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竜王の学園生活  作者: 有原優


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23/32

第23話 距離


「おはよう」


 翌日、マンションの一階に来ると、そこにリサがいた。

 粧裕と凛も後ろから続き、二人とも笑顔で手を振る。


 そして竜輝とリサが前、粧裕と凛が後ろを歩いていく。



「竜輝君」


 その途中でリサが話しかけて来る。


「何でしょう」


 竜輝が答える。


「昨日の遥のメールどういう事だろうね」

「分かりませんよ」


 それは竜輝が聞きたいところだ。


「もし変なことになったらどうしようなんて、今も思ってるんですよね」

「どういう事?」

「えっと、遥さんの好きの種類によって変わってくるから」

「流石に将棋棋士としてのでしょ。というか、それ以外だったら困るもん」

「えっと、困るとは?」


 期待していいんだよね、そう竜輝はワクワクする。


「もしさ、異性としての好きだったらわたし、竜輝君と一緒に遊べなくなるし」

「遊べるんじゃないですか」

「女子の世界はややこしいのよ」

「そうなんですか?」

「もしも、遥が竜輝君の事が好きだったら、泥棒猫だって言われるかもだし」

「なるほど……」


 泥棒猫か。もしそうだとしたら、そう言う話になるわけか。


「その時はもう、僕に勉強を教えてくれないんですか」


 竜輝は少し悲しそうな顔を見せる。その顔に分かりやすくリサがたじろいで、


「一緒に遊びたいから言ってるの」

「そうですか……うれしいです」


 自分のためを思ってくれている。

 そのことに竜輝は胸を打たれた。

 そして、


 「ありがとうございます。そう思ってくれてると知っただけでうれしいです」


 そう、もう一度言った。


 そ学校につく。


 竜輝は学校について早速遥の姿を目に捕らえる。

 そして遥の近くに赴くと、遥は元気に手を振る。

 朝、リサには例の事は聞くことはかなわなかった。


 こういうのは遥に訊かないと。


「昨日のアレハ、どういうことですか?」

「どういう事って?」

「田島さんに訊いたんですよ。僕の事が好きって送ったって」


 その言葉に、遥は軽くした唇を噛む。

 という事は、

 いや、将棋棋士としてとかであって欲しい。

 何にしろ、遥が竜輝に対して恋愛感情をもし抱いているとすれば、非常に厄介なことになってくる。


「大丈夫。今は竜輝君に変なことをするつもりはないから」

「それは?」


 意味が分からない。


「そう言えば私たち連絡先交換してないよね」

「まあ、確かに」

「今、交換しちゃいましょ」

「え?」


 ただ、竜輝の抵抗はむなしく、連絡先が追加される。

 ふとした形で、竜輝の所にリサとは別の人物の連絡先が追加された。


「それで、どういう意味」

「ラインで教えてあげる」


 その言葉に、竜輝は静かにうなずいた。


 授業が始まっていく。その中で、竜輝はリサの姿をただ見続けた。

 それも竜輝の無意識なうちに。というのも、竜輝はドキドキとしていたのだ。

 遥とラインを交換したことに対して。

 だからこそ、本命の顔を見ることで裏切り行為じゃないことを示そうというのだ。



「竜輝くーん」


 リサが元気よく竜輝の机にやってくる。


「ずっと私の事を見てなかった?」

「え?」


 竜輝にはそんな自覚はほとんどなかった。


「とぼけても無駄よ」

「田島さんが言うなら、そうなのかもしれませんね」


 あくまでもそんな見てたという実感は無かったが。


「何か困り事でも」

「あるに決まってますよ」


 凛の転校。そして転居。それだけでも結構精神は削られていく。そこに遥の謎行動だ。逆に心が落ち着いている方がおかしい。


 もう佐山との対局は近づいて行っているのに。

 それまでに精神を落ち着かせたいのに。


 これでは、佐山対策に勤しむことが出来そうにない。


「私がもう一度聞いて来て上げよっか」

「いいですよ、別に」


 竜輝は半分すねたような顔で言う。

 その顔を見て、リサは軽くため息をついた。


「私がしたいんだよ。だって、本当に好きとか恋愛感情があったらさ、変なことになるじゃん」

「変な事とは?」

「さっき言ったじゃん」

「あー」


 確かにさっきそんな事を言っていた。

 確かにそんな事になったら正直あまり良くはない。


「どうしましょうか」

「だから言ってんじゃん」

「でも、遥さんは、ラインで連絡するって……」


 まだ連絡が来てないのに、訊いてしまうのは失礼なんじゃないか。そんな考えが脳裏によぎる。


「大丈夫。そこまで気にしていないって」


 そう言ってリサは遥の元へと向かった。

 そして――


「春か、ちょっといい?」


 そう、訊いた。


「なに?」


 遥がそう返事を返すと、


「竜輝君の事が好きみたいなこと言ってたけど」


 リサが、笑顔を顔に貼りつけながら言った。


「馬鹿、ちょっと場所明けようよ」


 遥がそう言ってリサを別の場所へと連行する。


 竜輝はその姿を見ている事しかできなかった。

 スマホをいじる。しかしラインは来ていない。


 あれは嘘だったのだろうか。


 ★


「それで、竜輝君の事が好きってどういう意味で?」

「それ言わなきゃダメ?」


 遥がとぼけた表情を見せ、言った。


「うん。駄目」

「リサ、厳しいなあ」


 そう言って笑った遥はその後、


「リサにはあまり言いたくない」

 と言った。その言葉に、リサは目を見開く。


「それって本心でってこと?」


 リサがそう訊くと――


 ★



 リサと遥がやってきた。時間にしてほんの5分程度だ。

 二人の顔を竜輝は追いかける。


 そして、竜輝の席にリサが来た。



「意味。訊いてきたよ」


 その言葉に、竜輝は唾をのむ。


「竜輝君の事が好きなんだって」


 その言葉に、また頷く。

 そして、


「だからね、決めたの」


 リサは静かに呟く。


「竜輝君と遊ぶ機会を減らそうって」

「え?」


 竜輝はおもわずそう、零す。


 機会を減らそうとはいったいどういう意味だろうか。

 いや、考えなくてもわかる事だ。


「いや、そんな事」


 大丈夫、と言おうとした。だけど、その前に、


「ごめんね」というリサの顔を前に何も言えなくなってしまった。



 リサはなぜ自分から距離を取ろうとしているのか。

 その理由は、すぐに分かる。

 

 リサが、遥のために竜輝と距離を取ろうとしているのだろう。

 先ほどどういった内容の会話があったかは分からない。

 だけど、竜輝にとってあまりよろしくない内容だろう。


 そして、もしそれが遥の背中を押すためという物だったとしたら。

 遥と付き合ってもらうためだとしたら。竜輝に恋人を作ろうとリサが望んでいるとしたら。


 そんなのは嫌だ。リサと付き合いたいという気持ちは何も変わってないのだ。


 竜輝はそんなものを望んでいない。




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