第6話 決意 後編
シゾーカラインを抜け、五人は牧之原の地下拠点へ転送された。
「敵性反応、まだ移動してる」
いずみが端末を確認しながら言った。
表示されている反応は五つ。
一度も大きく離れることなく、一定の範囲を高速で動き続けている。
「場所は?」
一護が聞く。
「さっきとは別の温室。そこから北へ動いてる」
「北……」
リョクは、頭の中に周辺の地図を思い浮かべた。
この辺りの道は分かる。
茶畑。
花卉栽培用の温室。
農道。
少し先には集荷施設もある。
「このまま行ったら、花の集荷場の方に出る」
「人いる?」
成実が聞く。
「この時間なら、たぶんいる」
リョクが答えた。
一護が歩く速度を上げる。
「急ごう」
「ああ」
五人はS-5Xへ乗り込んだ。
運転席には、再びリョク。
エンジンを始動する。
地下拠点を出たS-5Xは、そのまま農道へ入った。
車窓を茶畑が流れていく。
中編で基地へ戻る時と同じ景色。
だが、今は違う。
あの時は、何をすればいいのか分からないまま戻ってきた。
今は、少なくともやるべきことを考えようとしている。
「いずみ、敵の位置」
「前方二キロ。まだ北上中」
「集荷場まで?」
「この速度なら、そんなにかからない」
「分かった」
リョクはアクセルを踏み込んだ。
助手席の一護が前を見る。
「逃げられる前に叩くか?」
リョクは、すぐには答えなかった。
以前なら、頭の中だけで考えていた。
今度は違う。
「いや」
一護が見る。
「今までみたいに追いかけたら、またあいつらに振り回されると思う」
「じゃあ?」
「先に集荷場との間に入る。逃げる方向を限定したい」
後ろから、いずみが画面を見る。
「集荷場の東側に先回りしよう。西側は道が広くて、あいつらに逃げられやすい」
「分かった。東から行く」
リョクはハンドルを切った。
成実が身を乗り出す。
「私たちが先に回って、向こうから来るの待つってこと?」
「そう」
「でも、反対に逃げたら?」
桜が聞く。
「その時は追わない」
四人が、リョクを見る。
リョクも、一瞬だけ迷った。
だが、続ける。
「追いかけたら、また別々の方向に誘われる。まずは、五体を一か所から逃がさないようにしたい」
一護が頷いた。
「俺はそれでいい」
「俺も」
いずみが続く。
「反応は見てる。向きが変わったら言う」
「ありがとう」
自然に言葉が出た。
自分が決めたのではない。
自分が考えを出して、ほかの四人がそれを見ている。
間違っていたら、誰かが言う。
それでいい。
S-5Xは細い農道を抜け、花卉集荷施設の手前で止まった。
五人が車を降りる。
遠くから、何かが割れる音がした。
続いて、短い悲鳴。
「来た!」
いずみが叫ぶ。
五つの影が、温室の間から飛び出してくる。
低い姿勢。
花弁のような刃を広げ、高速で地面を駆ける。
その後ろでは、温室の花から色が失われていた。
「変身するよ!」
成実がブレスを構える。
五人が、それぞれシゾーカメダルをセットする。
「変身!」
五色の光が農道を走る。
光が消えた時、そこにはシゾーカファイブが並んでいた。
「——静特戦隊、シゾーカファイブ!」
フラワーゴブリンたちが足を止めた。
五つの頭が、ほとんど同時にこちらへ向く。
次の瞬間、一体が横へ飛ぶ。
続いて二体。
さらに二体が左右へ広がる。
前と同じだ。
こちらを散らすつもりだ。
「来る!」
オレンジが構える。
「待って!」
グリーンが声を上げた。
レッドが一瞬だけ前へ出かけ、その足を止める。
「正面だけ見ないで! 左右も来る!」
「分かった!」
ブラックが左を見る。
「左二体!」
「右も二体!」
ピンクが叫ぶ。
「真ん中一体!」
オレンジが補う。
五体が一斉に走り出した。
「ブラスター!」
レッドがシゾーカブラスターを抜く。
ほかの四人も続いた。
「右、撃つ!」
オレンジが先に宣言する。
「じゃあ俺は中央!」
ブラックが応じる。
「左、私が!」
ピンクが銃口を向ける。
グリーンも構える。
「一護、左の奥!」
「了解!」
光弾が一斉に放たれた。
五方向から飛んできた攻撃に、フラワーゴブリンたちが散る。
一体が跳躍。
一体が低く身を伏せる。
中央の一体が大きく横へ走った。
「当たらない!」
オレンジが叫ぶ。
「でも動き変わった!」
ブラックが追う。
以前とは違う。
倒せてはいない。
だが、接近しなければ何もできなかった時とは違う。
こちらから、相手の動きを変えられる。
レッドが一体へ照準を合わせる。
「行ける!」
引き金を引く。
フラワーゴブリンが跳ぶ。
「一護、そのまま追わないで!」
グリーンの声。
レッドの足が止まる。
跳んだ一体の後ろから、別の二体が回り込んできた。
「来てるな」
「ああ」
レッドが身を引く。
その横からブラックが撃つ。
二体の進路がずれた。
「左、空いた!」
「オレンジ!」
「分かった!」
オレンジが銃口を向ける。
連続して二発。
一発目は外れる。
二発目が、フラワーゴブリンの肩を捉えた。
小さな体が地面を転がる。
「当たった!」
だが、残り四体がすぐに動いた。
二体が倒れた仲間の前へ。
一体がオレンジへ。
もう一体が背後を狙う。
「後ろ!」
ピンクが叫ぶ。
オレンジが振り返るより早く、レッドが間へ入った。
花弁の刃を腕で受ける。
「っ!」
「一護!」
「大丈夫!」
蹴りで距離を作る。
「今!」
ブラックがシゾーカブラスターを撃つ。
光弾が敵の足元へ命中した。
フラワーゴブリンが後ろへ跳ぶ。
倒れていた一体も、その間に立ち上がる。
五体。
まだ、一体も欠けていない。
「やっぱり助け合う」
ブラックが言う。
「一体止めても、残りが来る」
「だったら、全部見ないと」
ピンクが銃を構え直す。
フラワーゴブリンたちが、再び散った。
今度はさらに大きく。
温室。
倉庫。
農道。
それぞれが建物の影へ回り込む。
グリーンが周囲を見る。
「隠れる気だ」
「追う?」
レッドが聞く。
グリーンは敵の姿を目で追う。
左。
右。
奥。
一体が倉庫の裏へ。
二体が温室の脇。
残り二体は正面。
さっきなら、ここで迷った。
追うべきか。
止まるべきか。
だが、今回は口にする。
「追わない!」
レッドがその場で止まる。
「集荷場から離れないで! 向こうから来させる!」
「分かった!」
五人が背中を預けるように距離を取った。
完全な円ではない。
それぞれが見やすい方向を見る。
「左、俺見る!」
ブラック。
「右は私!」
ピンク。
「正面、私と一護!」
オレンジ。
「了解!」
グリーンは少し後ろから全体を見る。
静かな時間は、長く続かなかった。
「来る!」
ブラックが叫ぶ。
左から一体。
同時に右から二体。
「右二体!」
ピンクがブラスターを撃つ。
一体が跳んで避ける。
もう一体がその下を走る。
「下!」
ピンクの声。
「見えてる!」
レッドが踏み込む。
その手には、すでに武器メダルがあった。
「スシブレード・マグロ!」
二本の刃が光の中から現れる。
低く走ってきたフラワーゴブリンへ右の刃を振る。
敵が横へ避ける。
すぐに左。
先ほどの訓練では崩れた体勢。
だが、今度は足を止めない。
右を振った反動を、そのまま左へ繋ぐ。
「ギィッ!」
フラワーゴブリンがよろめく。
「レッド、後ろ!」
グリーンが叫ぶ。
レッドは迷わず前へ転がった。 直後、背後から飛び込んできた一体の爪が空を切る。
「助かった!」
レッドが体勢を立て直す。
「ブラック、今なら行ける!」
グリーンが続ける。
「任せろ!」
ブラックが武器メダルをセットした。
「ウナギウィップ!」
鞭が伸び、走り抜けようとした一体の胴へ巻きつく。
「捕まえた!」
ブラックが腰を落とした。 フラワーゴブリンが身を捻り、鞭がさらに伸びる。
訓練では、その力に引っ張られた。 だが今回は、無理に引き寄せない。
「今度は分かってる!」
ブラックは節の伸びを見ながら、少しずつ長さを縮めていく。 鞭を伝って電流が走った。
「ギャッ!」
敵の動きが止まる。
「一体止めた!」
ブラックが叫ぶ。
「右から二体来る!」
ピンクが警告する。
ブラックに拘束された一体を助けるように、二体のフラワーゴブリンが走り込んできた。
「オレンジ、お願い!」
ピンクが声を飛ばす。
「分かった!」
オレンジが武器メダルをセットする。
「ミカンセパレーター!」
双刃のブーメランが現れた。
オレンジは迫ってくる二体の進路を確認してから、ミカンセパレーターを投げる。
刃が大きな弧を描いて飛んでいく。
「右から回す! 戻りは左!」
オレンジが軌道を知らせる。
「了解!」
レッドたちが一斉に位置をずらした。
全員が軌道から外れる。
二体のフラワーゴブリンが飛び退いた。
一体は前。
もう一体は後ろ。
その瞬間、二体の間に距離ができる。
「離れた!」
ブラックが言う。
「今!」
レッドが飛び込む。
二本のスシブレード・マグロが、前へ出た一体を連続で打つ。
一撃。
二撃。
三撃。
敵は防御するが、後ろへ押されていく。
そこへミカンセパレーターが戻ってくる。
「一護、下がって!」
「おう!」
レッドが身を引く。
戻ってきた刃がフラワーゴブリンの足元をかすめる。
敵が跳ぶ。
オレンジは両手を伸ばした。
ミカンセパレーターを受け止める。
「よし!」
訓練の時のように、武器を追いかけてはいない。
自分のところへ戻ってくる場所を分かっている。
「左、まだ二体!」
ブラックが叫ぶ。
ウナギウィップで拘束された一体を助けようと、別の二体が回り込む。
「桜!」
グリーンが呼ぶ。
「見えてる!」
ピンクが武器メダルをセットした。
「サクラエビバスター!」
細身の銃身が展開する。
五つの発射機構が、それぞれ動き始める。
ピンクは、一体だけを見なかった。
前。
左。
右。
奥。
走る五体すべてを見る。
「いずみ、少し右!」
「右?」
「そこ!」
ブラックが一歩動く。
射線が開いた。
「撃つよ!」
五つの光弾が放たれた。
一発。
二発。
三発。
それぞれ別の位置へ飛ぶ。
フラワーゴブリンたちが、一斉に回避した。
命中したのは二発だけ。
だが、それでよかった。
「散れない!」
オレンジが気づく。
避ける方向を限定されたフラワーゴブリンたちが、同じ場所へ寄っている。
「桜、もう一回できる?」
グリーンが聞く。
「できる!」
「じゃあ、右側を空けないで!」
「分かった!」
ピンクが再び構える。
その間に、拘束されていた一体がウナギウィップを振りほどこうと暴れる。
「いずみ、持つ?」
「まだ行ける!」
「じゃあそのまま!」
グリーンは、ティー・スティックランスのメダルをセットする。
「ティー・スティックランス!」
長槍が現れる。
両手で構える。
敵との距離。
仲間の位置。
射線。
さっきの訓練で失敗した広がり方を思い出す。
「一護、二歩右!」
「分かった!」
「成実、そこから動かないで!」
「了解!」
「桜、俺が撃ったら左を塞いで!」
「分かった!」
グリーンが槍先を地面へ向ける。
「いずみ!」
「何?」
「三つ数えたら放して!」
「了解!」
フラワーゴブリンたちは、まだ動いている。
五体で一つ。
一体が止まれば、残りが助ける。
なら。
止めるのは一体だけでは駄目だ。
「一!」
ブラックが鞭を緩める準備をする。
「二!」
グリーンが出力を絞る。
広げすぎない。
狙うのは、敵の中心ではない。
動ける範囲そのもの。
「三!」
ブラックがウナギウィップを外した。
拘束されていた一体が飛び出す。
その瞬間。
「ティー・スティックランス!」
槍先から、圧縮された茶のエネルギーが放たれた。
地面へ命中。
淡い光が、扇状に広がる。
「ギィッ!」
先頭の一体の足が止まる。
その後ろから来た二体も、動きが鈍る。
「三体!」
グリーンが叫ぶ。
「左、塞ぐよ!」
ピンクのサクラエビバスターが火を吹いた。
五発の光弾が散る。
敵へ直接当てるのではない。
逃げ道へ。
一体が左へ飛ぼうとして止まる。
「右!」
ブラックがウナギウィップを地面へ走らせる。
電流を帯びた鞭が、右側の進路を塞いだ。
「前は私!」
オレンジがミカンセパレーターを投げる。
高速で回転する刃が、前方を横切る。
飛び出そうとした一体が、反射的に後退した。
「後ろ!」
レッドが二本の刃を構える。
「抜けさせねえ!」
五体が、一か所へ寄った。
まだ完全には止まっていない。
フラワーゴブリンたちも、自分たちが囲まれていることに気づく。
一体が跳ぶ。
「上!」
オレンジが叫ぶ。
「任せろ!」
レッドが跳躍。
空中でスシブレード・マグロを交差させる。
飛び出したフラワーゴブリンとぶつかる。
「戻れ!」
刃を振り抜く。
敵が地面へ叩き落とされた。
そこへブラックのウナギウィップが伸びる。
足首へ巻きつき、引き戻す。
「五体、揃った!」
ブラックが叫ぶ。
だが、次の瞬間。
フラワーゴブリンたちが一斉に甲高い声を上げた。
「ギィィィィッ!」
「何!?」
オレンジが身構える。
五体が、互いを踏み台にするように動いた。
一体が前へ。
二体が左右。
残り二体が後ろから押す。
強引に包囲を破るつもりだ。
「来る!」
レッドが構える。
グリーンは、五体の動きを見る。
速い。
だが。
前とは違う。
見える。
一体だけを見ていない。
五体の動き。
仲間の位置。
何ができるか。
全部、自分だけで決める必要もない。
「どうする!?」
レッドが聞く。
グリーンは叫ぶ。
「押し返したい! みんな、できる!?」
「できる!」
オレンジ。
「右なら止める!」
ブラック。
「左、撃てる!」
ピンク。
「正面は俺が行く!」
レッド。
「分かった!」
グリーンが槍を構える。
「一気に行く!」
レッドが正面へ踏み込む。
「スシブレード・マグロ!」
二本の刃を交互に振る。
突っ込んできた一体を正面から受け止めた。
「こっちは通さない!」
ブラックがウナギウィップを振る。
右へ抜けようとした一体を絡め取る。
「戻って!」
オレンジがミカンセパレーターを投げる。
刃が左から右へ大きく回り込み、二体を中央へ追い返す。
「行くよ!」
ピンクのサクラエビバスター。
五発の光弾。
残った一体の足元へ集中する。
敵が後退する。
その先には、ほかの四体。
「今!」
四人の声が重なった。
グリーンは槍を突き出す。
圧縮された茶のエネルギーが、五体の足元を捉えた。
光が広がる。
五体すべての動きが、一瞬だけ止まった。
「止まった!」
オレンジが叫ぶ。
グリーンは五体を見る。
倒れてはいない。
新しい武器は、確かに強い。
だが、これだけで終わりではない。
自分たちには、最初から持っていた力がある。
五人で力を重ねるための力。
「みんな!」
グリーンが振り返る。
四人も、すぐに分かった。
レッドがスシブレード・マグロを下ろす。
ブラックがウナギウィップを戻す。
オレンジがミカンセパレーターを受け止める。
ピンクがサクラエビバスターを下げた。
五人が動く。
中央へ立つのは、グリーン。
レッド。
オレンジ。
ブラック。
ピンク。
それぞれが所定の位置へ入る。
フラワーゴブリンたちが拘束を振りほどこうと暴れる。
「急ぐぞ!」
レッドが言う。
「分かってる!」
ブラック。
オレンジが前を見る。
「今度は逃がさない!」
ピンクが構える。
「合わせるよ!」
グリーンは、一度だけ四人を見た。
自分が中心にいる。
だからといって、自分一人の技ではない。
自分が命令するから集まっているわけでもない。
五人それぞれが、自分でここに立っている。
その力を重ねる。
「行くぞ!」
「おう!」
「うん!」
「行こう!」
「いつでも!」
五人のエネルギーが集まる。
赤。
緑。
橙。
黒。
桃。
五色の光が交差する。
中心に立つグリーンへ集まり、そこから一つの巨大な力へ変わっていく。
フラワーゴブリンたちが、拘束を破った。
「ギィィィィィッ!」
五体が同時に別方向へ飛び出そうとする。
「今!」
グリーンが腕を振る。
「シゾーカ——!」
五人が声を重ねる。
「クロスッ!!」
五色の光が放たれた。
一本の巨大な光となり、五体のフラワーゴブリンへ突き進む。
先頭の一体が避けようとする。
だが、間に合わない。
光が五体をまとめて包み込む。
「ギィィィィィィ——ッ!」
五つの叫びが重なる。
連携していた五体。
逃げ道を作り合い、互いを守り、五つで一つとして戦っていたアビス獣。
その五体すべてを、シゾーカクロスの光が貫いた。
五つの身体に亀裂が走る。
花弁のような装甲が、次々と砕けていく。
そして。
五体はほぼ同時に光へ変わった。
爆発。
地面を揺らす衝撃。
五人は腕で顔を守る。
風が通り過ぎる。
やがて煙が薄くなった。
そこに、フラワーゴブリンの姿はなかった。
「……倒した?」
オレンジが聞く。
ブラックが周囲を見る。
「反応は?」
ブレスから静の声が返る。
『敵性反応、消失しました』
一護が息を吐いた。
「五体とも?」
『はい。五体すべての消滅を確認しました』
オレンジが、その場に座り込みそうになって踏みとどまる。
「やった……」
ピンクも肩の力を抜いた。
「今度は、守れたね」
その言葉に、五人が周囲を見る。
すでに色を失ってしまった花もある。
壊れた温室もある。
全部を守れたわけではない。
だが、集荷場まで被害は届かなかった。
これ以上、奪われることもない。
「……ああ」
グリーンが答えた。
変身を解除する。
五色の光が消え、五人は元の姿へ戻った。
リョクは、広がる農地を見た。
夕方の風が、茶畑を揺らしている。
少し離れた場所では、施設の職員たちが恐る恐る外へ出てきていた。
まだ何が起きたのか理解できていない人もいるだろう。
それでいい。
いつもの仕事に戻れるなら。
一護が隣へ来る。
「リョク」
「ん?」
「さっきの判断、助かった」
リョクは少し困ったように笑った。
「俺だけじゃないだろ」
「ああ」
一護も笑う。
「だから助かったんだよ」
いずみが近づいてくる。
「一護が前に出て、俺が止めて、成実が追い返して、桜が射線作って」
「リョクが止めた」
成実が続ける。
「でも、その前にみんなが教えてくれたからできたんだよ」
リョクが言う。
桜が頷いた。
「うん。それでいいんじゃない?」
「何が?」
「誰か一人が全部分かってなくても」
桜は、周囲を見る。
「見えてる人が言えばいいし、できる人がやればいいし」
「失敗したら?」
成実が聞く。
桜は少し考えてから答えた。
「その時は、また言えばいいんじゃない?」
いずみが笑う。
「雑だな」
「でも、今日それでうまくいったじゃん」
「まあな」
一護が腕を組む。
「最初よりはな」
「最初よりは、って何?」
「まだ武器使いこなせてないだろ」
「あ、それは一護もじゃん」
「分かってるよ」
成実が笑った。
いずみも小さく笑う。
桜も続く。
リョクは、そんな四人を見ていた。
昨日。
ガルムに一撃で倒された。
今日。
フラワーゴブリンを止められず、逃がした。
あの時は、自分たちが本当に戦えるのか分からなくなった。
怖かった。
今も怖い。
次に現れる敵が、自分たちより弱い保証などない。
もっと強い相手が来るかもしれない。
また判断を間違えるかもしれない。
また負けることもあるだろう。
それでも。
何も言わない理由にはならない。
迷わない人間になる必要もない。
迷ったなら、誰かに伝えればいい。
見えているものがあるなら、言葉にすればいい。
ほかの四人にも、同じように見えているものがある。
「リョク?」
成実の声で、顔を上げる。
「何?」
「帰らないの?」
「ああ、帰るよ」
一護がS-5Xの方を見る。
「その前に、静さんに連絡するか」
いずみがブレスを操作した。
「もう見てるんじゃない?」
『見ています』
突然返ってきた静の声に、五人が少し驚く。
「うわ」
成実がブレスを見る。
「聞いてたんですか?」
『通信は接続されたままです』
一護が苦笑した。
「先に言ってくださいよ」
『必要があるとは思いませんでした』
いつも通りの静の声だった。
リョクが空を見る。
少しずつ、夕方の色が濃くなっている。
『皆さん』
静が呼ぶ。
「はい」
五人が耳を傾ける。
『先ほどの問いについて、答えは見つかりましたか』
リョクは、一瞬だけ黙った。
何のために戦うのか。
基地で聞かれた問い。
完全な答えが見つかったとは思わない。
これから変わるかもしれない。
もっと別のものを守りたいと思うかもしれない。
それでも、今なら答えられる。
「……たぶん」
リョクが言った。
一護が横を見る。
「たぶん?」
「全部分かったわけじゃないからさ」
リョクは笑う。
「でも、今はこれでいいと思う」
静は何も言わず、続きを待った。
リョクは、茶畑を見る。
「俺は、俺に見えてるものを守りたい」
風が茶葉を揺らす。
「そのために、できることをやる」
成実が続いた。
「私も。怖いけど、守りたい」
桜も頷く。
「普通に暮らせる場所を、なくしたくない」
いずみが言う。
「俺は、ちゃんと関わる。見てるだけじゃなくて」
一護は少し考えた。
「俺は……止める」
四人が見る。
「目の前に来たなら、俺たちで止める。それでいい」
静から、しばらく返事はなかった。
やがて。
『了解しました』
それだけだった。
成実が小さく笑う。
「静さんっぽい」
「何を期待してたんだよ」
いずみが言う。
「もうちょっと、こう……よくできました、とか」
『必要ですか』
「いや、大丈夫です」
一護が吹き出す。
桜も笑った。
リョクも、つられて笑う。
五人は、S-5Xへ歩き始めた。
誰かが先頭に立つわけでもない。
誰かの後ろについていくわけでもない。
自然に並び、それぞれの歩幅で進んでいく。
戦えるようになったわけではない。
強くなりきったわけでもない。
ただ、昨日までとは少し違う。
渡された力を、ただ使うだけではなく。
自分たちで考え。
自分たちで選び。
互いに伝えながら戦う。
その一歩を、五人はようやく踏み出していた。
牧之原の茶畑を、夕暮れの風が抜けていく。
その先で、まだ色を残した花々が静かに揺れていた。
守れたものが、そこにあった。
そして五人にもまた、自分たちの意思で戦う理由が生まれ始めていた。
——第6話・終




