第四話・支部長との対話
係員の案内で通された部屋には、支部長が執務で使うのであろう重厚で落ち着いた黒のデスクがあり、その部屋の入口扉から見て左側には本棚が、右側には扉があった。
「初めまして、キリハ君。冒険者ギルドヘルモンド支部の支部長、キース・リストニルだ」
短く刈られた薄茶色の髪をした壮年の男性が、デスクの向こうから歩み寄ってきて、こちらに右手を差し出した。
おそらくは、若い頃彼も冒険者だったのだろう。まめが潰れたり、たこができたりしたその手は厚くごつごつとしていて、年の衰えを感じさせない鍛えぬかれた肉体と共に、熟練の戦士という印象を与えてくる。
そんな手を握り返してキリハも自己紹介をする。
「こちらこそ初めまして、キースさん。朱二級冒険者のキリハ・ヒトツギです」
キースはキリハの手をしっかりと握りながら、ひとつ頷いた。
「さっそく話に入りたいのだが、見ての通りこの部屋には君に座ってもらえる椅子が無い。隣の応接間に行こう」
握った手を離しながら、入口以外にあった扉を指差すキース。そして、そのまま扉を開けて中に入っていった。
「そのソファーに座ってくれ」
テーブルを挟み、二脚あるソファーの片方をキリハにすすめ、キースがもう片方に座った。
椅子をすすめられたことに礼を言い、キースの正面に座り、向かい合う。
「さて、まずは依頼を受けてくれて感謝する」
キースの言葉に黙礼で答える。
「今回発見……というより、状況から居ると推測された魔獣は〝瘴魔〟だ。推測されたとは言ったものの、居ることはほぼ確実だ」
そこでキースは一旦言葉を切り、一瞬間を置いて話を再開した。
「あれの特性のせいで依頼を受けてくれる冒険者がおらず、受けてくれた君たちには感謝している」
話の方向性が変わり若干妙に思ったが、そのまま次の言葉を待つ。
「しかし、単独パーティーで〝瘴魔〟に挑むというのは危険ではないだろうか。
確かに、〝瘴魔〟を撃破した経験があるというのは聞いているが、後詰めのみを手配するのではなく、他の冒険者と共闘すべきではないか?」
依頼を引き受けたことには感謝するが、単独パーティーで今回の対象を討伐しに行くのは危険だから見逃せない、ということだろうか。
たしかに、魔獣という人の生存圏を脅かす獣の中でも、〝瘴魔〟は最も危険な部類に入る。
だが、自分たちにとっては〝瘴魔〟だからこそ戦う意味がある。
「いえ、問題ありません。今回の依頼は僕たちのパーティーだけであたります」
こう言うとキースは眉をひそめた。
「冒険者は金銭などの報酬を受け取って依頼をこなす何でも屋だ。そして、特に多いのが、今回のように魔獣を討伐するような戦闘能力を必要とする依頼だ。
だからこそ強力な魔獣を倒して名声を得ようという者も多いのだが──」
キースの鋭い視線がこちらを向いた。まるで射抜くような目だ。
「君は名声欲や金銭欲で依頼に単独パーティーで挑もうとしているわけではないだろうな?そうであるなら依頼を取り消すことになる。無駄死にさせるわけにはいかないからな」
「それはありません。これを見てもらえますか?」
キースの言葉をすぐに否定して、着ているコートの懐から紙束を取り出してキースに渡す。内ポケットには入らないような厚さの束だが、小さい袋からそれより大きい物を出すのは、冒険者に限らず今の日常では当たり前の事だ。
なぜなら、収納と通称される魔術がここ数年で大きく普及したためだ。
袋などにその魔術をかけることで、入れられる体積を増やすことができる魔術で、非常に利便性が高い。
日常、軍事などの非日常両方で使われる魔術は、人にとって欠かせない技術となっている。
そんな便利な魔術がかけられた内ポケットから出された紙束をキースは読み始めた。
「これなら君たちだけで挑むのも納得できなくはないが、これを見る限り、今度は他の冒険者では足手まといという意味に取れなくもないな」
事務作業でなれていたのだろうか、かなりの早さで紙束を読み終えたキースが、それをこちらに返してきた。
「さすがに足手まといとはいいませんが、〝瘴魔〟への相性としては僕たちだけのほうがいいと思います」
「そうか。とはいえ、君たちと同じ体質の人間でない限り、支援くらいしかできなくなりそうだ。よし、君たちだけでの出発を認めよう。だが、絶対に無理はしないように」
「ありがとうございます」
許可を出してくれた事に礼を言い、返された紙束をしまう。
「さて。聞きたかったことも聞けたことだ。今回の依頼の説明をしよう。
フィーリアで既に聞いている事もあるだろうが、ギルドが直接出す依頼には説明義務がある。
しっかり聞いてくれ」
2016年4月14日最後のくだりを修正しました。
後書きで修正報告忘れたので、後書きを挿入したのは4月15日となります
同年5月2日段落始めを一マス下げました
同年6月21日レイアウト修正




