第54話 右近の覚悟
ケンタと左輔が京の風結庵に着いたのは、里の一行が安田仁左衛門の郷に着いた頃。
「キュウサクー!」
「ケンター!お前一人で京まで来たんか〜!」
旅塵で頭から砂を被ったように真っ白なケンタと左輔が昼前に飛び込んできた。
その声を聞いてゴエモンとアヤカも出てくる。
「凄いケンター!一人で来るなんて〜」
アヤカがそういうと、
「一人じゃないだろ…。俺も一緒だい…」
口をすぼめ、まだ子供らしい頬を膨らませ呟く少年に気づいた。
ケンタ同様砂埃にまみれて、目が異様に光って見える。
「あれ、ケンタの連れ?里の子?」
アヤカが聞くと
「百地の里から来た子です。勝手についてきちゃったんです」
「凄いな、ケンタよりまだ年下だろ? いくつだ?」
ゴエモンが話を振ると、左輔は少し誇らしげに
「先月十二になったばかりだぜ!」と胸を張った。
「あ、君もしかして丹波様のとこの?」
キュウサクがマジマジと顔を見つめる。
「あー、お前は隼人のとこにいたやつか。確かくのいちも一緒だったよな?」
左輔がそういうと、いつのまにか後ろに来ていた蛍が平手で左輔の頭を張った。
「ここはあんたんとこのお城じゃないんだからね。年上にお前ってなんだい!」
アヤカは普段見せない蛍のくのいち口調に新鮮な感覚を味わっていた。
「いって〜!このアマ…」
そこまで言いかけるとまた頭を張られた。
「まともな口がきけないならなら、今すぐ来た道引き返してお城に帰んな!こっちには城で甘やかされた坊ちゃんの子守りしてる暇はないんだよ!」
一同驚きと共に胸の内で、拍手していた。
ゴエモンは小声でアヤカに
「キュウサク尻に敷かれるな…」と言うと、
「大丈夫、好きな人の前ではちゃんと女の子だから」といって笑った。
左輔は小声で「…なんでい、同じくのいちでも朧と大違いだぜ…」と言いながら、ケンタの陰に隠れた。
「ゴエモンさん。これ、三太夫さんからの書状です。」
そう言って差し出された手紙をすぐに開き確認するゴエモン。
キュウサクが内容を知りたがっている。
「里の皆んなが出立したそうだ。手紙の日付からすると今朝だな。」
皆心配してたから、少し安堵の空気が広がった。
だが、ゴエモンの次の言葉にその空気は一気に重くなった。
「三太夫さんとゲンさんは、里に残ったそうだ…」
アヤカが口に手を当て息を飲んでいる。
「…ゲンさん、そんなに進行してるんだ…」
アヤカは自分がそばにいれば、と思わずにいられなかった。
皆里に残る二人の身を案じていた。
なんとか生きながらえて、もう一度会いたいと…
「里が無事なら年末に一度様子見に行こう」
ゴエモンが皆の気持ちを推し量り、わざと明るく言った。
アヤカもキュウサクも頷いていた。
「里の一行の到着はいつごろでしょうね?」
話題を変えるようにキュウサクが聞いてくる。
ゴエモンは4日後と書いているが、恐らく遅れるだろうという予想を語った。
「ケンタと、えっと...そっちの少年は何て名前?」
「左輔だ!」
むくれてソッポを向いているが、左輔はハッキリ答えた。
ゴエモンは苦笑しながら、
「ケンタと左輔はこのまま京に滞在しろ。向こうが追いついてくるからな。あと、キュウサクは五平さんの所に言って今の事伝えてきてくれ。できれば京に近くなった頃合いで、こちらから迎えの人数出したいとも伝えてくれ。」
「わかりました」
そう言ってキュウサクが風結庵を飛び出して行くのと入れ替わりに右近がやってきた。
「旦那、今日はいつにも増して腰が酷い。爪先にまで痺れがきますぜ…」
そう言って足を引き摺りながら入ってくる右近を見た瞬間、
「右近!右近じゃないか!」
不貞腐れていた左輔が飛び出してきた。
「あれ、百地のボンじゃないですか?真っ白な格好で…さてはまたお父上の言いつけに背いて、勝手にここまで来たんでしょう?」
そう言われると左輔は、少しの罰の悪さと、少しの自慢が混じり合った複雑な顔つきで、
「父上ではない。背いたのは隼人の言いつけだ。」
右近は真面目な顔つきで、
「いずれにしても、忍びとして頭領の言いつけを破るのは最もいけない事だと、この右近、ボンが小さい頃から言って聞かせてきましたな?」
そう言われると、左輔はすごすごとまたケンタの後ろに隠れていった。
「まずは二人ともその埃まみれの体をなんとかしてこないと家に上げられないからな。」
ゴエモンがそう言うとアヤカが
「湯あみの準備してきてあげるから、裏庭の方に回って。蛍も手伝って。」
と言って裏手に回った。
庵の入口にはゴエモンと右近だけが残っていた。
「…百地のボンはどうしてここに?」
右近が椅子に腰かけながら聴いてくる。
「平成の里が伊賀の脱出をするのに、一緒に連れて行って欲しいと寄越したのだろう。」
「ふーん、今度ばかりは頭領もお覚悟をきめられたか…」
「お前、丹波様とは親しいのか?」
ゴエモンが右近の治療の準備をしながら問いかけた。
「あっしがガキの頃からの付き合いですわ。主従になる前からのね。一緒に忍びの鍛錬もしやしたよ。」
右近が懐かしそうに遠くを見る目で思い出を語っている。
「あの方は上忍の家の生まれだから、我ら下忍とは普通一線を画しているのですがね、分け隔てなく寝食を共にするお方でしたよ。」
丹波が伝説の忍びと呼ばれる所以の一端を垣間見た気がした。
「左輔のボンが生まれて、ヨチヨチ歩きする頃から、忍び働きは右近に教われって、丸投げされましてね。柄にもねぇのにあの子の師匠に祭り上げられた次第ですよ。」
そう言ってくっくと笑った。
「でもあのボンの才能は凄まじいですぜ。大体言ったことは1回で覚えちまいますからね。
教えてもどうにもならないのが足の速さなんだが、それがあの歳で百地の中で一番なんだから、天賦の才でさぁ。」
ゴエモンは感心した。
左輔にじゃなく、右近に。
いい奴だと思ってはいたけど、丹波の大事な一人息子を預けられるだけの信頼があるのだ。
さっきの左輔の態度を見ても、慕っているのがよくわかる。
それも甘いだけじゃない。これだけの才があり天狗になる年頃の鼻をキッチリへし折ることも忘れていない。
裏庭の方から
「あっつー、このアマ!」という声と
それをまた蛍が張り倒しているであろう
「痛ってー!」
という賑やかな笑い声が聞こえてくる。
それを微笑みながら聞いていた右近が、真面目な顔で向き直った。
「旦那、今までは同じ伊賀忍びという間柄でご一緒する機会が多かったですがね、あのボンがこちらにご厄介になったってのも何かの縁だ。あの子が生まれた時から、丹波様から『行く末頼む』と言われております。今後は銭金抜きで旦那の手足になって働かせてくだせぇ。」
そう言って右近は頭を下げた。
「やっぱりお前はいいやつだな。心強いよ。これからも頼むな。」
そう言って互いに目礼し合った。
「でもあのボンが悪さしたら遠慮なくひっぱたいてやってくださいな。」
右近が真顔で言うと、ゴエモンが裏庭の方を顎で指し
「それは既に蛍がやってるよ」
と、二人口を開けて笑った。
京都メンバーもそろって来ましたね。
そういえばゴエモンとアヤカのプロフも正式に載せたことがなかったので、京都メンバーのプロフも載せておきます。
ゴエモン(♂)25 石川和樹 北海道出身 元プロレスラー(リングネーム:シノビウルフ) 171cm70kg プロレス好きの父の影響で初代タイガーマスクに憧れ、高卒後プロレスラーを目指す。気持ちが優しく、体が大きくならなかった息子を案じて、父はレスラーになることを反対した。それでも夢を諦めなかったゴエモンは、小さい選手が活躍するルチャリブレ(メキシコ流プロレス)のインディ団体に入る。バイトしながら頑張る息子の姿を見て、最後は父も応援してくれていた。プロレスラーゴエモンのモデルはドラゴンキッド選手
アヤカ(♀)25 石川(天野)綾香 元看護師 東京都出身 中学生の時父を癌で亡くす。その体験で、看護師を目指すようになる。父亡き後、母がフルタイムで働くようになってからは、8歳年下の妹(彩音)の送り迎えから食事のしたくなど、母親役を一手に引き受けていた。空いた時間でスポーツクライミングに打ち込んでいた。ストーカーに付きまとわれた経験から、男性と二人きりになるのが苦手だった。
キュウサク(♂)20 井戸川久作 元専門学校生 優しくて人懐っこい性格。子供っぽいところもあり、子供たちからは人気がある。優しすぎて戦闘には向かない性格だが、バスケットボールをやっていて運動神経は抜群。心のリハビリを終えて、今後どう変わっていくか注目。
蛍(♀)14 元闇鴉 物心つくまえから闇落ちした忍び集団の中で育ち、人間の汚い部分を嫌というほど見せつけられ育ってきた。そのため、人生に希望など持たず、感情を封印し命令に従うだけのロボットのようになっていた。ゴエモンと出会い、初めて人の心の温かさに触れる。その後キュウサクと心のリハビリを重ね、心を取り戻していく。




