表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
ガンソード・マギア ~序列最下位、銃剣魔法使いの英雄譚~  作者: 瀬里@ピッコマ/Lineマンガ連載中


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

19/20

19.プレゼント

「手駒……とは?」

「難しく考える必要はないよ」


ディルクが質問を返すと、カールの発していた圧はやわらいだ。


「君の父親は『ファルケハインのために』それが唯一の判断基準の男だからね。いろいろと敵を作ってくるのさ──それを収拾するのが、私の仕事ってわけだ。君にはそれを少し手伝ってほしいだけだよ。信頼できる人物がほしいんだ」

「報酬は? 俺の力を隠す、それだけじゃ安すぎるだろう?」

「もちろん、報酬も惜しまないよ。二年後には君も王都の学院にいくからね。金はいくらあってもいいだろう?」


ディルクは淡々と言葉を交わしながらも、すでに心を決めていた。

高まる高揚感に、むしろ笑いを堪えるのに必死だ。

回帰前、この男がどんな仕事をしていたのか、ディルクは知っている。

言葉を濁しているが、ファルケハインの表に出ない、ありとあらゆる汚れ仕事に手を染めていた。


(この取引で、俺は、そのファルケハインの暗部に入り込むことができる)


どうやって入り込もうかと思っていたそれが、目の前にこうも容易く転がってくるとは。


「わかった。応じる」

「物分かりがよくて助かるよ」


ディルクはカールの差し出す手を握り返す。


(これで俺は、当主へとまた一歩近づいた)


四年後、この男はこの世にいない。

この男が死んだあと、ファルケハインの暗部はそのままディルクの手に落ちるだろう。


(それまでの間、こいつに利用されたふりをしてやる──待ってろよ、オスカー。俺はお前を殺して、必ず当主になってやる)




半年の魔法教育期間の終了後、ディルクは教育延長を言い渡された。

序列最下位であり、魔力を発現させたばかりの能力の足りないディルクが、カールに厳しく指導を受けている──といった態を装う。

内実は、カールの持つ様々な裏仕事がディルクにもたらされた。

殺しまでは要求されなかったが、反対勢力を陥れるための汚い裏工作には、いくつも関わった。

ディルクは、その手法、伝手、技術を貪欲に吸収していった。


今日もディルクは、カールに与えられた裏仕事をくたくたになりながらこなして、部屋へと帰りついた。


「十一歳の子どもにやらせる仕事じゃないだろう」


悪態をつきながらベッドに転がると、書き物机の上の手紙が目に入った。

序列を与えられ、カールの仕事を手伝うようになってから、ディルクの邸での扱いは格段によくなった。

本邸に私室が与えられ、使用人が食事を準備し、部屋に持ってくるようになった。

部屋には定期的に清掃が入り、汚れものは勝手にきれいになって戻ってくるようになったし、今日のような早い時間に戻ったときには、必ず部屋に菓子が準備されている。


ディルクは、テーブルの上の花びらの形の焼菓子を口に入れ、頬張りながら手紙に手を伸ばした。

母とラウラからだった。

ディルクは、毎週のように二人から手紙を受け取っている。

母からの手紙には、体が回復していることと近況、ディルクの体調を気づかう言葉が並べられている。母は、手紙の中身が読まれている可能性も考慮して、余計なことは書いてこない。

ラウラからの手紙には、八歳の女の子らしい、不揃いなかわいらしい文字が並んでいて、頬が緩む。


『兄さまへ

 お母さんと私とフィーネ姉さまは元気です。

 フィーネ姉さまの魔術の授業を見せてもらったの。雷の魔法がとってもすごいの。びっくりしちゃった。

 それから、フィーネ姉さまに、街に連れて行ってもらったの。珍しいものもたくさん教えてもらったよ。

 今、街ではお守りを作るのが流行ってるんだって。一緒にお守りを作ったからプレゼントするね。

 兄さま、フィーネ姉さまに連絡してないでしょ。姉さま気にしてたよ。姉さまにもちゃんと手紙書いてね』


「二つ?」


一緒に入っていたのは、房の付いた飾り紐だ。これがラウラが手紙に書いてきたお守りなのだろう。ディルクは、机の上に二つとも飾ることにした。

それにしても、最近、ラウラの手紙には、フィーネの情報が多すぎる気がする。

アルトナー公爵夫人がディルクを利用したいのなら、ラウラと母を利用してくるはずだ。

けれど、フィーネとラウラが個人的に仲良くなっておくことは、その抑制につながるだろう。

フィーネへの手紙は書いたことがなかったが、一度くらい書いてみてもいいかもしれない。


「なんて書くか。まあ、妹がお前のことを姉と慕っているから、これからも姉妹のつもりで仲良くしてほしい、とかそんなんでいいか」


不意に、胃の腑から何かがせりあがってきて、ディルクは、口を押えた。

くらりと体がふらつき、床に倒れこむ。


「うっ……。げえっ」


吐き戻すと、悪臭と共に、血の混じった吐しゃ物が、絨毯に広がる。


(っくしょうっ。やってくれる)


こういったことも予測の範囲内だ。

ディルクは、胸元のポケットから取り出した薬瓶を一息にあおろうとして、手を止める。

裏仕事で手に入れた、モンスターから取り出した希少な解毒薬だ。こういったことも想定して準備していた。


(駄目だ。俺はまだ、力がないフリをしなくてはならない)


ディルクは、薬瓶の中の薬を半分だけ飲むと、瓶を荷物の奥底に隠す。

煮えくり返るようなみぞおちを押さえて、そのまま床に横たわると、目を閉じた。



◇◇◇◇◇◇◇



「なんでっすって。また失敗した⁉ なんであんな子ども一人殺せないのよ!」


ファルケハイン公爵夫人クリームヒルトは、金切り声を上げて、テーブルの上のカップを報告に来た侍女に投げつけた。

侍女の悲鳴と共に、カップは床に落ち、派手に砕け散る。

ディルクに毒入りの菓子を食べさせたはずが、命に別状はないという知らせを受けたばかりだった。


「忌々しいわね。あの女の子どもは、一体、どれだけ生きのびれが気が済むのかしら。大した子ではないというのに!」

「やはり、あなたでしたね」


場にそぐわぬその涼やかな声に、クリームヒルトは顔を上げた。

一瞬顔色を変えるが、すぐに手元の扇で顔を覆った。


「何のことかしら? それより、義弟とはいえ、許しもなく公爵夫人の私室へ足を踏み入れるとは、随分な無礼ね」

「申し訳ございません。けれど、廊下まで響く悲鳴と食器の砕け散る音はただ事ではありません。危険と判断し、夫人の安全のため踏み込ませていただきました。当主不在の間、邸の警備を預かる身ですから、このぐらいの権限は兄から与えられております」


夫人の身に何事もなかったようで安心しました、と頭を下げるカールに、クリームヒルトは扇の奥で奥歯をきしませる。


「そこの侍女が転んでカップを落としただけよ。カール、あなたはもう下がっていいわ」

「いいえ、話がまだ終わっておりません。実は、この部屋へと伺った理由は、夫人の身の安全のためだけではありません。──捕らえろ」


途端に、カールの背後につき従っていた数名の騎士が、床にうずくまっていた侍女を取り押さえる。


「そこの侍女に、ファルケハイン家の次男、ディルクに対する毒殺容疑がかかっています」

「まあっ、何ですって?」

「奥様! 私はっ」

「お黙りなさい。私がさんざん目をかけてあげたのに」


侍女は、何か言いかけて口を開けるがすぐにその口を閉じて下を向く。


「わ、私は、ギルター様をお慕いしております。あの少年のせいで、ギルター様はダンジョン秘匿などという冤罪をかけられたのです! あの……あの赤犬さえいなければっ」


クリームヒルトは、扇の下の口元を緩める。


「まあ、なんてことなの。あなた、ギルターに騙されているのよ」

「連れていけ」

「わ、私が一人で行ったのです。ギルター様のために!」

「ギルターの家の侍女を雇ってあげていたのよ。あの家も今、大変でしょう。跡取りがとんでもないことをしでかしたのだから。それなのに恩をあだで返すなんて……」

「夫人」


ため息をつきながら、首を振るクリームヒルトに、カールはほほ笑みかける。


「夫人、実は、人は簡単に口を割るのですよ。拷問にも、いくつかやり方がありましてね。──例えば、半年前にも、オスカーの信奉者がディルクを刺す事件を起こしましたね。アルトナーとの婚約を破談にさせたと逆恨みをして」

「そ、そうね」

「私の言いたいこと、おわかりですよね?」

「え、ええ」

「彼は、とるにたらない小者ですよ。それよりもこのようなことが露見してオスカーの瑕疵になるご心配をなさい」


カールのほほ笑みの奥に、言いようのない何かを見つけ、クリームヒルトは声を上ずらせる。


「わ、わかったわ」

「おわかりいただけてよかったです。私もオスカーがかわいいんですよ」



◇◇◇◇◇◇◇



「さて。これでしばらくおとなしくしてくれると思うんだけど。いいプレゼントになったんじゃないかな」


しかめ面ばかりの赤銅色の髪の甥を思い、カールは、笑みを漏らす。


「どっちもかわいい甥っ子なんだけどね。さて、私はあの子たちとどう付き合っていこうか」






──そして二年。

十二歳になったディルクは、王都の王立学院へと入学する。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ