第22話 御影遥
そして学校に着くと、席に座る。
そして軽く息を吐いた。
「どーしたの?」
遥がいた。
「ええ、っと」
何と答えたらいいか竜輝が迷っていると、「笑えばいいと思う」と、変な返事が返ってきた。
某有名アニメのセリフだ。竜輝は見たことはないが、セリフだけは知っている。
「それで、何の用ですか?」
「用? そうね少しだけ気になったことがあって」
「何ですか?」
「単刀直入に言うね」
「はい……」
「将棋私に教えて」
その言葉に隆起は「は?」と漏らした。将棋?
「ど、どういうことですか?」
竜輝がそう、驚くと、彼女は「だってさ、将棋私もやりたいんだもん」と答える。
「えっと、将棋はどれくらい知ってるんですか?_」
その竜輝の問に、「ほぼ初心者」と、彼女は笑って答えた。
なるほどと竜輝は頷き。
そして困った。
自分はこれにどう返事を返したらいいのだろうか。
「馬鹿にしないでよ。竜王サマから見たら全員が初心者でしょ。それに、リサちゃんよりは将棋が出来るんだから」
「そうですか」
僕はどう返事を返せばいいのだろう。
そして、思考に及んだ後、
「後で一局指しましょう」
と、竜輝は言った。
そして放課後。早速将棋を指していく。
竜輝の六枚落ちだ。
六枚落ちというのは飛車角の大ゴマ二枚と桂馬と香車の子ゴマを落とす手相だ。所謂ハンデ戦でもある。
六枚落ちの難しいのは、駒が少ない事だ。陣形を整えるために本来は歩兵を除いて10枚の駒で整えていく。そのから6枚減る。つまり四枚で陣形を整えなくてはならない。
戦争で例えれば簡単だろう。一部の責められている場所を重点的に補強しようと思えば他の別の所にほころびが生まれる。
更に本来端を守るべき駒が大量に奪われているため、端攻めをされればどんな棋士でも食い止めるのには至難の業だ。
だから、端を見捨て、相手の攻めを交わす必要がある。
粧裕は確実に強かった。この人はどうなのか。
早速、遥が初手端歩を突いた。
これは、端を狙うという事だとすぐに理解した。竜輝は金銀の守備ごまを駆動し、端を受ける。
対局が過熱していく。
竜輝の玉が段々と、危険な場所に誘い込まれる。
しかし、ここからが勝負だ。陣を破られても玉を逃がすことが出来れば、負けはしない。玉さえ無事なら、将棋という名の戦争には負けはしない。
しかし、遥は冷静に、竜輝の玉を挟むように駒を配置していく。
だけど、竜輝はそのわずかな隙をこじ開けるように上部に希望を見出していく。
そして――
「負けました」
最終的に遥が投了して試合が終わった。
結論から言うと、遥は強かった。
竜輝の陣形を突破することに成功はした。竜輝の玉を危険な場所におびき寄せ、包むように寄せる事も出来た。
しかしそこから竜輝の躱していく行く受けが上手く、最終的に竜輝の玉が入玉する形となった。
たぶん、竜輝じゃなかったなら、アマ強豪レベルであれば、遥に玉が詰めさせられていただろう。
遥は強い。竜輝の勝ちとは言え、苦戦させたのは事実なのだから。
「感想戦、した方がいいですか?」
「ぜひ」
目を輝かせながら遥が言う。
その言葉に、竜輝は頷いた。
いよいよ感想戦が開始される。
そこで竜輝の言葉が話される。
まさか、粧裕の他に将棋を熱心にこいてくる人がいるとは。
竜輝は当然緊張している。リサではないとはいえ相手はクラスメイトの女子。所謂女子体勢がそこまで高くない竜輝にとって、それはドキドキする出来事だ。
粧裕は、竜輝よりも年下で、好きな人の妹だ。だから大丈夫だった。
だけど、この遥もかなりの美人だ。
髪の毛はリサほどは長くない。しかし、その茶色かがった髪色、そして、元気いっぱいなその姿。普通に見て人気があるだろう。
こんな言い方をしてしまったら、少し上から目線になって失礼かもしれないが。
「この手、玉を無駄に追っている気がします。ここで王手をかけまくっても僕の玉は左に広いので逃げ延びれてしまいます。なのでその手よりも、左右挟撃を狙うここに金を打った方がよかったでしょう。あと、無理に攻めて駒を渡すのもあまり良くはありません。こちらは駒が少ないので不利です。なので、じわじわと追い詰めればそちらの優位は揺るぎません」
「へーなるほどねー」
「でも、無駄な王手もそこまでありませんでした。目立つのはここの王手だけで、その後は左右挟撃。そして、玉を上部から押し戻そうとする手。全体的に指し手が上手かったです」
「ありがとう、照れるね」
ドキッとしてしまう。
だめだ、リサ一筋なのに、これじゃあ女子だから、リサに惚れたみたいになってしまう。
竜輝は心の中で自省をし、教えを続けていく。
「竜輝君」
そこにリサが来た。
竜輝はその当所の来訪に明らかにびっくりとする。
浮気なんて言う言葉を使ったら竜輝とリサが付き合っていることになる。それは烏滸がましい事だ。しかし、今リサを放置して別の人と遊んでいる。
まるで週刊誌にとられたような気分だ。
勿論週刊誌に狙われたこと自体がないのだが。
「なにしてるの。春かも」
「将棋指してるの!!」
遥が元気よく言う。
「遥って将棋できたの?」
「今教えてもらってるところ。ね、竜輝君っ!!」
「は、はい」
竜輝はたどたどしく答える。そんな竜輝の事をジーと見るリサ。
「ごめんなさい」
竜輝は謝った。
「田島さん以外の人と遊んでいて」
リサに嫌な気持ちをさせてしまったかもしれない。
そんな事を考えると不安な気持ちになる、
「大丈夫だよ、竜輝君がはるかと何を遊んでいても」
その言葉に軽く落胆した。
リサにとっては竜輝はそんな程度の友達なのかと。
嫉妬して欲しかった。そんな気持ちがしっかりとある。
だめだ。こんな気持ちじゃだめだ。
そう思いパット笑顔を作った。
「田島さんは御影さんが将棋をさせる事を知らなかったんですか?」
「うん。実はそうなの。教えてくれたらよかったのに」
「リサは指せないでしょ」
ため息をつく。
「この前粧裕に教えてもらったんだから。私も軽く指せるんだから」
「え、本当?」
「本当!!」
リサはぷりぷりとする。
「指そうよ」
そして、リサと遥の対局が開始された。
結果だけ見ると、リサのぼろ負けだ。
当たり前だこの前将棋のルールを覚えたばかりのリサと、竜輝に六枚落ちで負けたとはいえ竜輝の陣形を破るほどの実力がある遥。春かが負ける理由がない。
「だったら粧裕だけじゃなくて、私も竜輝君に教えてもらうから」
「え?」
「私も教えてもらうから」
「え、え?」
そっちの嫉妬は困る。
そう、竜輝は思った。
将棋を教える対象が増えてしまった。




