第32話 偽らざる心
「・・・なんと、壮絶な人生を送ったものよ...。」
里に戻り主だったもの集めて報告すると、三太夫が呻いた。
「だが、無事に生きていたのだな…。良かった…。」
三太夫の声が震えていた。
「しかし、信長がショウだったとしても、事態は変えられないみたいだな。」
ゲンさんがボソっと言った。
ゲンさんはショウと少しだけ過ごした事がある。
「歴史の修正力はそれだけ強い。下手に動かして相手の手の内が読めなくなるより、先が読める展開で打開策を考える方がいいというのはさすがショウだな。」
三太夫が感嘆している。
「いくらショウが陰で協力してくれるといっても、里をどうするかは俺たちが決めなきゃならねぇだろ。」
サイゾウが腕組みしながら唸った。
「こんな山奥まで敵も入ってこないんじゃないか?」
ショーゾーがそうあって欲しいという感じで問いかける。
「そういう可能性もあるが、万が一踏み込まれた場合は終わりだ。皆の命がかかることだからな。事は最悪を想定して動くべきだ。」
三太夫が囲炉裏の火を見つめながら言った。
「やはり、一度里を離れるしかないだろうな。」
サイゾウが苦々しく呟く。
「うむ。確実に皆を生かすにはそうするべきだが、今から動いて間に合うかだな。どこに逃げるか、どうやって逃げるか。」
三太夫が重い口調で語る。
きっと以前から考えていたのだろう。
だが、逃げるのも簡単ではないのだ。
「すでに伊賀の周囲は滝川配下の甲賀衆を中心にかなり厳しく監視されている。俺たち忍び働きができる者単独ならいかようにもできるが、女や子供を伴い国外に全員出すのは相当厳しい道のりだぜ。」
サイゾウは現実を語った。
伊賀国内は、老若男女見境なく焼き払われる。
堀や蒲生の軍勢はそこまでしなかったという記録もあるが、確実ではない。
血に興奮した雑兵が、指揮官の命令も聞かず暴走することは良くあることだった。
この地を最も苛烈な滝川軍が攻め寄せる可能性だってある。
里に残っていて、運が悪かったでは済まされないのだ。
「脱出方法はまた皆で考えるとして、まずはショウが言うように、早急に京へ拠点を作らなければならないだろう。情報収集の為と、里から逃れる人の受け皿作りも必要になる。」
そういうと三太夫はゴエモンの方を向き言った。
「この役目は、今回のことを成し遂げてきたゴエモンしかおるまい。ショウがその妖刀を託した意味からもな。」
「はい」
覚悟はできていた。
ショウと語らった数刻で、平成の里の為に自分ができることは、やり尽くすと腹は決まっていた。
「お前なら大丈夫だ。ショウのご指名だろ。」
あまり笑わないゲンさんが微笑を浮かべていった。
「俺もゴエモンだと思うぜ。京都で活動するには市井の人々との付き合いもあるからな。お前の愛されキャラは誰とでもうまくやれるよ。」
タイガが珍しく真面目に言った。
女性陣も皆納得顔で頷いている。
ひとりアヤカを除いて。
それに気づいたオユキがそっと聞いた。
「アヤカはゴエモンが京都に行くの反対なの?」
アヤカは俯きながら
「そうじゃないけど…、いつもゴエモンばかりに重い荷物背負わせる...の可哀そうって思って…」
俯きながら小声で言った。
それを聞き、マイが突然強い口調で言った。
「アヤカも行きなよ!」
皆一斉にマイの方に視線を送る。
「ゴエモンを支えられるのは、アヤカしかいないよ。一緒に行ってゴエモンの心の支えになってあげなきゃ。」
誰も笑ったりする者はいなかった。
皆それが一番いいと思っていた。
ゴエモンとアヤカ。
二人はいつしか平成の里の希望になっていた。
「京に拠点を築くにあたっては、目くらましのためにも夫婦を装い商売でも営むのが良いと思っている。二人に異存が無いなら、二人で行ってもらいたいところだが…」
皆の視線がゴエモンとアヤカを交互に見ていた。
「俺、行きます。アヤカさんが嫌じゃなければ。」
ゴエモンはきっぱりと言い放った。
しかし、アヤカは
「私は……イヤ…」
と小声で呟き、座の中から落胆のため息が聞こえた。
「なんで、アヤカ…」
マイが言いかけると、それを遮るようにアヤカが叫んだ。
「私は!…私は、偽装の夫婦なんて嫌なの。ちゃんと…本物の夫婦として、ゴエモンを支えたいの…」
俯き、膝の上できつく握った両拳を見詰めていたアヤカは、顔を上げ、ゴエモンに向かって問いかけた。
「それじゃ…ダメ?」
一同固唾を飲んで二人のやり取りを見詰めている。
ゴエモンは優しい声音で、静かに語りかけた。
「僕の心は前から決まっているよ。
ショウに里を守れって言われた時、頭に浮かんだのはアヤカさんのことだった。
初めての任務で心折れそうになった時、泣かせてくれたのもアヤカさんだった。
これから里のため厳しい戦いが待っているだろうけど、アヤカさんが傍にいてくれたら、乗り越えていける。」
そうしてゴエモンは、ニッコリ笑って立ち上がり言った。
「僕の妻になってください。」
アヤカは瞳に大粒の涙を溜めながら
「…はい」
とハッキリ答えた。
その瞬間、一同歓声と拍手に包まれた。
マイとオユキがアヤカに抱きつき、ゴエモンはサイゾウやタイガから手荒い祝福を受けていた。
迫りくる恐怖はある。
だけど、この里の未来は明るい。
誰もがそう思い、祝福の声はいつまでも止まなかった。




