第35話 星空の向こうへ
―3月
ゴエモンとサイゾウ達は一緒に祝言を挙げることになった。
祝言と言っても、小さな里の些細なものだ。
多くは望むべくもなかった。
―祝言の前夜
アヤカは、誰かが作った広場の現代風なベンチに座り、星を眺めていた。
星空の向こうに、母と妹がいるような気がしていた。
父はアヤカが中学生の時に亡くなり、以来母が女手一つで育ててくれた。
妹(彩音)は8つ離れていた。父が亡くなった時はまだ幼稚園児で、母が働きに出るようになってからは、アヤカが母親代わりに育ててきた。
目に入れても痛くない程、可愛い妹だった。
今アヤカは25才。妹は高校2年生になっているはずだった。
満天の星を見ながらアヤカは呟く。
「お母さん…、私、明日お嫁にいくんだ。
女手一つで苦労して育ててくれたのに…花嫁姿見せないで、お婿さんも紹介しないで…
親不孝な娘でごめんね…」
涙が一粒頬を伝った。
「アヤちゃん、姉さんいなくても元気にやってる?
小さいころは、お母さんいなくても泣かない子だったけど、私がいない時はいつも泣いて探してたよね…突然いなくなって… ごめんね…」
涙が止まらなくなった。
諦めていた思いが、溢れ出して歯止めがきかない。
「…帰りたい、お母さん…アヤちゃん…」
嗚咽になっていた。
呼吸が苦しくなるほど泣いた。
泣くことで、未来への未練を断ち切りたかったのかもしれない…
やっと、少しだけ息が整ってきた時、気持ちも少しだけ落ち着いてきた。
「…でも、でもね、私こっちで大切な人と巡り会えたの…。」
顔を上げ息を整えた。
「不器用だけど、真っ直ぐで、誠実で、優しくて、いつも他人の心配ばかりしている人…
今、私が前を向いて生きられるのは、この人がいるからなの…。」
顔中に張り付いた涙を両手で拭いながら、アヤカは笑顔を作り、星を見上げてこう言った。
「お母さんにも許して貰えるお婿さんよ…
アヤちゃんにも自慢のお兄さんになるわ…
だから、だから…心配しないで。
私は、こっちでちゃんと幸せ見つけるから…」
そう言うとまた涙があふれてきた。
もう子供のように泣きじゃくっていた。
魂が抜けていきそうな、そんな気持ちがした。
その時…
アヤカはフワリと優しく包み込まれる温もりを感じた。
ゴエモンが、そっと後ろから抱きしめてくれていた。
(あったかい…)
いつも一人で孤独に耐えていた。
人の温もりがこんなにも心地いいなんて、知らなかった。
初めてゴエモンに会った時から感じていた、どこか懐かしいような雰囲気…。
それは、亡くなった父に感じていた、大きな包み込むような愛に似ていたのかもしれない。
ゴエモンは何も言わなかった。
ただアヤカを抱きしめ、心に寄り添ってくれていた。
(お母さん、アヤちゃん。私この人に出会えたから、こっちに来ても不幸じゃないよ…私の嫁入り喜んでね…)
アヤカはゴエモンの腕の中、母と妹の笑顔のように瞬く満天の星空に向け微笑んでいた。




