第18話 対局
「兄さん」
そう言って凛は将棋盤を出す。
「ここで将棋指そう」
「は?」
竜輝は思わず叫ぶ。
「だって家じゃないならここで指すしかないでしょ」
確かにそうだけど。遊ぶというのはここでやるという事なのか。一緒にテレビ見たりカードゲームなどをしたりしながら。
そう、親睦会として楽しく会話することをイメージしていたのだが。
「兄さん、やろう」
「え、いやでも……」
「わたしみたい」
そう言ったのは、リサだ。
「二人が将棋してるところ見たいもん」
竜輝はリサの方を見る。
すると、
「私も!」と、粧裕も言った。
「断る理由ないよね」
そう、その奇麗な唇から放たれれば竜輝に抗う術はない。
「分かった」
竜輝は頷き、将棋盤の前に座った。
「お願いします」
「お願いします」
二人してそう言って、将棋を指し始める。観客有りの将棋は慣れている。
その前で刺す将棋。正直緊張はもうしない。
ただ、りさが見ているという一点を除いては。
しかし、これがいいハンデになる。竜輝は将棋の駒を掴み、言ってづつ指していく。その手に竜輝は力を込め、そして軽快に指していく。将棋の内容は、竜輝の居飛車穴熊に対し、凛が振り飛車穴熊に指す。
現代将棋において、振り飛車は基本不利な戦法とされている。飛車を振るのに、一手を有するから、という理由もあるが一番重要なのはAI。その評価値で振り飛車憎むだけで不利になると明らかにされているのだ。
近年では振り飛車一本で刺してきていた棋士が居飛車に転向するなどという事も頻繁にある。
そしてこれを振り飛車党の人達は裏切り者などと罵ることはない。
何しろ、振り飛車はもう絶滅危惧種になって行っているのだ。
だが、凛は振り飛車をそれでも指す。好きな戦法だからという事もある。ただ、その他に、凛は全ての先鋒を極めたいのだ。
さて、竜輝の汲んだ穴熊は、振り飛車に対して最強の囲いと言われている。
横からの攻めに強く、中々王手をかけられないため、振り飛車の天敵とされている。
たぶんこの局面。まだ戦いすら始まっていないが、恐らくAIは形勢を竜輝有利に判定しているだろう。
それほどまでに振り飛車に対して穴熊は強い囲いなのだ。
凛の振り飛車のスタイルはあくまでも相手の攻めを待つという物だ。そしてカウンターをかけ、いつの間にか優勢になる。そんな差し回しを得意にしている。だからこそ、竜輝も冷静に厚みを作り、危険な背mを起こさない。
そして、膠着状態になる。
二人は将棋盤の前で考え込む。
「すごい」
リサがふと呟いた。
リサからしたらもう異次元の戦いだ。
しかも顔も真剣で、負けたら命を撮られる、そんな集中力だな、とリサは思う。
しかし実際は、
(リサさんに良い所見せなきゃ)
かなり、ドキドキとしていた。
雑念が多かった。あくまでもそれを表に出していないだけだ。
そして、いよいよと、戦いが始まる。
そこから二人は集中力を増す。
「はあ、やっぱり兄さんは凄い」
そう手数127手。そして竜輝の勝利だ。およそ三十分にわたり行われた将棋がようやく終わりを迎えた。
二人共疲労の色が見えている。
「終局図、きれいすぎ」
そう言って粧裕は写真を撮る。プロの対局では、終局図がきれいになる物だ。プロは棋譜を大事にする。そして同様に終局図のきれいさにもだ。
そして、この終局図。これが顕著に表れている。
アナグマはほとんど崩壊しており、竜輝玉も安全ではない。しかし、そんな中で、詰みを確信して凛の玉に迫った結果なのだ。
「すごいよ。こんなのもう神じゃん」
粧裕はさらに興奮を増していく。
トップ騎士と、将来のトップ騎士の対局。興奮せざるを得ないのだ。
「実際、凛の棋力はプロにも劣らないですからね」
「まあ、私兄さん以外には負けないから」
そう言って胸を張る。
「流石」
そう言って粧裕が拍手をした。
その後、やはり凛が竜輝を連れ帰ろうとする。その前に、
「二人のクラスは何をするの?」
そう、竜輝は訊いた。
勿論、竜輝たちのクラスが、何をやるか決まっていない現状で、凛たちのクラスの出し物が決まっているわけがないのだが。
「そうね」
凛は、考える。
「私は将棋喫茶を提案したわ」
リサとくしくも同じことを考えていた。
「私が、将棋の賛同者を集めるの」
「将棋を広めたいってこと?」
凛は頷いた。
「最も私には兄さんしかいらないけど」
「そ、それはどういう意味?」
妹が訊くが、凛は首をプイっと祖けて、返事を返すことはなかった。
「そう言う粧裕はどうなの?」
リサが訊くと、「劇」と言った。
「同じなんですか」
竜輝がそう言うと、凛が「兄さん、どういうことですか?」と訊いてくる。
竜輝とリサは二人で分けを放した。
「なるほど。そう言う事」
「理解したわ」
そう二人が納得した。
「これさ、こういうんは出来ないかな」
そう、妹が口に出す。
「私たちのクラスで将棋喫茶をやって、お姉ちゃんたちのクラスで劇をするのは」
「劇」
「それか、わたしたちで一緒に劇をするの」
なるほど、と竜輝は思った。
竜輝たちの学校は中高一貫校。そして、中高で分け目自体はそこまでない。
つまり、リサのクラスの賛同者と、妹のクラスの賛同者。それを集めれば劇をすることは余裕でできる。
「僕は、やりたいです」
希望が見えた。
「私も私も」
「私もやりたい」
そして、凛以外の三人の同意が得られたところで、視線は凛に向いた。
「え」
凛が声をこぼす。
「兄さんがやるならやる」
半ば竜輝のおかげでやる気が出たみたいなものだが、凛にもやる気があるみたいだ。
これで、将棋の棋士(内一人は奨励会員だが)2人そろった。
これならば、将棋の劇をやるのにふさわしいだろう。
「なんか、楽しくなってきました」
「でしょでしょ」
リサは、竜輝の背中を叩く。
それに竜輝は軽くドキドキをする。
「みんなで文化祭を盛り上げよー」
「おーーー!!」
凛以外の三人が手を上げ、遅れて凛も手を上げた。




