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風結び ー戦国ノイズー  作者: 蓮空虎太
第3章 第二次天正伊賀の乱 - 京都脱出編
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第49話 脱出前夜

6月初旬

平成の里に百地党の脱出者が到着した。


護衛も兼ね、柘植隼人(つげはやと)玄十(げんじゅう)弥太郎(やたろう)(おぼろ)朱音(あかね)(かすみ)の6人の忍び、それから子供が2人。左輔(さすけ)と千草といった。左輔は12歳、千草は10歳だという。


氏素性は明かさなかったが、三太夫は丹波の子供だろうと推察した。


子供だけでも生かしたいという親心なのだろう。


だが左輔という少年は、不服そうだった。

隼人に対しても、「何故城に籠って戦わぬ!俺とてもう元服の歳だ。戻って戦う!」

と言って駄々をこねているのを里の住人は遠巻きに見ていた。


千草も年齢に似ない落ち着いた風情を漂わせていたが、口数少なく、朧の側を離れない様子だった。


里の主だった男たちと隼人が作戦を練る。


「伊賀の外は織田方の甲賀衆が取り囲んでいると思え。また、伊賀国内といえど、辺境のあたりは用心が必要だ。強力な力を持つ大名がいないのが良い所でもあるが、辺境の治安に責任を持つ者がいないので、野盗の類が多い。」


三太夫が心境を吐露する。


「女子供連れの集団は襲ってくれといっているようなものだからな。」


隼人が冷静に言い放つ。


「山道で道幅も狭く、また敵の知り尽くした土地での戦闘はこちらに不利な点が多い。」


「できれば数人単位で伊賀の抜け道を使うのがいいのだが、女子供には無理だ。」


ショーゾーが言うと、隼人が続けた。


「その事だが、ここに来る前に伊賀の抜け道、隠れ宿のいくつかが、いずれかの手の者により破られたとの報告があった。おそらく織田方の忍びだろうが、我らの抜け道も安全とは言えない状況だと言うことは覚悟しておいてほしい。」


隼人の報告に一同固唾(かたず)を飲んだ。

伊賀侵攻作戦は、水面下で既に始まっているのだ。


一番の問題は、どのように隊を編成するかだった。


平成の里は17名、百地党8名、計25名である。このうち戦闘力となるのは里の者7名、百地党6名。

一塊で動くには人数が多く、目立ちすぎる。

かといって分散すると個別に襲われる危険性がある。


「数回に分け、戦力となるものが都度護衛につくのはどうか」

「いや、時間をかければかけるほど、敵の包囲がきつくなる。行くなら一気に行く方がいい。」

「人数が多いと戦闘時守り切るのは困難になる。」

「人数が少なくても、野盗に包囲されれば手の打ちようがなくなる。」

「人数が多いと関所など抜ける時の詮議が厳しくならないか。」

「戦からの避難民だと言えばよかろう。」

「伊賀方面から逃れてくる者は、伊賀忍びという疑いの目で見られるから、簡単に言い逃れできないだろう」

「迂回したくとも、長島が落ちてしまった現状では、四方ぐるりと織田方に囲まれているからな。どこへ抜けても伊賀からの脱出者だということは目に見えている。」


問題点を挙げ始めると、あらためてこの脱出行の難度が高いものであることが、皆嫌でも理解させられた。


一同腕組みをしたまま押し黙った。


「残った方が安全じゃないのか。」


そう言う者も出てくる。


「俺とゲンさんは残るよ…」


里には三太夫とゲンさんが残るという。

ゲンさんの病が進行し、体力がもたないことは皆わかっていた。


ゲンさんは「俺一人でいい」と言い続けたが、三太夫が、「世話する人間がいないとダメだろう。何かあれば敵と交渉するにも、俺がいた方が都合がいい。」


「それなら自分も」という者も少なくなかったが、三太夫は(さと)すように言った。


「焦土作戦とはいえ、年寄二人が残る村を焼き払う価値もないと諦めてもらえるかもしれん。下手に人数はいない方がいいのだ。」


そう言われると、三太夫の言に従うしかなかった。


色々議論は尽くされたが、最後は三太夫が締める。


寡兵(かへい)を分けるは兵法の常道にあらずだ。ここは一塊(ひとかたまり)にまとまっていくのが上策であろう。

百地党の皆とサイゾウをはじめとした里の忍び計12名は、一行の周囲を監視しながら進むべし。」


皆黙って頷く。


「抜け道は峻険な箇所多く、女子供が付いてこれない可能性がある。なので、できるだけ、街道を行く。関所では、ゴエモンが寄越した通行許可願が効力を発揮してくれることを祈るのみだ。」


「足弱の子供はひよりと風だな。それは俺とショーゾーが背負って行こう。」


サイゾウが言うと、ショーゾーは黙って頷いた。


「百地党の千草という娘も我らで背負って行きますが。」


とサイゾウが振ると、隼人は


「千草は10歳なれど、我らの元多少忍びの訓練を始めている故、そこまで足手まといにはならんと思うが、いざという時はお願いする。」


そう言って軽く頭を下げた。


「それ以外は12~3歳になっている。

無理は禁物だが、体力的には大丈夫だろう。それより、年嵩(としかさ)の者達の方が厳しいかもしれんぞ。」


三太夫が顎髭を触りながら言う。

一行には40代の者も3人程含まれている。


「あまり無理はできないだろうな。我ら忍びの脚なら1日~2日で踏破できる距離だが、3日、いや、4日はみておいたほうがいいだろう。遠出などしたことない者ばかりだからな。」


サイゾウがそう言いながら、隼人を見つめる。


「目的は全員無事に京に辿り着くこと。日程行程は臨機応変に対応する。それでどうか。」


さすがに百戦錬磨の手練れ。

明瞭簡潔に話をまとめ上げた。

皆それで合意した。


「出立は明朝。皆荷物は最小に、携行食は旅程が延びることも考慮し多めに持て。」


「オウッ」


三太夫の言葉で一同解散した。



その後、三太夫はケンタを呼んだ。


「ケンタ、お前の脚なら1日で京まで着けるはずだ。この手紙をゴエモンに届けてくれ。」


「はい」


「お前はまだ戦闘訓練ができていない。くれぐれも敵に悟られぬようにな。敵に会っても戦おうと思うな。とにかく逃げるのだ。」


三太夫の脳裏には覚悟ができぬまま戦かい、心が壊れたキュウサクの顔がよぎっていた。


「大丈夫です。僕、臆病なんで。」


ケンタは笑顔で返すと、三太夫の手紙を(ふところ)に入れ走り去った。


ケンタが里を飛び出し、山道に入った頃、直ぐ後ろから誰かが付いてくる気配がする。


そのまま走り続けると、やがて子供の声が聞こえてきた。


「どこ行くんだ?使いか?」


振り向くと、隼人が連れて来ていた左輔という少年がニコニコしながらついてきていた。


「バカ、遊びじゃないんだぞ。子供は里で明日の出立に備えてろ!」


「あんちゃんだってまだ子供って感じだぜ。」


そう言って左輔少年は笑ってる。


「足弱連れた一行なんて、トロ臭くてイライラさせられるからなぁ。隼人は堅物だから面白くもないし。こっちの方がよっぽど面白そうだと思ってな。俺もお供してやるよ。」


ケンタは少しイラっとしたが、今からこの少年を連れて戻っては時間の無駄だ。

脚に自身のあるケンタは、(いずれ付いてこれなくなったら帰るだろう)と思い放っておくことにした。


そして脚の回転を更に速めた。


「お、本気出したな。だけど、俺はまけないぜ。どうせ使いの先は京だろ。このままひとっ走り行こうぜ!」


そういうと、左輔はケンタを追い越し先へ進んでいった。


ケンタは呆気にとられた表情で、その小さな後ろ姿を見つめていた。

ついに平成の里の一行の脱出計画が始まりました。

ここで、これまで登場しなかった人物も含め、この脱出行参加者をリスト化しておきます。

今後もキープレイヤーになる人もいるので、お見知りおきください。

【平成の里組】

サイゾウ(♂)37 山縣歳三 元漁師

ショーゾー(♂)31 井田昭三 元消防士

マサ(♂)46 加藤正人 元トラック運転手

ユウ(♂)40 布 裕也 元商社営業

タイガ(♂)25 平林大雅 元板金工

セイヤ(♂)32 高橋征也 元自動車整備士

ケイゴ(♂)27 青田圭吾 元調理師

ケンタ(♂)16 下條憲太 元中学生

オユキ(♀)32 山縣(澤田)雪乃 元美容師

マイ(♀)27 井田(谷内)麻衣 元ゼネコン受付嬢

シホ(♀)43 越谷志穂子 元保母

キョウコ(♀)35 下沢響子 元服飾デザイナー

リン(♀)13 三品 凛 元小学生

ひより(♀)6 

ふう(♀)2

【残留組】

三太夫(♂)56 桃内信義 元歴史学者

ゲン(♂)51 佐藤元太 元電気工事士

【百地党】

柘植隼人(♂)23、玄十(♂)26、弥太郎(♂)20、左輔(♂)12

朧(♀)19、朱音(♀)18、霞(♀)16、千草(♀)10


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