第34話 本当の姿
三太夫と丹波が極秘会談をしている同時刻
柘植隼人は、里の集会所に案内されていた。
神社は社殿に接続した広い空間を集会所とし、大きな囲炉裏が備えられ、冬季間は基本的に住人全員がここで寝起きを共にしていた。
神社の高床を利用し、囲炉裏を低い位置に設置し空気の流れを利用することで、床暖房として機能させていた。
「これは誠に素晴らしき仕組みであるな。どこに座ってても暖かい。」
柘植隼人が感心していた。
「はい。冬の山は寒さが厳しいですから、少しでも燃料を節約しながら、暖まる策として一カ所に集まりこうして皆で暖を取っております。」
とサイゾウが説明する。
「誠に良策だ。我らの屋敷も冬は寒気がきびしく、ひたすら着込んで寒さを凌いでおるが、こういう工夫があるとはな。」
そう言いながら柘植は床板をコンコンと叩いた。
「これは忍び対策にもなるな。この煙の中床下に隠れておられまい。」
「いかにも!」
さすが忍びの頭領らしい着眼点に、一同笑い、場の空気が一気になごんだ。
「ところで、ゴエモン。何やら報告があるのではないか?」
柘植が意地悪そうな笑みを浮かべてゴエモンに言った。
ゴエモンは、一瞬「ウッ」と詰まりながらも、居ずまいを正し
「嫁を娶ることになりました」
とハッキリ言った。
「おぉ、それはめでたいな。その嫁御寮はここにいるのか?」
柘植は、自分がいても気にせず、思い思い囲炉裏端で過ごす住民を見渡し聞いた。
「おい、アヤカはどこ行った?」
ショーゾーが部屋にいる誰とはいわず問いかけた。
「あれ、さっきまでそこにいたんだけどな?私探してくる」
そう言ってマイは部屋の奥へ消えていった。
そうこうしているうちに、サイゾウが柘植の前に進み出て、照れ臭そうに言葉を発した。
「…柘植様、恥ずかしながら、それがしも妻を娶ることにいたしまました。」
柘植は目を丸く見開き
「誠か!?お主独り身であったか。それは知らなんだ。」
柘植はゴエモンの事は事前に三太夫から聞いていたが、サイゾウのことは初耳らしく、本当に驚いている。
だがすぐ笑顔になり
「いやぁ、それはめでたい!平成の里は新年早々縁起が良い事ばかりではないか。」
すると近くの囲炉裏端にいたオユキがサイゾウの横に進み出て、柘植に向かい挨拶した。
「この度、縁あってサイゾウと夫婦となります雪乃と申します。夫が安心してお役目果たせるよう、しっかり留守を守っていきたいと思いますので、夫同様お見知りおきくださいませ。」
「これは、よくできた嫁御だ。夫をしっかり立てているが、二人の時には、嫁御が強いと見たぞ。」
柘植は感心しながら、横目でサイゾウをからかうように指摘した。
サイゾウは頭を搔いている。
「サイゾウにはいつも大変世話になっておる。今後もサイゾウには重い役目があるだろうが、無事果たせるかは雪乃、其方にかかっておるからな。サイゾウを陰からしっかり支えてやれ。」
心のこもったその言葉にオユキは感動し涙を見せながら、
「ありがとうございます。」
と言って深く頭を下げた。
サイゾウとオユキの話で盛り上がっていると、奥の戸が開いた。
「アヤカいたよー!」
と言ってマイが奥からアヤカを引っ張ってきた。
何をしていたのかアヤカは粉まみれだった。
「アヤカってば、こんな時に奥で湿布作っててさ。」
「…だって、ゲンさんの湿布変える時間だから…」
皆アヤカらしいと笑った。
そのままマイに誘われ、ゴエモンの横に座らされた。
手も顔も白い粉まみれだ。
そんなアヤカを柘植はマジマジと見つめて言った。
「・・・ゴエモン、これはお主には過ぎた嫁御寮だな。」
「はい、もったいないです。」
ゴエモンは笑顔で即答した。
「そんなことありません。こんな、粉だらけなのに…」
アヤカが顔を真っ赤にして俯いている。
「見目もさることながら、実に働き者なのが良いではないか。芯も強そうだし、少し気持ちが優しすぎるきらいのあるゴエモンには打ってつけの嫁御だの。」
柘植の瞬時に人を見抜く眼力には恐れ入る。
オユキもアヤカも、夫婦が並んで座った一瞬で、どのような性格で日頃どういうやりとりをしているのかまでわかっているような口ぶりだった。
「二人とも祝言はいつだ?」
柘植がゴエモンとサイゾウを代わる代わる見ながら問いかけた。
「この先何かと忙しくなります故、あまりのんびりともしていられないのですが、来月早々雪が融けましたら早急にと考えております。」
とサイゾウが答えた。
「そうか。それはよい。日取りが決まったら教えてくれ。ささやかなれど祝いの品など届けさせてもらうぞ。」
「いやー、とにかくめでたいな。ほら、飲め」
そう言って柘植自らアヤカ、ゴエモン、オユキ、サイゾウへ酒を注いで歩いた。
あの冷徹で、人の心を持つことが悪であるかのような指揮官だった男の、心を持った本当の姿にゴエモン、サイゾウ、ショーゾーは深く感動していた。




