表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
風結び ー戦国ノイズー  作者: 蓮空虎太
第5章 第二次天正伊賀の乱 ー 伊賀燃ゆる
PR
75/87

第75話 道

「ゲンさん!」


マイとシホが庵から駆け出してきた。


ショーゾーもマサもユウもゲンさんの亡骸を囲み立ち尽くしている。


悲しみを断ち切るように三太夫が声を振り絞る。


「すぐに敵が来る…まずは隠し部屋へ…」


「ゲンさんは…?」


泣きながらマイが聞く。


「今は埋葬してる時間もない。神社に安置して、後で弔おう」


そう言うとマサが戸板を持ってきて、ユウ、ショーゾー、ゴエモンがゲンさんを乗せて神社の拝殿まで運んだ。


安置した亡骸にシホが着物を上から被せた。


「ゲンさん、ちょっと待っててね…」


マイがそう言って静かに扉を閉めた。


広場には新たに落ちてきた女が呆然とへたり込んでいた。


三太夫が話しかける。


「急に見知らぬ所へ来て、現実離れした事態に直面し、気が動転しているのはわかる。今は何を言っても通じまい。だが、目の前で見た光景が真実だ。死にたくなければ君も黙ってついてきなさい。」


そう言って三太夫の庵へと促したが、どうやら腰が抜けているらしい。


ゴエモンが背負って連れて行く。

「君、名前は?」

そう問いかけると、震える微かな声で答えた。

「木島…ノア…」



一方滝川隊


「物見の者達が帰らない?」

滝川雄利は報告を受けていた。


この伊賀の土地では、どこに伊賀者が潜んでいるかわからない。

少数で行動すると.どこからともなく現れた伊賀者に奇襲を受ける事はよくあった。


(どうせ大して戦略的に意味があるとも思えない。下手に関わると犠牲がでるだけだから捨て置くか…)


滝川雄利は里を無視して先を急ぐことに決めた。


だが、この決断に不服な者がいた。


茂助らの組頭、矢野重政である。

茂助とは竹馬の友の間柄であった。


「滝川様は茂助らを捨て置きにされたわ。左近将監(さこんしょうげん)様(一益のこと)は撫で斬り焼き討ちを命じられたのにそれにも背く御命令。我らが戻り実行しても怒られる筋合いではないわ!」


そう言うと重政は自身の率いる足軽組二十五人を率いて雄利の隊列から離れ、平成の里へ向かった。


雄利は他の隊からの報告でこのことを聞いていたが、

「勝手にせい」と言ったのみで、そのまま進軍を続けた。


四半刻(30分)後、矢野重政の隊が平成の里に着いた。

里の入り口から入った広場には、まだ血の匂いが満ちており、実際血溜まりが残っていた。


ここで確かに刃傷沙汰があったことがわかる。


「どこに敵が潜んでいるかわからん。一軒一軒慎重に調べろ!」


重政の号令の下、足軽らは5人一組で里の建物を一軒一軒調べ始めた。


三太夫らは地下洞穴の隠し部屋に潜んでいたが、敵が探索を始めた気配を感じ隠し部屋の奥の脱出口へ向かった。


その際、三太夫は部屋に置いてあった未来の残渣を皆に持たせた。


万が一敵が踏み込んで来た時、それらの物を見られないようにするためだった。


隠し部屋から続く暗く細い通路をしばらく歩くと、向かう先から風が吹き込む気配がする。 やがて、外の明かりが見えてきた。


狭い出口を這うようにして外に出ると、そこは切り立った崖の中腹に少しだけ突き出た岩場だった。

横には滝があり、下は滝つぼである。


全員が出ると三太夫は横にあった大きな岩で蓋をするようゴエモンとショーゾーに指示した。


その岩に触れた瞬間、ゴエモンは思い出した。


あの落ちてきた時、何故か人工的な造形を感じた岩。


あれが正にこの岩だった。

(ここが、あの場所なのか…!?)


だが今はあれこれ考えている場合じゃなかった。


三太夫は皆に持たせてきた未来の残渣を滝つぼに捨てるよう命じた。


「いいんですか?せっかくこれまで大事にしてきた物を。」


ゴエモンが聞くと三太夫はゆっくり首を振る。


「もはや無用の長物よ。俺はこの時代に骨を埋めることに決めたのだ。未来に対する未練はここで断ち切る。」


そう言うと自ら持っていたパソコンと腕時計、機械工具などを滝つぼ目がけて放り投げた。


三太夫が放り投げた物が水面に落ちる瞬間、 小さな雷光のような光が見えた。


三太夫ら皆が顔を見合わせる。


「見たか?今の…」


今度はショーゾーが手にしていた携帯電話などを投げ込む。

それらも水面に落ちる瞬間雷光を発し消えた。


「まさか!未来と繋がっているのか?」

ショーゾーが言った。


三太夫は以前もここから物を落とした事はあったが、こんな現象は起きなかった。


だが、今は…


三太夫は怯えるノアという女性を見た。


「今はきっとこの子が落ちてきた時の道が開いているのではないか?何らかの条件が揃っているんだ。」


そこまで言うと三太夫はノアに言った。


「我々は忍びだ。だからこの崖を登り助かることができるが、君には無理だ。

君が助かる方法は一つ。ここから飛び降りることだ。上手くいけば君のいた時代に帰れる。ダメでも下は水だ。我々が助けに行く。」


そんな事を言われてすぐに決断なんてできないのが普通だが、ここに来てから人が死ぬところを見て、異常な事態に気が動転しているノアは、独り言を言いながらウンウンと頷き、岩場のへりに進み出た。


一刻も早くこの悪夢から解放されたい。

その一心なのだろう。


ノアは振り返ることなくそのまま滝つぼめがけて飛び込んだ。


そしてまた、水面に落ちる瞬間雷光に包まれ、消えて行った。


「間違いないな。」


三太夫はそう言うと、皆に言った。


「未来へ帰るラストチャンスだ。いつ閉まるかわからない未来への道だ。皆飛び込んで帰れ。」


「先生はどうするんですか?」


シホが問うと、三太夫は笑って答える。


「俺の居場所はここだ。未来へ帰る気はない。」

覚悟を持った顔だった。


そういう三太夫に対し、

「…私は帰りたい。この先もここでやっていく自信…ない」

シホは少し悲しげで済まなそうな顔を向けて言った。


「気にするな。ほら、道が閉じる前に行け!」


そしてシホも行こうとする時、一言三太夫が言った。


「未来に戻ってもしばらくは大変だと思う。長い間行方不明だった者が突然現れるのだ。警察だけじゃなく、マスコミにも追われるかもしれん。」


皆帰った後のことを考えたこともなかったが、言われてみればその通りだった。


「ここでの事は言っても信用されないだろう。だから何も話さないのが一番かもしれん。色々聞かれるだろうが、犯罪者ではないのだ。そのうち解放されるだろう。」


三太夫は優しく言う。


「ま、それは戻った者達の裁量に任せる。あちらでも頑張れ!」


シホは振り向いて笑みを見せると、

「お元気で」と言ってそのまま滝つぼに飛び込んで行った。


「さぁ、お前達も行け」


そう言うとマサとユウも「皆達者でな」と言って飛び込んで行った。


そしてサイゾウ、ショーゾー、マイ、ゴエモンが残った。


ショーゾーとマイは迷っているようだった。 だが、二人で未来に戻って、生まれ変わってくる(ふう)を育てたいと言う思いが強く、帰ることにした。


「皆んなを置いていくのは気が引けるけど、ショーちゃんと一緒にあっちで頑張る。」


マイが半泣きでそう言うと、ショーゾーも頷きながらサイゾウに聞く。


「サイゾウ、お前どうするんだ?あっちに残してきた家族の事ずっと思い悩んでいたのはお前だ。」


サイゾウは迷いない目でショーゾーを見つめた。


「お前には本当に世話になった。前の俺なら帰っていたかもしれん。だが、今はもう吹っ切ったんだ。俺にはこっちにオユキとひよりがいる。俺の居場所はここだ。」


それを聞いてショーゾーもマイも嬉しそうに微笑んだ。


「オユキによろしくな。」

ショーゾーがサイゾウの腰の辺りをパンと叩いた。


「ひよりに弟か妹早く作ってあげてね」

マイがそう言うと二人の視線がゴエモンに移った。


「ゴエモンは?どうするの?」


「俺も…残ります。俺を待ってる大事な人がこっちにいるので。それに新しい命も…」


「なに!?」

ショーゾーが驚きの声を上げる。


「アヤカがママになるんだ!おめでとう!」


マイもショーゾーも自分の事のように喜んでいる。


「さぁ早く行け!閉まってしまうぞ。」


三太夫にそう言われて、二人は後ろ髪引かれる思いで岩場の先端に向かう。


その時、ゴエモンがマイを呼び止め、道具袋を手渡した。

中を見るとゴエモンのスマホが入っている。


「俺たちの祝言の時みんなで撮った画像が入っていると思います。元気な風ちゃんも…」


奇しくも、先ほど亡くなったゲンさんが充電してくれたおかげで皆で撮れた貴重な画像だ。


それを聞いた瞬間、マイの涙腺は崩壊し、ゴエモンに抱きついた。


「ありがとう…ゴエモン。みんなと別れるのつらいよ…」


ゴエモンもマイを強く抱きしめてから笑顔で言った。


「一つだけお願いがあります。一度だけでいいですから、この携帯をネットに接続してメールを送信してください。パスワードは設定していませんから。」


「わかった。必ずする。皆んなによろしくね。」

「いい父親になれよ、ゴエモン!」


そう言ってマイとショーゾーは手を振りながら光のなかへ消えて行った。


「本当にいいのか、サイゾウ、ゴエモン?」

三太夫が問いかける。


「いいんです。俺にはこっちに守るべきものがあるから。」


そう答えると、サイゾウも強く頷いた。


その後、残った未来の残渣を滝つぼに投げ入れたが、雷光は二度と光ることはなかった。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ