単純な話ではないのです。
家に帰ると大学から帰ってきていた姉が部屋にとつってくる。
「春斗!戦利品を今すぐよこしな!!!」
検品の時間が始まる。
無料特典も余すことなく舐めるように眺め、裏側まで念入りに確認をする姉を我が姉ながら気持ち悪いなと若干引きながら観察する。
「さすが我が弟。リストにないものに加えてファンシーモンスターの最推しのぬいまで・・・」
「ねーちゃん面食いだから可愛い奴選べばだいたい刺さるだろ」
「それはそう」
コラボデザインのショッパーごと一度に抱えて鼻歌交じりに部屋から姿を消した姉を確認してからそっと扉を閉める。
姉の機嫌がいいと、俺のほしいグッズを買ってくれるので普段から機嫌取りをすべきだ。
誕生日プレゼントにイケおじ声優の写真集をあげたら大歓喜しながら階段から落ちたのは記憶に新しい。
普段から奇行しかしない姉にすっかり見慣れてしまった自分も狂っているのかもしれない。
「さわがしいな」
ため息が止まらない。
ペットボトルの中に若干残っているぬるいサイダーを喉に流し込みスマホを操作するとチャットアプリの通知が目に入る。
『青山君、今日はありがとね。また遊びに行ってくれますか?』
すこしぎこちない文章に思わず口角が上がる。
『こちらこそありがとう!俺でよければいつでも誘ってよ!同級生のオタ友初めてだからうれしい!』
返信に既読が付いてからうんともすんとも言わなくなったスマホを眺める。
寝落ちでもしたのだろう。
姉がお礼にとおススメの同人誌を持ってきたが俺はあいにく腐男子じゃない。
百合は好きだが姉ほどただれた趣味は持ち合わせていないし姉みたいなМでもない。
というわけで同人誌の束を部屋の前に返却しておく。ついでに借りていた最近のお気に入りの漫画「暗黒の瞳と姫」も隣に積んでおく。
持ってくるならせめて少女漫画の新刊にしろよ。
チャットアプリで「俺は腐ってねぇ」とだけ送ってゲームステーション4の電源を入れた。
ボイスチャットの通知が来ていたのでvoicechordのグループボイスチャット部屋に入室しつつヘッドホンを装着した。
機動勇者ギガントのネットゲーム、ギガントオペレーションのクランマッチがあるのだ。
クランメンバーと軽く挨拶を交わしてからチームを募集する。
『おーすぷりんぐさんやっほー。』
『今日は女性向けジャンルのコラボカフェ行ってたよね?』
『なんだとリア充か!?今すぐ斬りに行くから住所教えろ』
「代行だよ!!!童貞なめんな」
今日集まったクランメンバーはみんな社会人で年上ばかりだ。
あまりにもトラブルが絶えなかったからと、なぜか年下なのに喧嘩の仲裁を冷静にできる俺がクランマスターにされてからは比較的平和だが、それでも大人げない大人たちのくだらない喧嘩を仲裁する日々にうんざりする。
でも完全に悪意のある人たちではないこともわかっているので突き放せないのが現状だ。
俺も甘いななんて思ったりするが楽しいから仕方ない。
『じゃあ今日も勝ちますか』
『すぷりんぐさんがいればいけるだろ』
「俺べつにそんな強くないよ」
『いやいやいや、すぷさんノールックで敵の弾幕を予測して避けるじゃん。ノーダメで』
『前配信者のアーカイブにいたのすぷさんだよね?「動きが気持ち悪い!やばいやばいなんだこの人!」みたいな感じで言われてたやつ』
たしかに前野良でマッチした敵チームに有名な配信者がいたらしく、俺の使っているロボットの動きに恐怖を覚えていたらしい。
フォロワーからDMに送られてきたURL先のアーカイブではコメントも含めていつの間にか有名人のように扱われていた。
『すぷさんも配信すればいいのに』
「環境が悪いし俺メンタルか弱いから無理」
『またまた~』
『機材新調するから古いのあげられるよ?』
「さすがに恐れ多いです」
『敬語の時は本気で嫌がってる時だやめとけ』
『ちぇ』
呑気な会話をしつつレーダーを見ながら相手チームの位置と使っているロボットの種類から速度の計算をする。
狙撃を警戒しながら
裏撮りをする。
あくまで陣取りゲームなので倒すよりも敵チームの所有している陣地を無人にすることに注力する。
中にはとにかくキル数を取ることにだけこだわりを持っている人や自分の思い通りにならないと味方に攻撃する人、負けそうになるとゲームの線を抜いたりいわゆる「萎え落ち」する人もいるので地雷臭のする人はちゃんとブロックしていくのも忘れない。
『すぷりんぐさんさすがにキル数えぐい』
『すぷさんキル数分けて』
「断る」
『そりゃないぜSタイプ』
「俺はSタイプじゃないよ」
ギガントの世界線ではいわゆる特別な能力を持って生まれたパイロットのことをSタイプというのだが、さすがに俺にはそんな特殊能力はない。ちょっと頭の回転が速めなだけだ。国語は苦手だし。
ちなみに姉は空間把握能力と国語能力はずば抜けているが間合いを取るのが苦手なのであちこちぶつけたり転んだりよく自滅している。
良くも悪くも極端で正反対な姉弟なのだ。
得意な分野が真逆なのでたまにゲームの装備ステータスのスコア計算を頼まれる代わりに国語力の求められるものを代筆してもらったりしているくらいだ。
周りからは仲がいいといわれるが、このくらい普通だろう。
二人で飯を食いにだって行く。あくまで利害の一致だ。
そうこうしているうちにクランデイリーミッションの三勝をクリアしたので明日の学校を理由にボイスチャットを抜け、ゲーム機の電源を落とす。
スマホを確認してもなにも来ていない。
きっと夏切さんも疲れて寝てしまったのだろう。
SNSに「高校の友達に付き合ってコラボカフェ行ってきた」と写真付きでツイートすると、あっという間にリプが付く。
『リア充かよ爆散しろ』
『すぷさんどこの店舗行きました?俺も姉といったんですけど変に目立ってたカップルいたからもしかしてそれがすぷさんだったりして・・・w』
『彼女かわいい?』
『友達紹介汁』
俺の相互さんは同い年から数十歳年上の社会人までたくさんいる。
だいたいギガントオペレーションか運命戦線の話しかしない。最近はレッドエリアの話もしてるけど。
最新衣装のデザインの解釈とか、最新アプデで追加された新ストーリーについての議論がタイムラインで繰り広げられている。
リプは無視してスマホゲームのログインをする。
運命戦線は世界の偉人や精霊などオカルト的存在を美少女の姿をしたホムンクルスの体に降ろして敵と戦わせるゲームで、俺の最推しはレア度星3の鬼姫ちゃんだ。ちょっと愛が重くてすぐ燃やそうとしてくるのがチャームポイントだ。
最近始めたレッドエリアというゲームはそれぞれデザインの異なる羽をもつ美少女たちが戦うゲームだ。羽を破壊されると亡くなってしまうキャラクターロストのあるゲームだが、いかんせんキャラクターのバックボーンにすごく心打たれてしまう。
どちらも姉に布教したが、いっさい履修してくれないのが悲しいところだ。
美少女ゲームやってるくせに・・・!!!
俺が嫁のぬいと一緒に寝たり、オリジナルのアクセサリーを付けたりして溺愛していても引いたり茶化したりしないのは感謝している。友達の中には家族の理解がないと嘆いていたりするやつがいるのだからかなり恵まれているのだろうな。
家族のグループチャットの通知が届く。
『風呂開いたよ~』
母からだ。
姉が速攻キャラクターのスタンプを変身しているので姉が風呂からあがってからゆっくり風呂につかろうと思う。
俺のおススメ漫画紹介コーナー
暗黒の瞳と姫
作者である惣菜ソウさんは作品を未完のまま病死されている。
ストーリーは、生まれたときから視力が無く、生まれながらに高かった魔力を使って周囲を把握していたとある国の王子と、王子に輿入れした大国の末の姫の話だ。
少女漫画には珍しくところどころ姫のシーンが王子目線で書かれており、姫がとてもかわいい。
幼少期から目が見えないことで、家臣に裏切られたり利用されそうになったりしていた王子は完全な人間不信で、信頼のおける魔族しか家臣にしないと決めていたが、姫の純粋で誰にも分け隔てない態度にだんだんと凍り付き閉ざされた心の扉が開かれていく・・・
作者さんがまだ生きていたらきっとこれ以上に素晴らしい二人の未来があったのだろうと思うと悔しさと悲しみで何とも言えない気持ちになってしまう。




