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竜王の学園生活  作者: 有原優


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第26話 将棋部訪問

 竜輝は、将棋部の門の前にいる。

 凛と一緒に。

 今日が将棋部に行くチャンスだ。

 ちなみに竜輝の学校は中高一貫校なのでそれぞれに部活はあるが。それぞれ学校に垣根を越えてやってくる。

 そのため、一応中等部と高等部で部活は離れているが、実質一緒になっている。


「緊張するね」


 そう言うのはリサだ。


「リサさんも入るの初めてなんですか」

「ええ、だから私も楽しみ」


 そう、はっきりと告げると、


「いつまで、ここにいるんですか」


 そう、粧裕が言った。


「早く入ってください」


 呆れながら言う粧裕に対し「分かったわよ」と、リサが言う。

 そして入っていく田島兄弟の後を竜輝たちは着いていく。


 中に入るとそこではもう既に将棋が刺されていた。

 既に終盤近くのいい局面だ。


 恐らくは角換わりの定石系からそのまま乱戦に入った形だろう。

 既に複雑な曲面になっており、かなり難しい局面だ。


 竜輝が軽くその局面を覗き見ると、その部員は緊張の色を見せる。

 無理もない。現役竜王に局面を覗き見られ、平気でいられる人間など数少ない。

 普通は軽く委縮してしまう物なのだ。


「立花さん」粧裕が止めに入る。「あまりじろじろ見ないでください」


 そう言われ、竜輝は無言で局面から目を離すと、部員たちも安堵の息を漏らす。


 その後は後方からちらりと番面を見る。


「田島さんじゃなくて、粧裕さん」

「何でしょう」

「この将棋部って、強いんですか?」


 訊いた。

 竜輝が見るにそこそこの実力はありそうなものなのだが。


「まっまあってところです。強い人は地区大会でならいいところ行きますよ」

「例えばそれは……学生名人戦とか?」

「はい」粧裕が頷く。


「わたしはこの前一度全国大会に出ましたけど、初戦で宮里さんに負けて」

「宮里……」


 今の学生名人だ。

 それなりの実力を有している。


 竜輝自身も一度かかわりがある人だ。

 この前奨励会に入ったらしい。


「知り合いなんですか?」

「昔指したことがあるんですよ」


 指したことがあるとは言っても、その将棋自体は竜輝の圧勝ではあったが。


「なるほど」


 そう言って粧裕は頷いた。


「その将棋も見たいですね」

「棋譜は確か残っているはず」


 それは小学生の時の棋戦だったから。


「でも、僕が無双しすぎて、周りからは反感を買いましたけれど」


 あの時は嫌な思い出だ。全部の対局で圧勝した竜輝。大会の中に一人化け物が混じっていたようなものだ。


 小学生なんて言うのはまだまだ子供。それが自分の取り柄だと思っていた将棋で負けたらどうなるか。

 そんなもの明らかだ。


 他責思考になる。

 こいつがいなかったら。だなんて、思うようになる。


 その圧。その嫌み。それらが全て竜輝に飛んできたのだ。

 その日はとにかくしんどかったことを竜輝は覚えている。

 もう、あんな経験など二度としたくないものだ。




「とにかく、彼は強かったんですね」

「はい」

「大丈夫ですよ。粧裕さんは強いですから」


 そう竜輝が言うと、それを妨げる声が一つ。


「竜輝君、粧裕には下の名前で呼んでくれるんだ」



 その言葉に、竜輝はしまったとばかりに「え」と漏らす。


「だってそうじゃん」

「もう、リサさんって呼んでるから許してください」


 この前親友になったことで、下の名前で呼ぶようになったはずだ。


「ええ、でもさ。竜輝君」

「っはい」

「わたしは下の名前で呼んでもらうのに苦労したのに、粧裕は一瞬っておかしくない?」

「でも、田島さんだったらリサさんになるし」

「でもー」

「二人ともやめてよ」




 そして将棋の観戦が終わり、部会の方に入っていく。


「という訳で、今日見学に来た、立花竜王さんと、今現在進行形で女性初のプロになる可能性のある凛さんです」


 そう、粧裕が紹介すると、場が沸き立つ。

 この場にいる人物はみんな将棋オタクだ。

 そしてそんな中、超有名人である二人が紹介されたのだ。

 沸き立たない理由なんてないだろう。


「じゃあ、立花竜王。一言どうぞ」

「え?」


 突如マイクを手渡された竜輝。非常に困った反応を見せる。

 こうなることは全くもって予想できていなかった。自分がマイクを手渡されるなんて。

 とりあえず頭で話す内容を整理する。

 昨日と同じ要領で話せばいいのだ。

 そう考えれば非常に楽だ。


 とりあえず、とりあえず一言だ。


「ここで皆さんが将棋を指しているのを見て、レベルが高いと思いました」


 その言葉に早速会場がわく。


 紛れもない本心だ。


 その気持ちに何の嘘もない。


「今日僕たちが来たのは、ある勧誘をするためです。僕たちは今劇を文化祭でしたいと思ってるんですけれど、そのメンバーが中々集まりません。そこで劇をしてもいいよという人がいたら手を上げてくれると助かります」


 そう竜輝が言うと、場がざわざわしてきた。

 それに緊張を感じ、竜輝は軽く唾を飲み込む。


「勿論急じゃないので、ゆっくりで大丈夫です」


 そう竜輝が言うと、静かに息を吐いた。


 緊張の時間が終わった。


 そして続いて凛にマイクが渡される。


「渡辺凛です。にい――立花さんと同文です」


 そう言ったあと、マイクを置いた。


 そしてそこから、せっかく来たのだからと、将棋を教える事となった。

 それに対し、将棋部員はみな大喜びだ。



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