閑話 ブラッド王子と手下たち
「うちの弟、すげー美人で可愛いだろー?」
嬉しそうに、照れくさそうに、でも自慢げに、というのがダダ漏れな、ゆるんだ顔をしているくせに、本人、一応さりげなく話しているつもりらしい。
俺たちは、誰一人として返事をしなかった。いや、できなかった。
そんなにあの弟、かわいいか? 王子の見てないとこじゃ、俺たち、凍らされそうな目で見られているんだけど。いや、それどころか、いつ殺されるかって気が気じゃないんだけど。
「だから、すげー心配なんだよ。あ、てめーらも、うちの弟に何かしやがったら、肉片残さず始末するからな」
途中から、きりっとして脅しをかけてくるが、突っ込みどころが多すぎて、もう、みんな、生温い目つきになっている。
俺は代表して答えた。
「あんた、弟王子の前では、見るな触るな息するな、壁になれって、言ってただろうが」
「あー。そんなこと言ったっけな。おい、おまえら、ちゃんと守ってんだろうな?」
「ああ。頭の命令を破るような奴はいねーよ」
俺は大きく頷いて請け合った。
壁になれって言われた時は、何イカレたこと言ってやがると思ったが、今ならわかる。
むしろ、甘い。自分の安全のためには空気になるくらいでちょうどいい。
あの弟王子、ありゃー、人の皮を被った、人外のナニかだ。興味を持たれて目を付けられたらおしまいだ。
それを、この兄王子、わかってないようでもないのに、心底本気で美人だとか可愛いとか心配だとか言う、その神経がわからない。
というか、弟を美人で可愛いだろうと自慢する時点で、男として、駄目だろうという気がする。
顔、体、地位、才能、どれをとっても高スペックなのに、性格の一点で残念でしかない仕上がりになっている。そんなところが、父親にそっくりだ。
……一番かわいそうなところが似たんだな。
俺の同情は顔に出てしまったらしい。
「てめー、言いたいことがあるなら、はっきり言え」
と、今日も王子にすごまれた。




