部活選びは勉強よりも最優先事項です。
「青山君は漫研にはいるの?」
スッカリ打ち解けた隣の席の夏切さんが弁当の卵焼きをほおばりながら首をかしげる。
「あー・・・文化祭でイラストとか出すみたいだし、俺絵はあんまり得意じゃないからなぁ」
「私も人前で物を発表とか無理だから帰宅部にしようかなって思ってたんだ。良かった」
良かった?
どういうことだろうと彼女の顔を見ると、いつの間にか大きな弁当を食べ終わりデザートのジャムサンドにかぶりついているところだった。
「あ、私ともだちいないからさ・・・青山君が部活は言ってたらまたひとりぼっちになるかもっておもってたんだ」
夏切さんは照れたように笑った。
夏切さんは自黒らしく、基本休みの日は外出していないのに日焼けしたような肌の色がキレイだ。その肌に映えるチョコレートのような茶色い髪がサラサラと綺麗に空調の風になびいている。
「珍しい?これでも純日本人なんだ。おじいちゃんが生まれつきの色黒だから隔世遺伝かなーってお母さんとははなしてるんだよ」
「一見 陸上部とかに居そうだもんな」
「はは、勧誘されたよ」
夏切さんの困ったような笑顔にドキリとする。漫画ならここで二人の恋の話がスタートするんだろうなと思うが、現実はこうはいかない。
「そういえばさ、ずっと気になってたんだけど、青山君はどうして少女漫画に詳しいの?男の子でここまで好きっていう人あんまり見たことないもん」
「あー・・・俺、姉さんと母さんが少女漫画とか女性向け小説好きでさ。家にある漫画の9割が少女漫画なんだよね。少年漫画は雑誌が何冊かあるけど俺そもそも漫画はあんまり自主的に買って読まない方だし。」
俺の回答に夏切さんはなるほどなーとジャムサンドの最後の一欠片を口に放り込んでから頷く。
「姉さんはアウム、母さんは空夢コミック特化って感じかな」
「ラブコメばかりじゃん!」
「二人ともフリージアコミックみたいな砂糖直食いあまあまラブストーリーは苦手ってよく言ってる」
「想像に難くないね」
二人で笑いながらおススメの漫画を机の上に並べる。
「あ!『最果てより』じゃん!今度アニメ化するんだっけ」
「そうそう!ひすいしょうこ先生のお話好きだったけどまさか数十年前の漫画がアニメ化するなんて思わなかったからびっくりしたよね」
少し感光した古い単行本に夏切さんは目を輝かせた。
読んでいい?と言うので今度全巻ロッカーに入れとくから呼んでいいよと言うと夏切さんはあからさまに大喜びした。
「本当にいいの!?20巻以上あったよね!?」
「母さん説得するわ」
ははーとまるで神様に土下座するような体制でこちらにお辞儀をする夏切さんの頭をあげさせ、改めて夏切さんのおススメ漫画を見ると、見覚えのある作画が目に入る。
「中田ロボ先生・・・?」
「正解!もしかしてもう読んでたかな・・・?」
「むしろこれはまだ読んでなかったから今読みたいです」
「なんで敬語になってるの?」
夏切さんは笑いながらツッコミを入れる。
入学式前とは違うとはいえ、こんなに充実した昼休みはいつぶりだろうか。
中学の時は子供向けの漫画やアニメが好きというだけで友達はいなくなり三年間ボッチ極めていたから、この空気間が心地よい。
「そういえば夏切さんは日曜日のアニメって見てる?魔法戦士シリーズとか」
「見てますとも。特に今年のは最高。毎年言ってるけど」
「それ魔法戦士オタあるあるじゃん。でもわかる。魔法戦士マジカルアンバーが仲間を勧誘するために妖精を天にぶん投げたシーンは笑った」
「マジカルアンバー人気だよね。二人目のマジカルルビーの方が大人人気あるけどやっぱ主人公だよね~」
いつの間にか漫画の話からアニメの話に移行しているが、こんなに楽しく会話ができたのは家以外だと本当に久しぶりで肩の力が抜けた。
「中学の時は変な奴扱いされたから仲間がいてよかった・・・」
「え?」
俺のこぼした言葉に夏切さんが動きを止めた。
「あ、ごめんなんでもないよ」
俺がそう言って机に広げた漫画を鞄にしまい込むと、夏切さんがまた口を開く。
「私は軽蔑も差別もしないよ」
彼女の方に視線を戻すと、まっすぐな目でこちらを静かに見ている夏切さんと目が合う。
「私にもっと好きな物教えてよ。もうここは高校だよ、あなたのいた中学じゃない。だから大丈夫。これからたくさん共有していこう?」
余り笑わない夏切さんのふわっとした笑顔がまぶしく感じる。
彼女は自覚がないようだが結構かわいい。正直自覚してほしい。
午後の授業は退屈で、紐づけられる漫画やアニメがない教科なんて興味ないに等しいよなぁと窓の外なんて見たりする。姉さんの漫画だったらこういう時窓際の席なんだろうけど残念ながら席替えしたせいで真ん中どころか廊下側の席になってしまった。
夏切さんとはそういう運命なのか隣の席なのは変わらなかったことに神への感謝をしつつ教科書のに隠した漫画を読みながら教科書に落書きをする。
「ふふ」
後ろから笑い声が聞こえてくる。
先生が黒板の方を向いている隙に声の方に体を向けると、明石美紅さんと目が合う。
明石さんは眼鏡をくいと直すと声を潜めて話しかけてくる。
「今は授業中ですから、あとでお願いしますね」
少し癖のあるイントネーションの彼女は意味ありげに笑うと小さくあくびをして眠りこけてしまった。
もってきた漫画はすべて読んでしまったのでまた退屈な時間が始まる。
仕方ないので二巡目かぁ・・・
「そこの三人」
長谷川先生の声がこちらに跳んでくる。
ハッとして顔を上げれば鬼の形相の長谷川先生の顔が視界に入る。
やっべ。
先生の視線が怖いので慌ててノートに板書を書き写す。
それを見てしかめっ面のまま黒板に向き直るのを確認してほっと胸をなでおろす。
『今日確か新刊発売日だから、帰りいっしょに本屋寄ろ』
隣の席から小声で夏切さんがメモを回してくる。その熟れに返事を書いて回すと、また別のメモが帰ってくる。
『じゃあ掃除さっさと終わらせよう』
思わず顔が緩む。
これだよこれ。これこそ求めていた少女漫画の展開だ。
王道通りなら意識してなかったのになんだかデートみたいになってしまっていることにあとから気が付いて勝手に気まずくなりながら何でもないふりを貫いていたら二人とも実は意識してて、周りから見るとバレバレなのに肝心の二人は自分のことでいっぱいいっぱいで気が付けていないという・・・
なんてオタクの早口のような脳内妄想が止まらないうちに、授業はあっという間に終わってしまった。
後ろの席の明石さんは結局ホームルームどころか掃除の時間までそのまま爆睡していたので授業中に行っていた「あとで」は後日に延期になってしまった。
結局あの人は何だったんだろうか。
校門を出ると、5組の小夜子に呼び止められる。
「あ!春斗!!!」
「小夜子うるさ・・・」
小夜子は陸上部に入ることにしたということをわざわざ伝えるために昇降口で待っていてくれたらしい。本入部は来週とのことで、とりあえず他の部活もクラスでできた友達と一緒に回るのだそう。
「この高校バレーと陸上が強いでしょ?だからこれから忙しくなるとは思うけど、応援してくれたら・・・うれしい」
「そりゃそうでしょ!俺と仲良くしてくれる幼馴染は大事にしないとね!あ、今日クラスのオタ友と本屋に行く予定があるんだ。じゃ、またね!」
俺の返答に何やら安心したような表情をこちらに向ける小夜子。
なんだよ俺が友達作れるか心配でもしてたのかよ。本当におせっかいというかなんというか。
「青山君、ごめん。さっき先生に呼び止められちゃって」
「夏切さん、大丈夫だよ。じゃ、さっそく本屋行こうか」
夏切さんが合流すると、
小夜子は目を見開いて驚いたような表情のまま固まってしまった。
「あ、小夜子はまだあったことなかったよね。この人は夏切さん。俺のオタ友!同士!!」
「・・・え、あ、あぁ。夏切さん、よろしく・・・私はこれの幼馴染の佐野小夜子。よろしく」
「佐野さん、よろしくね」
テンションの低い自己紹介が目の前で繰り広げられる。
これが漫画やアニメならキャラかぶりだなんだとオタクたちがSNSが炎上させてしまうだろうなあ。
そんなことを考えながら小夜子と別れ、足早に本屋に向かった。
まあ本屋と言ってもアニメショップなんだけど。
俺のおススメ漫画紹介コーナー
最果てより
ひすいしょうこ先生が手掛ける超大作。俺の母親が若いころに連載していた作品。家族や身近な人以外のアシスタントはとらず、ほぼ一人で書いていた方なので一巻ごとの発行までのスパンが長いのが特徴の漫画家。
『最果てより』のストーリー
新幹線事故に巻き込まれた主人公の春香が目覚めると、そこは海に浮かぶ小さな島の真ん中だった。
異世界の青年ギルとともに旅をする中で、様々な運命に巻き込まれていく・・・20年以上の時を超えてアニメ化する予定。




