第31話 対局
そして、三日後、まずは前哨戦が始まる。
この対局の相手は佐山ではない。若手だ。とは言っても竜輝よりは年下だが、彼は大学一年の年にプロに入り、そのままプロ入り後の勝率は六割五分を超えている。実績はまだそこまでもないが、強敵だ。
鹿島五段。
彼は集中を高めているようで、盤面をじっくりと見る。
竜輝はそんな彼を軽く見やり、そして同じく正座をし、対局開始を待った。
そして対局が開始された。
順位戦。つまり、A級からC級まで五つのランクがある。BとCには一組と二組のにランクがあるのだ。
竜輝は今B級二組に位置している。その三回戦でぶつかったのだ。
振り駒の結果竜輝の先手が確定した。
勿論今警戒するべき相手は佐山だ。だけど、この将棋も落とすわけにはいかない。
勿論の事落としていい将棋などないのだ。
対局回数はまだ三回で、竜輝の二勝だ。
多少得意だが、母数が少ないため何とも言えないのが実状だ。
竜輝は初手を静かに指す。角道を開けた。
そこから相雁木の将棋に入っていく。
相雁木は互いに厚みを生かして戦う囲いだ。
先に仕掛けたのは鹿島五段だ。
彼は果敢に四筋の歩を突き捨てて、そこから仕掛けを開始した。
そのタイミングで竜輝は時間を使い、思考を入れていく。
上から制圧されないように、耐え続けなければならない。だが、雁木とは元々攻めか受けかと言えば受けの戦法。
竜輝は念を入れ思考する。豊富にある持ち時間をぜいたくに使いながら、雁木の厚みを生かし、加山五段の攻めを受け流していく。
攻め潰されないように、受け流していく。
鹿島五段の額に汗が流れる。
攻めが上手く行っていないと感じているのだろう。
今日勝って、勝ち癖をつけたい。そして、そのまま明後日の対局にも勝ちたい。
竜輝は精魂込めて、思考を入れていく。
そして終盤に入った。
竜輝が銀桂を手にし、加山が角を手にした。コマ割りとしては、竜輝が多少優勢だ。
だが、二枚の角が上手く働いており、多少苦しい。
結局上手くさばかれてしまった格好だ。
だけど、竜輝は終盤も得意だ。手にした桂馬を打ち付ける。
控えの桂馬だ。後ろから加山玉ににらみを入れ、
歩を使って鹿島の玉にくさびを入れていく。
桂馬と歩兵はコンビネーションが抜群だ。
そして、桂馬と歩兵は雁木崩しによく働く駒なのだ。
細かい攻めをつなげていく。
竜輝は必死に思考を入れ、どんどんと攻めていく。
攻めが切れたら終わり。それを自覚しているからこそ、残り少ない持ち時間を使いながら指していくのだ。
そして、
――終局の時が近づいていく。
「負けました」
鹿島が投了した。
竜輝の勝利だ。内容はそこまで褒められたものではない。勝てたとはいえ、もっとうまい差し回しの方法があった。AIに読み込ませれば、恐らく竜輝の手には疑問手つまり、微妙な手がそこそこあっただろう。
勿論勝てばよかろうなのだが。
そして感想戦でも案の定ツッコまれる。事実なので反論できない。
そして、最終的に、気持ちがいい状態で帰宅する事が出来た。
もう夜も遅かったが、一応鉄が熱いうちに叩きたい。
という事で、家で感想戦をしようと思った。
そして家に入ると、
「おかえりなさい貴方」
凛がいた。しかも、
「お風呂にする? ご飯にする? それとも、わたし?」
なんて冗談を吐いてくる。
「それ……なんですか?」
「ん、疲れてるかなと思って」
「そんな冗談いらないよ」
そう言って竜輝はパソコンの前に座り、本日の棋譜を入力する。
「それって」
「今日のだよ」
「寝なくていいの?」
「鉄は熱いうちに打ちたいんだ」
「そう」
そして凛はパソコンを見る。
「今日の兄さんの将棋か」
「うん」
「私、テレビで見てた」
「それで?」
「兄さんらしい将棋だった」
僕らしい将棋だったって?
竜輝は驚いた。
あんな疑問種まみれの将棋が竜輝らしいとは正直思わない。というかそれは馬鹿にしている表現なのかなと、思ってしまう。
それは竜輝の心が狭いからなのだろうか。
「なんで?」
「兄さんはやっぱり、ああいう将棋、力戦がいいよ」
力戦。激しい勝負、定石から外れた汚い将棋という事だ。
「でも、僕は大分疑問手を刺しましたよ」
「でも、兄さんの対局相手も疑問手を沢山打った。でしょ」
その言葉に、竜輝は「う、うん」と返す。
確かに、疑問に残るような言っては鹿島五段も指していた。
「だから、問題ないんじゃない? 兄さんは間違ってないよ」
「そうかな……」
「それに、AIだけが正解じゃない」
そう、凛は竜輝にはっきりと告げる。
「AIは兄さんの手の意味を理解できない。兄さんが指した手が良くても、AIは意味わからない反論で兄さんの手を否定する。だからきらい」
「いや、僕も僕自身で疑問手だと思ってたから」
AIにへんな難癖は突けないで欲しい。
すると、凛は頬を膨らませる。
「大丈夫。兄さんは兄さんの指したいように指せばいいから」
その言葉に、竜輝は静かに頷いた。
「とりあえずAIを使わずに私と感想戦やろ」
「いえ、AIを使います」
凛は生粋のAIが嫌いな人間だ。勿論AIを全く使わない、なんてことは無い。だけど、触り程度しか使わない。それよりも人の感覚を信じている人間だ。
「わたしとAIどっちが大事?」
そう、凛が詰めかける。
「凛だけど、今はAI」
竜輝がそう言うと、凛はがっかりを見せる。
そのまま竜輝は局面を解析してもらう。
やはりい、案の定評価値が乱上下向している。
それを見ると、少しだけショックだ。
そして、軽く研鑽した後、パソコンを閉じ、「お風呂を頼むよ」と、凛に言った。
凛は「はーい」と言って、お風呂を沸かしに出た。




