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意外なくらいかみ合っている

「今日は本当にありがとう。予約変えられなくて困ってたから」


向かいの椅子に座った夏切さんが控えめに笑う。

一見ガングロギャルと茶髪の彼氏というカップルが冷やかしに来ているように見えるが俺たちはあくまでただのオタ友だ。


「あとでレシート見せてね。俺の分払うから。・・・それにしてもほとんど女子だから俺浮いてそうで体の震えが止まらないんだけど」

「ふふ、女性向けジャンルだからなぁ」


注文したコラボフードはキャラクターのソロ曲と衣装をイメージしているらしい。演劇がテーマなだけあって豪華な装飾やピックが施されている。

たまたま姉の好きなジャンルだったので姉の推しのフードを頼んだら、思ったよりボリュームがあって困惑を隠せない。


「お待たせいたしました『角谷夏彦のバク中ぐるぐるハンバーグプレート』と、『五味真の重量級ハートオムライス』、『あんたのための俺の血液だよ♡』『楽しい嬉しいパーティーミルクセーキ』の四点でよろしいでしょうか」


店員の口からは長ったらしいメニュー名が出てくる。本当に食べ物なのかわからないものも中にはある。


「ありがとうございます!」

「オムライスは私で、ハンバーグは彼です」


二人で料理を受け取り、一応写真を撮る。そのまま姉に写真を送ると、チャットアプリに鬼通知が。

料理が冷めるのでそれをいったん無視しつつ前姉に付き合わされたコラボカフェで姉がやっていた通り、ピックや細かい食べられない装飾を紙ナプキンで拭き、別の紙ナプキンに挟み込む。


「手慣れてるね。前も来たことあるの?」

「ねーちゃんに強制連行されてね」

「あー」


夏切さんと味の感想を言いつつ料理に舌鼓を打つ。

キャラクターもなかはさすがに持って帰れないのでそのまま口に放り込む。

味がない。ただのもなかのようだ。


「あ、グッズ買ってきていいよ。荷物はみてるからさ」

「本当にいいの?助かる!」


夏切さんは嬉しそうにグッズ用の売店に向かって行く。夏切さんは食べ方もきれいだ。推しの概念コーデと言って白系統の服を着ていて少し心配したが、汚れたりもなく皿もソースの一滴も残らないほどきれいに食べている。コラボ外のバゲットを単品で頼んでいたのはソースまで食べきるためだったのだろう。俺も見習おう。


ハンバーグプレートを食べ終わり、ドリンクに口をつけながら鬼通知を確認すると、決済アプリの送金通知が目に入る。

・・・なんだこの金額は。


『なんであんたがそっち行ってんの!?私講義で行けないから代わりにグッズ買ってきて。スクショの〇ついてるヤツ!!!数も書いてるから!!!頼んだ!!!!!』


「・・・・・・」


返信することなくアプリを閉じればおそらく既読が付いたからだろう。また通知が鬼のように届き始める。


「熱意高いなあ」

「お姉さんからのお使い?」


いつの間にか帰ってきた夏切さんのご機嫌な声にハッとして向かいを見る。満足そうにほくほくした表情で大きな袋を抱えている。


「おかげさまで豊作だったよ。ありがとう。青山君もいってきな?」

「う、うん。ここってアプリのバーコード決済使える?」

「使えるよ~あ、もしかして送金されたの?お姉さんおもしろいね」

「絶対多すぎるからおつり返せって言われる・・・」


夏切さんに軽くお礼を言い席を立つ。

売店は女性客が何人もいるため足がすくんだが、買い漏らしなんてしたら確実に理不尽な目にあう。もちろん任務遂行すれば俺のほしかったフィギュアとか買ってくれるから別にいいのだが。


めちゃくちゃ視線を感じるが、購入上限を確認しながらスクショの丸印のグッズを買い物かごに放り込む。

ランダム系は買わない主義の姉なので、一つ一つの値段が高いことにげんなりしつつ選べる特典のキャラを吟味する。

姉の最推しは角谷夏彦という、ストリートダンスが趣味の不思議ちゃんキャラらしい。家庭環境が複雑で、個人ストーリーで惚れたらしい。

お互い好きな作品が違うのに、目の前でアニメを観たり曲聞いたりカラオケ出アニメ映像を流したりするせいでそのジャンルのオタクじゃないのに最低限は知ってしまうというのがオタク家族あるあるだと思う。


姉に送り付けられた画像のリストと見比べながら数を確認し、会計を終わらせてから席に戻ると、夏切さんが俺の手に持っているものを見て笑う。


「多すぎない?」

「言わないで・・・すごい注目されたから・・・」

「夏彦は女子人気高いからね。男子人気高いキャラだと遠野環とかかな?筋肉達磨の」

「それここで言っていいの?推してる人に怒られるよ?」


俺の心配する声に速攻首をふる夏切さん。


「夢女がいないわけじゃないけど、彼自身がかなりデリカシーないというか、脳まで筋肉タイプで割と鈍感なキャラだから大丈夫じゃないかな?」


ドリンク飲みつつ作品の公式ページを調べると代表ストーリーに載っているセリフに納得してしまう。


「『あー俺はそういうのわからないから、お前が決めてくれ。』・・・・彼女に振られそう」

「みんなそれ思ってるとおもう」


夏切さんは笑って頷いた。


「ちなみに環は筋トレしすぎて衣装係によくおこられてるよ」

「だめじゃん。演劇モノだっけ?再演の時とか困りそう」

「困らせてるよ」

「やっぱり」


二人で話してただけなのに時間はあっという間でいつの間にか退席時間が迫っていたので、二人で荷物をまとめて席を立つ。


前払い制なので他のお客さんに迷惑をかけないようにそそくさと退店し、レシートをもらう。


「どうする?現金とアプリ送金どっちもできるよ」

「送金がいいかな。あんまり現金受け渡しするのは最近の治安的によくないし」

「りょーかい」


アプリを起動してレシートを見ながら送金ボタンをタップする。


「アレ?多くない!?」

「誘ってくれたお礼ってことで、あとでコーヒーショップバッグスでドリンクでも買いなよ」

「そう?・・・うーん」


納得していない様子の夏切さんに言い聞かせ、お土産を買うべく近くに開店したファンシーモンスターのポップアップショップに向かう。人気モンスターのクッキー詰め合わせを数種類購入し、配る友人の数と会っているか確認する。

彼女はご家族にも頼まれているらしく、無難なお土産屋さんのお菓子見本を前ににらめっこを続けている。


この前のアニメショップ同様買い物が終わったら集まる場所を決めていたが、夏切さんは一向に帰ってこない。


「うーん・・・」

「大丈夫・何か手伝うことある?」

「青山君待たせてほんとごめんね?」


俺が彼女を探し出し話しかけると、申し訳なさそうな消え入りそうな声で謝罪をしてくる。

よく聞けば家族の好き嫌いがばらばららしく、妹はナッツ、母親はベリー系全部、父親はそもそも甘いものが苦手らしい。だが同居している祖母が甘党なのだそうで、それぞれに買っていくほどの予算はないとのことだった。


「それは難儀だね・・・しかもお土産だと恰好な量のしか売ってないもんんね」

「そうなんだよね。あ、和菓子アソートなら甘いのもしょっぱいのもある・・・でもこれスーパーでうってるしなぁ」


俺が口出すわけにはいかないしなんといった方がいいのかわからない。

これが家族がオタクならコラボグッズとかアニメショップで持ってないグッズを買ってファイナルアンサーなのだが、彼女の家族は残念ながら非オタ・・・


「もういいや」


夏切さんはあきらめたのか単品コーナーに行くと、雑にお菓子をいくつか買い物かごに放り込みレジに歩いていった。


「ごめんお待たせ。さ、帰ろうか」


どこかすっきりした表情で夏切さんが笑いかけてきた。

その表情に心がはねたのはきっと錯覚だろう。うん。


隣の市だったので一緒に電車に揺られる。

彼女を椅子に座らせ、その前をガードするように立つ。

つり革につかまりながら、少女漫画だったらデートの帰りなんだけど、俺たちはオタ活の一環という・・・などと悲しくなっていた。


夏切さんの最寄りで彼女を見送り、改めて開いた席に座ると、隣に座っていたおばあさんから「青春ねぇ、頑張ってね」と飴をもらった。


高鳴ったままの心臓に見ないふりをしながら飴を口に放り込む。

甘い。イチゴ味だ。


夕暮れに染まった電車の床から視線をそらすことはなく余韻に浸ると口の中で飴を転がす。

何度も食べたことのあるその飴は、いつもより甘く感じた気がした。

俺のおススメ漫画コーナー


史上最高の美しい世界

シイザカ蜜柑先生の人気作品。最終巻の後日談だけを収録した漫画も発行されており全19巻の大作だ。

世界の箱庭という天気を自在に操れる種族の住まう仙人の里から婿として召し上げられた青年ニールは、世界で一番の頭脳を持つ神童と呼ばれる大国の王女、リリィの元に向かった。リリィは歳に見合わない大人びた考えを持った残虐な価値観の持ち主で、それを哀れに思ったニールは、ツッコミどころ満載の理不尽な生活に耐えながらもリリィ姫の心を溶かしていく。

リリィの両親はすでにおらず、現国王はリリィが成人するまでの仮として、彼女と犬猿の仲である宰相の息子でリリィの叔父であるルーディが一時的に努めている。そんな王宮内の家庭環境を解決に導いたり、世界を救おうと暴れたり、ニールの活躍をハラハラしながら読み進めることができる作品だ。


少女漫画にはあまり見られない男性キャラ目線の作品だ。

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