めることができた。榊原先生の言葉には一切の嘘や計算がないように思えたからだ。
「先生……ありがとうございます」
涙が出そうになるのをこらえて答えると、榊原先生は少しだけ微笑んでいた。




