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ガンソード・マギア ~序列最下位、銃剣魔法使いの英雄譚~  作者: 瀬里@ピッコマ/Lineマンガ連載中


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16/20

16.実地訓練


初めて序列を受け、ガンソード・マギアを受け取った者に施される、半年間の魔法教育は終わりに近づいていた。

この半年間にディルクはガンソード・マギアについて様々なことを学んだ。


まず、全ての魔法の基盤となる元素魔法と強化魔法。

元素魔法は≪ファイア≫≪アクア≫≪ウィンド≫≪アース≫などだ。

単一元素の生成から複数元素の統合までいくつかの段階があるが、今回学んだのは基礎のみだ。

強化魔法は≪身体強化ブースト≫≪形態変化トランスフォーム≫などが一例で、これも基礎のみだ。

ディルクは、魔法教育開始前に、母からある程度を学んでいたので、これらはいい復習になった。


その次に刻印魔法。

これは、古代魔法武具アーティファクトであるガンソード・マギアに刻む魔術刻印のことだ。この刻印魔法は、ファルケハインの序列保持者にのみに継承される門外不出の魔法だ。

ガンソード・マギアは、元素魔法や強化魔法を魔術刻印として銃身に刻み、それを起動させて使用する。これにより、攻撃や防御に様々な特性を持たせることができる。

≪水の弾丸アクア≫≪貫通の弾丸ペネトレイト≫≪炎のファイア≫≪風壁シールド≫などがそれである。

さらに、ガンソード・マギアは、それぞれの銘に伴う固有の特性を持っている。その特性を負荷した魔法を固有刻印魔法という。これは、真にガンソード・マギアを理解した上級者のみが使うことができる。

カールの使用していた≪銀のウェイブ≫などがそれにあたる。

新たな固有刻印魔法を作り上げることも理論上は可能だが、それを成し遂げた者はここ数十年ではいないという。


この半年でディルクたちが学んだのはいずれも、基礎のみだ。

応用し、新たな固有刻印魔法を作り上げるためには、今後もさらに学び、技能を高めていかなければならない。


そして、半年の魔法教育が終わる今、ディルクたちは、最後の実地訓練を行うことになった。



◇◇◇◇◇◇◇



実地訓練は、騎士団のモンスター討伐に同行して行われる。本邸近郊の森のため、大型のモンスターはおらず、さほど危険はない。

狙うのは、犬に近い獣面をした、小柄で俊敏なモンスターのコボルドだ。

自分に≪身体強化≫をかけて追跡し、中距離から≪水の弾丸≫で弱らせ、≪形態変化≫させた剣で倒す。

連携の訓練も兼ねているため、ディルクたち四人は二人ずつのペアになって、森を走り回った。もちろんペアは、グンターとワルサー、ディルクとルペルトの組み合わせだ。


「なあ、余裕じゃね? 俺たち強くなったよな!」

「よそ見するな、ルペルト」

「なんだよー。いいじゃん。ディルクは相変わらず硬いなあ」


コボルトを倒し、振り返ったルペルトに、ディルクは<暁>の銃口を向ける。


「ひっ」

「≪水の弾丸≫」


ディルクは、ルペルトの背後で石斧を構えていたコボルトを弾丸ではじく。

ルペルトは、即座にガンソード・マギア<闇>を剣に≪形態変化≫させて振り下ろした。


「……っぶねえ」

「気を抜きすぎだ。次はないぞ」

「なあ、悪かったよ。怒るなよー、ディルク」


背を向けて歩き出すディルクの背を、ルペルトが慌てて追いかけた。


この実地訓練の具体的な目的は、三点だ。

銃剣魔法使い同士が共闘する際の連携方法に慣れること。

中距離と近距離攻撃を臨機応援に使い分け、スムーズに銃と剣を変化させること。

現場での消費魔力の配分を怠らず、戦闘可能状態を維持し続けること。

ディルクの<暁>は、剣の形態をとることができないため、この目的に完全に沿うことはできない。

常に銃のままでの中距離攻撃に徹し、剣で戦うルペルトの背後から援護を行っていた。


(背中を預けるのはいいが、気を抜きすぎだ)


ルペルトとは、この半年で、だいぶ……親しくなった。

軽口を叩く、今のような仲を親しいと言っていいのか、回帰前に友人のいなかったディルクには今一つわからなかったが。

ちなみに、グンターとワルサーの方は、ディルクが実力を見せて以来、おとなしくなってくれて助かっている。


「別に、怒ってない。そろそろ移動するぞ」

「うん」


弾むような声でそんな風に返してくるルペルトは、やはり子犬のようだった。




コボルドは数の多いモンスターとはいえ、同じエリアにそう何体もいるわけではない。

ディルクとルペルトは、コボルトを探して次のエリアへと移動した。

四体のコボルトを倒したことで、ルペルトだけでなく、ディルク自身も、油断していたのかもしれない。

モンスターの影を探しながら、そのエリアを走り抜けようとした時だった。


シュッ!


弾丸が、ディルクの前方をかすめた。


(ちっ!)


一瞬だが、射線の先に、ワルサーの姿が見えた。


「ルペルト! 下がれ」


一歩下がり、即座に木の陰に隠れる。


(あいつら、性懲りもなく!)


「おい、ワルサー! もう一度叩きのめされないとわからないのか⁉」

『ディルク、そこを離れよ』


アデリアの警告の声は一瞬遅かった。


「≪流砂のクイックサンド≫」


ディルクの足元の地面が陥没し、砂のように、さらさらと飲み込まれていく。


(固有刻印魔法か! ギルターめっ!)


ギルターの持つ、序列十一位のガンソード・マギア<いさご>の固有刻印魔法だ。


「≪身体強化≫」

「動くな。こいつのことを助けてほしかったらな」


振り返ると、両腕を背後にねじり上げられたルペルトと、その首にガンソード・マギア<砂>を突き付けたギルターの姿があった。


「おい、何を考えてる。こんなの冗談じゃすまないだろ」

「冗談で済ませる気なんてない。こっちも後がないんだ」


すぐに太ももから下が砂に埋まる。

砂の流れは、ディルクから三メートルほど離れた一点に向かい収束していく。

この魔法は見るのが初めてだ。この流砂の行きつく先、その下に何があるのか、わからない。


(どうすれば……ここで終わるのか⁉)


「ディルク!」


ルペルトがギルターに頭突きを食らわせて拘束を逃れようとした。

しかし、大人の騎士相手に、十歳の少年の力は十分とは言えなかった。拘束は解けず、ギルターを苛立たせただけだった。

ギルターは、ルペルトの頭突きで流れた鼻血をぬぐうと、苛立ちの混じった声で、ルペルトを見下ろす。


「ああ、めんどくせえなあ、お前も一緒に……死ね」


グンターはルペルトの背中を蹴りつけた。


「うわああっ」


グンターとルペルト、二人の姿は流砂の中へ飲み込まれていった。



◇◇◇◇◇◇◇



『そろそろ起きろ、ディルク』


アデリアの声で、ディルクは目を開けた。

かろうじて周りが識別できる明るさは、天井からのわずかな光によるものだ。

光が漏れている天井の穴の端からは、砂が零れ落ちている。

ギルターの≪流砂の声≫で、ディルクは、多量の砂と共にここに落下してきたのだろう。

おそらく、森の地下であるそこは、奥行きが十メートルほどの空間だった。一部、先が見通せない闇が広がる場所は、どこかにつながっているとみていいだろう。

口の中に入った砂を吐き出すと、体を起こして、周囲を見回した。

すぐそばに一緒に落下した<暁>があった。ほっとして腰のホルスターにしまいこむ。


「ううっ」


うめき声に振り向くと、少し離れた場所にルペルトが倒れていた。


「おい、大丈夫か」


大きなけががなさそうなのを見て取り、慎重に体をゆすると、ルペルトは目を開けた。


「痛む場所はないか」

「ディルク? ああ、≪身体強化≫が間に合ったから大丈夫」


ディルクと同じく強化魔法のおかげでけがなどはないらしい。

ほっと息をついたが、同時に腹が立ってくる。


「なんで、余計なことをした。黙っていればお前は見逃してもらえたかもしれないのに」

「何だよ、その言い方!」

「キエエエエエーーッ!」


その時、背後の暗がりから、モンスターが飛び出した。


「ひっ」

「≪貫通の弾丸ペネトレイト≫」


ディルクの放った弾丸が、ゴブリンの額を貫通した。

安堵する間もなく、ゴブリンの飛び出してきた暗がりの奥から、複数の足音が迫ってくる。


「こっちだ、来い」


ディルクとルペルトは、音のする方向と逆の暗がりへと飛び込んだ。




暗闇の中では、指先に灯した≪ファイア≫だけが頼りだ。


「なあ、ここって、ダンジョンってことか? 本邸近くの森の中にダンジョンがあるなんて聞いたことないよな」

「ああ」


(新しくできたのを隠していたのか、何かまずいことをやってるから隠してたのか。どっちにしろ、俺たちが知っちまったのは、向こうにとってはありがたくないだろうな)


『そこは、左に行った方がよいのう。右は、オークどもが徘徊しておる』

「ルペルト、左だ」


姿を隠したアデリアの声に従い進む方向を決める。

アデリアは、邪妖精だけあって、気配に敏感だ。アデリアのおかげで、二人は危険を回避しながら進むことができた。


外へ出るには、風の吹いてくる方向に向かえばいい。

ディルクとルペルトは、モンスターを回避しつつ、風の吹いてくる方向を目指した。

ディルクは、回帰前にダンジョン探索の経験もある。

このダンジョンにはあまり強いモンスターもいないらしいし、明るさを確保しながら適度に休憩をとることで、子ども二人という状態ながら落ち着いて進むことができた。


(それより、出口ではギルターの騎士団のメンバーがきっと張っているはずだ。手練れの騎士たちをどう倒して脱出するか……)


不意に、順番で先頭に立っていたルペルトが立ち止まる。ディルクは、その背中に思い切り鼻をぶつけてしまった。

癪なことに、ルペルトの方が背が高い。


「おい、何だよ」

「……」


固まったルペルトの視線の先、開けたその場所の光景に、ディルクも息を飲んだ。


広い空間の中にいたのは、ゴブリン、グールが数十体。

そして、辺境ですらなかなか見ることのできない上位種のモンスター──マンティコア。

ライオンの体に人間の顔、毒の尻尾を持つそのモンスターは、広場の中央に坐して眠っていた。


「……魔物のモンスタープールだ」


ルペルトの口から漏れたその言葉は、絶望と同じ響きを持っていた。

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