第37話 里の祝言
里の神社で、ゴエモンとアヤカ、サイゾウとオユキ、二組同時の祝言が挙げられることになった。
正午、ゴエモンとサイゾウは式場に連れていかれた。マイに渡された、紋付き袴を着させられている。
神社境内には里中の人が集まっていた。
祭殿に設けられた床几に腰かけて待っていると、境内の方から「ワー!」っという歓声が上がった。
振り返るとそこには、三太夫が両腕にエスコートしてくる純白のウェディングドレス姿のアヤカとオユキの姿があった。
ゴエモンもサイゾウも息を飲む美しさだった。
里の皆も戦国にいることを忘れて見とれている。
「二人とも大事な娘を頼むぞ。」
祭壇まで上がってきた三太夫が、ゴエモン達に花嫁を託した。
ドレスは里のキョウコさんという女性が、アパレル業界にいたということで、これまで落ちてきた人たちの衣服や、こちらの時代で手に入る布地を使い作ったものだった。
衣装はこれまで式を挙げた人の使ったものを持ち回りしているが、今回は2組同時なので新たに1組分作ったようだ。
三太夫が蓄えてきた里のお金を「こういう時にこそ使うんだ」と言って惜しげもなくつぎ込んでくれたという。
―式の前
アヤカは驚きと同時に感動で涙が溢れていた。
女性が人生で一番輝くとき。
だけどこの時代じゃ、服装どうこうなんて言えないと思っていた。
式と言ってもまたいつものように宴会する程度だと思っていた。
それなのに、何年ぶりかでみた真っ白なドレス。
一瞬だけど、戦国時代にいることを忘れていた。
「ごめんね~。布地も全部絹ってわけにいかなくてね。レースも無いし、宝石アクセサリーもみんなが落ちてきたとき身に着けていたもので使えそうなもの限られてるから、凝ったデザインもできないし、ワンピースのようなシンプルなドレスしか作れないんだ・・・」
キョウコはすまなさそうに言った。
「ううん、オキョウさん、凄いよ。私こんな素敵なドレス着られると思ってもいなかった。
もう感動で泣きそうです。」
「泣きそうってもう泣いてるじゃん」
キョウコはそう言って笑った。
「私は、マイの結婚式の時見てたから、知ってたけど、私が着る番が来るなんて思ってもいなかった。ありがとう、オキョウ。」
そういうオユキも目が潤んでいた。
―式場
タイガが神主とも神父ともつかないおかしな格好で2組の前に立ち、式も和洋折衷なおかしな形で進んでいる。
この時代まだ庶民には式そのものの風習がないし、現代の結婚式も似たようなものだが…。
三々九度でお神酒を口にした後、タイガが荘厳な雰囲気をだしながら
「新郎サイゾウ、汝はユキノ(オユキの本名)を愛し、敬い、助け、真心を尽くすことを誓いますか」
「なんでお前に誓わなきゃいけねぇんだよ…。」
サイゾウは小声で不服そうに呟いたが、オユキに横から肘でつつかれ渋々答えた。
「…誓います」
「新婦ユキノ、汝はサイゾウを愛し、敬い、助け、真心を尽くすことを誓いますか」
「はい、誓います。」
オユキは真面目にしっかりした口調で答えた。
次はゴエモンの番だ。
「新郎カズキ(ゴエモンの本名)、汝はアヤカを愛し、敬い、助け、真心を尽くすことを誓いますか」
「はい、誓います。」
ゴエモンはハッキリ力強く誓った。
「新婦アヤカ、汝はカズキを愛し、敬い、助け、真心を尽くすことを誓いますか。」
「はい、誓います。必ず…添い遂げます。」
アヤカもしっかり決意のこもった声で誓った。
その厳かな雰囲気を壊すように、タイガが小声で
「ゴエモンが嫌になったらいつでも俺んとここいよ。」
と言ったが、
「バカ、ゴエモンが嫌になってもアンタのとこに行くことだけは絶対にないわ!」
とアヤカが返すと、式場に集まった里の住人全員大爆笑になった。
タイガはガッカリしたポーズの後、気を取り直し、全員に向かい大声で言った。
「ここにこの二組を正式に夫婦とする!誓いのキスは悔しいからさせません!チクショー!」
タイガはこういう時、盛り上げる天性な才能がある。
プロデューサーマイのプランでは誓いのキスも予定にあったのだが、サイゾウが『人前でそれだけは止めてくれ』、と懇願していたことを受け、自虐的に盛り上げながら、自然に無しにしてくれたのだ。
こんな時代だから頼りないと思われるけど、現代ならエンタメ方面で活躍できただろうなとゴエモンは思っていた。
式場は拍手と歓声に包まれた。
朝から女性陣と子供たちで摘んできた花によるフラワーシャワーが舞っていた。
現代のどんな華やかな結婚式より、素敵な結婚式だと、ゴエモン達4人は思っていた。
式が終わりを迎える時、マイが全員に向けて言った。
「みんな、神社の階段に並んで座って!新郎新婦は真ん中ね!」
皆何が起きるのか訝しがっていたが、言われるとおり並んだ。
するとゲンさんが、ゴエモンのスマホを持ってこちらに歩いてきた。
「ほら、さっさとしろよ。貴重な電力だからな。」
農夫にしか見えないゲンさんだが、こちらで自作した風力発電を通して、この日のためにゴエモンのスマホに充電してくれたらしい。
この晴れ姿を形に残せることが嬉しかった。
「ゲンさんすごーい!」「ありがとう!」
アヤカとオユキからだけじゃなく、里の皆から賞賛されるとゲンさんは照れ臭さに耐えきれず、ゴエモンにスマホを預けてさっさといなくなってしまった。
「ツーショット撮ってあげるよ!」
マイが嬉しそうにゴエモンのスマホを奪い取っていく。
二人はくっついて初めて写真を撮った。
「ねぇ、ウチらも撮ってほしいんだ。私の時はできなかったんだ。」
ひとしきりゴエモンとアヤカを撮ってくれた後、マイがお願いしてきた。
「もちろんいいですよ!」
「あ~、俺は今さらいいよ~」
とショーゾーは照れていたが、
「や~だ~、うちら撮ってないし、風の可愛い姿残しておきたい~」
マイの女子力にかかっては、ショーゾーも抗いきれず、二人のツーショット、風を交えたスリーショットと、新郎新婦以上にたくさん撮っていた。
マイ達の撮影が終わると、サイゾウが恥ずかしそうに言ってきた。
「お、俺たちも1枚いいか?」
そういうノリを嫌うと思っていたサイゾウからの意外な一言に驚いたが、きっとオユキさんの心情を思ってなんだろうと思い、
「いいですよ、ぜひ!」
と言って、オユキを手招いた。
オユキさんも嬉しそうに画面に収まっていた。
その後宴会になった。
皆が盛り上がっている末席にキュウサクと蛍がいた。
蛍は初めてみる結婚式というものに終始圧倒されていた。
「みんな本当に神仙の使い人なんだね。アヤカさんとオユキさん、本当に天女みたいだった。」
蛍は、この時代に無い、さっき見た二人のウェディングドレス姿は、神の所業以外に考えられなかった。
そして、里の民みんなが心から祝い、楽しむ姿に感動しているようだった。
「すごいね、神仙の里の人って本当に楽しそう。」
「あ~、皆平和な神様の元から来た人たちだからね。」
「うらやましい…この里に私も生まれたかったな…」
蛍が歩んできた人生と正反対のように暖かな里の雰囲気に、思わずそういう言葉が漏れていた。
「生まれは違っても、もう蛍はこの里の仲間だよ。」
キュウサクは優しく蛍に言った。
「ほんと、本当に私、ここを故郷にしていいのかな?」
「あぁ、皆大歓迎だよ。そしていつか蛍も天女に…」
言いかけてキュウサクは口ごもった。
自分でもまだ気づいていない気持ちが出かけてしまったから。
「うれしい…」
蛍はそう言いながら、二人の天女を飽くことなくずっと見つめ続けていた。




