キラキラデートは現実にはない
最近はオタクの地位もあまり低くないので、制服でアニメショップに行ってもひそひそはされない。
本屋で少女漫画のコーナーにいるよりも注目はされないのがうれしいところだ。
「・・・これこれ、林ちか先生の新刊!」
夏切さんは平積みされている漫画を一冊手に取ると目を輝かせた。
俺も同じ漫画を手に取り、ついでに隣の漫画も一緒にカゴに入れていく。
「『鬼嫁様は甘やかされたい』だ。気になってるんだよね、結構面白いの?」
「うん。少なくとも俺は好きな展開だった。押し掛け女房の鬼娘ちゃんがポンコツ天然なのに一生懸命で可愛いんだよね」
「あ!それ以上言わないで!ネタバレダメ!」
こうしてやり取りしていると、まだ知り合ってそんなに立っていない記憶が植え付けられたものに感じられてしまう。
「ごめんごめん」
「あ、私BLコーナーも見たいから他のグッズ見に行きなよ」
夏切さんがそう言って足取り軽く姿を消してしまったので俺も好きにすることに。
そう言えば前やってたアニメでもアニメショップの入り口で散開していたっけ。アレの原作漫画面白かったんだよな。
夏切さんがスッカリ見えなくなってしまったのでカゴを持ち直し、クラシックプリンスのグッズコーナーをうろつく。最近新グッズ出てたし、母親の推しがあれば母の日のプレゼントに添えたいところだ。
「あったあった」
コーナーの端に母がほしがっていたコラボぬいが目に入る。ヴァイオリン担当の星野宮月実のぬいを手に取り、カゴの中に積まれた漫画の上に置くと、予算もきついのでそのままレジに向かった。姉の推しである一畑十夜はいなかったので心の中ですまんと手を合わせながら。
買い物を終わらせて入り口に向かうと、夏切さんがすでに待っており、こちらに控えめに手を振ってくれた。
少女漫画で見た光景だ!と思ったのは黙っておこう怒られてしまうかもしれない。
「またせてごめん」
「ううん、大丈夫。私もさっき買い終わったとこだし・・・ところでそれクラプリじゃない?好きなの?」
夏切さんは袋からはみ出ていたタグに気が付いたのか袋を指差してきた。
「え、あーこれ母さんの推し。姉さんの推しは残念ながら売り切れだったけど母の日にこれあげようかなって」
「うちの家族非オタだからうらやましいな~」
駅まで歩きながらありきたりな会話を続ける。ありきたりとはいっても漫画やアニメの話なんだが。
彼女を駅の改札前まで送り届け別れると、元来た道を戻っていく。
家が反対方向だと知った時に慌てて送らなくていいといわれたが、女の子を一人で帰らせるようなクズではないので強引についていったのだ。
結果いろんなオタク特有の情報共有ができたのは本当によかった。
家に帰ると下着の上に直接大きなパーカーを着ているノーブラ姿の姉が前髪を推しの顔面ヘアゴムでくくり、お菓子をむさぼっていた。今日は大学は休みだったのだろうか。
まえ使用していいのかと聞いたら保存用があると言っていたのでもう何もつっこまない。
「お帰り~今日の晩御飯はカレーだよ~」
「ねーちゃんはなんで今ポテト食べてるんだよ」
「え、さっきカレー作り終わって疲れたから」
「はぁ・・・・」
母が昼寝したまま置きそうにないから勝手に料理したのだろう。保育士をしている母親は休みの日や早番の日は死んだように眠っていることがある。
疲れてるだろうから俺も特につっこむことなく自室に荷物を置きに行った。
「父さんは?」
カレーを前に姉とふたりで録画していた日曜アニメを観つつ雑談をする。
「あと20分で着くってさっきメール来たよ」
「じゃあさっさと食べて離脱するか」
父もアニメが好きで機動勇者ギガンドをよく俺たちに布教してくる。確かに面白い作品ではある。俺も好きなシリーズはあるしゲームもやるが、あそこまでの熱量はさすがにない。
問題は父が戦争モノや思想が強くなりがちなSFを好むせいで他のアニメ・・・子供向けの日曜アニメすらも「食物安全保障が」など政治的な思想と絡めて話したがるようになってしまったことだ。
自分が好きで見てるアニメが全部政治思想とつなげて話されて喜ぶやつの方が少ないだろう。
俺はある程度「ハイハイ」と流せるが、姉は生理的に無理だったらしい。最近は必要がないと話をしない。メールや手紙のやり取りは父が「直接言いに来い」とキレるのでしなくなった。
※なお、本人はなんかあったらメールで事前に連絡しろという割にメールを読まないし何か頼んでも「今じゃない」と後回しにし忘れる
今では姉は学校以外の外出や風呂のような部屋から出る必要があるとき以外は部屋から出ないし父親に自分から話しかけたがらなくなってしまった。
アニメを観終わって洗い物をしようと立ち上がると車の音が聞こえてくる。
「ねーちゃん、洗っとくよ」
「助かる。あとでギフカあげるね」
「5000円でよろ」
「あいよ~」
姉を部屋に追いやり、皿を洗いながら冷めかけてたカレーなべに火をつける。
とろ火で温めながら母のお気に入りのスポンジを泡立てる。
後ろで扉の開く音がしたので顔を向けずにお帰りとだけ声をかけて大盛りか普通盛りか聞くと「少なめ」と返ってくる。
ここまでテンプレだ。
洗った皿を食器カゴに置き父にカレーを出したあとに母が疲れて寝てるので起きてきたらカレーがあると言ってほしい旨を伝えてリビングを出た。※父は自分でごはんを作らないし温めすらしない(できないわけではない)
リビングの扉の向こうからは「さぁて嘘ニュースでも見るかぁ」ちあからさまな声が聞こえテレビのニュース番組のBGMも流れ出す。
姉はおそらく自室で友達とゲームしているのか楽しそうな声が聞こえてくる。
「ねーちゃん、昨日借りた漫画返しに来た」
扉越しに声をかけるがゲーム音声が大きいのか聞こえていないようで何も返事が返ってこないのでそのまま部屋に侵入。
姉の推しの祭壇の前を素通りして隣の本棚に本を戻し新刊をもって退散。
ちなみに姉はゲーム実況を流しながら届いたばかりの神絵師の同人誌を読んでいた。
「借りるぞ」
「んー」
扉を閉めるとちょうど起きてきた母と会ったのでリビングにカレーがあるということだけ伝え、そのまま部屋に戻った。
次の日の教科書を準備をしていると、俺のスマホに夏切さんからのメッセージ通知が届いていたことに気が付いた。
『ごめん。ご飯食べてた。どした?』
慌てて返信すると、気にしてないよと書かれたケモミミの男性キャラのスタンプが帰ってきた。
『送ってくれてありがとうって言いたくてね』
『そんなことのために?』
『そんなことじゃないよ。あと今度コラボカフェ誘おうと思って。一緒に行く予定のSNSのフォロワーがいけなくなったからついてきてほしいんだよね』
コラボカフェだと?
思わず体が固まる。
いや落ち着け春斗、これはただのオタ活だ。デートではない。
震える手で『わかった。あとで日付と場所教えて。あと公式サイトも』とだけ送り、心を落ち着かせるためにヘッドホンをしてゲームステーション4の電源を入れた。
俺のおススメ漫画紹介コーナー
カラメルみたいな恋したい!?
キンキスの作者と同じ神代百々瀬先生の初連載作品。
俺が生まれる少し前の作品出、キンキスとは作画が全く違うが方向性は変わっていない。
あらすじ
ヒト族、魔女見習いのぷりんが飛ばされたのは魔法のない世界だった。そこには小さいころに行方不明になったはずの婚約者、吸血鬼のカイがいて、しかも記憶喪失・・・!?
自分の正体を隠しながら人間だけの世界でぷりんはどう生きていくのか・・・!?




