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水面の影と光  作者: 与一
第1章 ある生徒について
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青い檻を出るまで

卒業までの数ヶ月、私はただひたすら耐える日々を送った。笑顔も消え、教室でも孤立していた。

しかし、私にとって本当の地獄は、中学最後の大会を終え、引退してからだった。私が突然、プールで水着を脱ぎ捨て、全裸になって泳ぎ始めたという噂が学校中に広まり始めたのだ。もちろん事実とは全く異なる。私が裸で泳ぐことになったのは、梅垣先生による強要が原因なのに。しかし噂は、その部分は巧みに省略され、私が公衆の面前で突如として扇情的な行動に及んだかのように歪められて伝えられていた。

閉ざされた全寮制の学校だから、そういう噂は広がるのが速い。しかも女子校だ。好奇心とゴシップ好きが渦巻く環境で、噂は尾ひれをつけて膨らんでいく。事情を知っているはずのクラスの子たちも、水泳部の部員だった人たちも、何もしてくれない。それどころか、平然とその噂を話題にして楽しんでいる声を耳にしたことさえある。プールサイドでは傍観者だったのに、今度は積極的に私を追い詰める側に回っているのだ。あの日見たもの、感じたもの全てを忘れ去ったかのように。

学校中の誰もがまるで私を汚らわしいもののように見る。奇異な目、蔑む目、同情するふりをして内心ほくそ笑んでいる目。以前まで普通に挨拶していた友達も、目が合えば気まずそうに逸らし、距離を取るようになった。

「あの噂は嘘だって言ってよ!」

「信じないでよ!」

そう叫びたかった。何度喉元まで言葉が出かかったか分からない。でも声にならない。喉が詰まって、呼吸が苦しくなる。反論すればするほど、火に油を注ぐだけだと分かっているからだ。むしろ、「見苦しい言い訳をする卑猥な女」として叩かれる未来が見える。

わざわざ県外のこの学校を選んだのは、小学生のころから地元のスイミングスクールにずっと通っていて、水泳が本当に大好きだったからだ。タイムが縮まること、新しい技を覚えられること、水の中での無重力感――それが全てだった。多香美女子校の水泳部の実績を知って、迷わず受験した。将来は競泳選手になりたいと思っていたわけではない。ただ純粋に、もっと強くなりたい。もっと泳ぎがうまくなりたい。それだけだった。だから、どんなに厳しい練習にも耐えてきた。しかし、そうやって大切に育んできた信念も目標も、築き上げた栄光も、何もかもが虚しいものになってしまった。

この中学の生徒は、ほとんどが併設の高等部に進学する。だが、私は、地元の普通の共学の高校に進むことにした。

卒業式を終えた後の教室でも、私は一人だった。みんな、楽しそうに高等部に進む話をしている。しかし、私は地元に戻るとだけで、高校名を言わなかった。もし言っていれば、きっとその高校でも私の噂は広がるはず。それを防ぐためだ。

式を終えると寮に戻った。最後の荷物を持って、いよいよここを出る。その時、私の部屋の扉に、一枚の封筒が挟んであった。そっと目立たないように。開けると、走り書きで「先輩、あの時、かばってくださったのに、何もできなくてごめんなさい。新しい高校で幸せになってください。私は大丈夫ですから」とだけ書いてあった。差出人も、宛名も書いていない。でも、私には誰からかすぐに分かった。私の後輩の一人だ。

彼女が地区大会の直前に高熱を出してしまったことがあった。39度を超える熱で、顔は真っ赤に腫れ上がり、息をするのも苦しそうだった。

「出られます!」と本人は必死に訴えていたが、明らかに無理だった。

ところが、梅垣先生は全く取り合わなかった。

「大会は明日だ。選手は代えられない。無理やりにでも出させる」

冷酷な言葉に、部室の空気が凍り付いた。後輩は不安そうな顔で俯いている。他の部員たちは先生の顔色を窺いながらも、何も言えずに黙っていた。

当時、私はその子のフォロー役だった。彼女とはペア練習で一緒に泳ぐことも多く、実力差もある程度分かっていた。

「先生」

勇気を出して口を開いたのは初めてだったかもしれない。

「とても泳げる状態ではありません。彼女の出場予定だった種目には、私が全て出ます」

一瞬、気まずい沈黙が流れた後、

「……勝手にしろ」

それだけ言って、先生は部室を出て行った。珍しく、それ以上、何も言わなかったのは、なぜだろう。私の実力なら問題ないと踏んだのか。

あるいは、後輩をかばった私の善意は、先生にとっては自己中心的な介入であり、権威への反抗と見えたのだろうか。

エースとして期待されていた私が、先生の決定に異を唱えたことが、先生のプライドを傷つけたのかもしれない。そして、それが積もり積もって、あの夏の水泳の授業での、あんな理不尽な仕打ちにつながったのではないだろうか。

「芦川は水泳部だから、みんなの模範になるように」

梅垣先生の言葉が脳裏に蘇る。あれは、私への警告だったのだろうか。いや、違う。最初から、私を貶めるための口実だったのだ。

手紙の「かばってくださったのに」という言葉が胸に沁みる。あの時はただ、苦しんでいる後輩を見て見過ごせなかっただけだ。でも、その行動が、結果的に私自身をさらに辛い立場に追いやった。

それでも、後輩の言葉が、わずかながらも救いだった。誰か一人でも、自分のしたことを認めてくれる人がいる。それだけで、あの中学時代の全てが無駄ではなかったと思えるから。


寮を出て、バス停に向かう。長い坂道を下りながら、振り返ることはしなかった。涙が頬を伝ったが、それを拭うこともなく歩き続けた。

私はこれから新しい高校に行く。友達ができるかどうか、勉強についていけるかどうかも分からない。ただ、過去の自分に囚われず、前に進みたいという気持ちだけがあった。


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