幕間 深海機関アビス
深海機関アビス。
薄暗い空間に、鈍い音が響いた。
ガルムが拳を叩きつけた音だった。
「……五体とも、やられただと?」
低い声が響く。
返ってきた報告は変わらない。
牧之原へ送り込んだフラワーゴブリンは、五体すべて消滅。
花々から集めたエネルギーも失われた。
「チッ……!」
ガルムが舌打ちする。
「この前まで、俺の一撃でまとめて転がってた連中だぞ」
「だからこそだろう」
別の声が返ってきた。
ガルムが睨む。
そこにいたのは、ヴォルグだった。
「何が言いてえ」
「敗北した。だから戦い方を変えた。それだけの話だ」
「それが気に食わねえって言ってんだよ」
ガルムが吐き捨てる。
ヴォルグは、その苛立ちを気にする様子もない。
「ならば、次は私が行こう」
ガルムの目が細くなった。
「……あ?」
「西部での収穫は十分だろう。次はこちらの番だ」
ヴォルグが立ち上がる。
その視線の先には、静岡県東部の地図が映し出されていた。
「奴らが何を得たのかは知らん」
シゾーカファイブが使った新たな武装。
それが何なのか。
どこから手に入れたのか。
アビスには、まだ分からない。
「だが、多少戦い方を覚えた程度で何が変わるのか——」
ヴォルグは東部の一点へ目を向けた。
「私が確かめる」
ガルムが鼻を鳴らす。
「好きにしろ。だが、しくじるなよ」
「誰に言っている」
二人の視線がぶつかる。
そのやり取りを、ヤルダバオトは黙って見ていた。
やがて、その口元がわずかに動く。
「よい」
たった一言で、二人が黙る。
「ヴォルグ。任せよう」
「はっ」
ヴォルグが頭を下げる。
そして、再び東部の地図へ目を向けた。
次にアビスが狙う場所は——
富士市
シゾーカファイブの知らないところで、新たな侵攻が動き始めていた。




