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竜王の学園生活  作者: 有原優


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第29話 対策

 そして竜輝は家に帰って、凛に告げる。


「佐山さんに勝つ方法を教えて欲しいと言った。


 佐山。そう佐山だ。

 竜輝は佐山に対して苦手意識がある。

 だけど、凛はあくまで練習ではあるけれども、佐山に何度も勝ったことがある。

 勿論有利とはいえず勝率四割五分が関の山であるけれど。


「兄さんは佐山さんに……」


 凛は頷く。


「分からない」


 凛は静かにそう言った。

 確かにそう言われるのも分かる。分かるけれど、竜輝は何となく諦めたく無かった。


「佐山さんのくせとかあったりしない?」

「わ、分からない」

「分からないか」


 確かに弱点を言語化できればそんな楽な話はない。

 しかし、竜輝が勝率七割を誇っている棋士。

 上村八段に勝てる要因は何かと訊かれても、たぶんそこまで大した答えは返せないだろう。


「ごめん、変なことを言って」


 竜輝はそう言って謝る。


「別にいい。兄さんが苦しんでいるのは分かるから」


 そう言って凛は将棋盤を並べる。


「将棋指そ。居飛車やるから」


 そう言って凛は将棋盤の前に座る。


 凛は振り飛車がメインで指すが、居飛車もさせる。

 というよりも振り飛車でもそう言う戦法を刺さなければならないこともある。

 例えば相手が強引に各交換を仕掛けたりする場合だ。

 その場合、振り飛車であれど居飛車に持って行かなくてはならなくなる。


 だからこそ、角換わりの定石はある程度マスターしているのだ。


 佐山の得意戦法もまた角換わりだ。

 角換わりから理想形を作る。

 思えばこの前の達樹との対局にヒントがあったかもしれない。



 いつも、理想形を崩されてしまっている。

 手待ち合戦で負ける。そして、作り上げられた陣形の差が負けの原因を呼んでいる。

 ならば、手待ちを上手くできれば。


 竜輝は凛と幾度も角換わりを刺す。だけど、今回はあえて理想ではない形で仕掛けた。

 というのもだ。

 理想系じゃない形から責めていく。それを練習しておきたいのだ。


 竜輝は静かに駒をぶつけ合う。凛もそれに応じる。


「兄さんいいの? 兄さんらしくない」

「大丈夫」


 そう、竜輝は頷く。全て計算の内だ。

 竜輝は必死で駒を伸ばい、そして攻めをつなげていく。

 しかし、一瞬竜輝の攻めが切れるタイミング。つまり、凛の攻めるタイミングが出来た。

 その隙に、竜輝の陣形に食い込むように角を打たれた。


 相手はプロ相手でも何勝もしている屈指の難敵。

 凛。



 本気でやっていてもたまに負けることもあるのだ。

 そんな中、不利な局面からだ。


 しかし、これはあえて竜輝が仕掛けた勝負だ。まだまだここからまくれる可能性を探る。

 段々と竜輝の思考時間が長くなっていく。対局時計など、思考時間を制限するものなどは置かれていない。

 そう、まさしく竜輝が指すか刺さないかの勝負だ。


 そして竜輝は15分間の熟考の後、手を刺した。

 飛車を見捨てる一手だ。


 これにより局面はどんどんと、混戦を極めていく。

 実の所、竜輝の飛車はほとんど働いてはいなかった。自身の守りには効いてはいるが、攻めに関しては全くと言ってもいいほどだ。ならば、飛車を見捨ててでも、敵陣に襲撃した方がいいという結論だ。

 勿論これは感覚ではなく、竜輝の脳内将棋盤に基づく結果になっている。

 竜輝は必死に手を模索しながら指して言っている。


 凛もその責めを冷静に受け止めていく。


 竜輝人に凛が飛車を打ち込んだ。

 勿論その手も竜輝には見えていた。だからこそ、玉を上部に動かした。


 守りは捨て、上部に逃げる。

 幸い凛の飛車はあまり働かない旧筋にいる。

 だからこそ、成立するだろうと呼んだのだ。


「兄さん甘いよ」


 そう言って凛も上部を抑えようと、玉の逃げ場所をどんどんと狭めようとして行く。

 そしてそんな命の奪い合いの結果。


「負けました」


 竜輝が投了した。


 ギリギリ抑え込まれてしまったのだ。


「兄さん。分かってる」


 終局後、凛が鋭い目つきで竜輝を見て来る。その目に竜輝は軽く、震えを感じた。


「新しい事を試すのはいいけど、あの飛車を捨てるのはだめだと思う。自玉が完全じゃないからこそ、飛車を渡すべきじゃなかった」

「っかっこいいと思って」

「兄さん。かっこいいと、蛮勇は違うんだから」

「っはい」


 竜輝は反省した。


 結局のところいつもらしく将棋を指していく方がいいという結論に至った。

 竜輝は必死で駒を動かしていき、そして凛の角換わりに対抗していく。


 その数十局の将棋を指した後、もう日は落ちていた。もう夜中の2字だ。


「ごめん、こんな時間まで付き合わせて」

「わたしは別にいい。それよりもお腹空いた」


 凛がお腹をさする。そう言えば夜ご飯もまだだった。


「何か食べよう」


 竜輝がそう言うと、凛は静かにうなずいた。


 二人で冷凍庫のソーセージを焼いて、キャベツを敢えて食べる。

 質素な料理だが、それと白米を食べれば十分においしい。


「兄さん」


 たべている時、凛が竜輝の方を見る。


「なに?」


 竜輝がそう、問うと、


「あーん」


 そう言って竜輝の口にソーセージを突っ込もうとする凛の姿が見えた。


「え、ええ?」


 竜輝は分かりやすく動揺するが、凛は止まらない。仕方がないので竜輝はそれを甘んじて受け入れた。


 パクっと竜輝はそれを口にくわえる。その味は絶品だった。

 そして二人はそのまま布団に行き、倒れるように眠った。

 だが、眠たかったからか、二人して同じ布団にもぐっていた事には気づけなかった。


 そして――しばらくの睡眠ののち、翌朝目が覚めた。

 その時に、竜輝は隣を見る。

 そこには熟睡している凛の姿があった。


 竜輝はそれを見て軽く笑みを浮かべた。


 本来もっと驚くべきことなのは分かっているが、そんな気分には不思議と慣れなかった。


 竜輝は凛の寝顔を軽く見た後、スマホを触る。

 驚いたのはそこに書いてあった時間がもう11時だった。

 大寝坊だ。まさか高校生にもなってこんなことになるなんて。

 思えば昨日目覚ましを付ける事を忘れてしまっていた。

 そりゃ、目覚ましもならないだろう。


 竜輝はため息をつく。

 メールを見ると、『竜輝君如何したの?』『風邪? それとも対局? なんか無断欠席って言ってたけど』『連絡しよっか?』『返事お願い』沢山のメールが来ていた。

 リサに心配させたことを申し訳なく思いつつ、『ただの寝坊です』と返しておいた。


「凛」

 竜輝は声をかける。ぎりぎりまで寝かせておいてあげたいところだったが、そうもいかなくなった。


「凛、起きて」


 竜輝はもう一度言う。このまま寝ていてはいけないことはもう、明らかだ。


「凛、起きて」


 もう一度揺らす。時間がないというのに、彼女は全く起きてくれない。そんな凛を起こさなくては学校には行けない。

 思考に励みながら静かにもう一言、「おはよう」と告げた。そして体をゆすると、ようやく、


「兄さんおはよう」


 凛が目が覚めてくれた。それに竜輝は深く安堵をした。


「凛、もう11時だから早く支度して」

「もう」そう言って凛はスマホを開く。そこには確かに11時と書いてある。

 それに対し、凛は軽くショックを受ける。


「兄さん、行こう」

「だからそう言ったんだ」


 そして二人は慌てて家から出て行った。



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