第17話 二人きりでの文化祭の話し合い
そして放課後、リサの家に出向いた。
今日は図書館ではなく、リサの家での勉強会だ。
勿論、劇と将棋カフェを合わせるための計画会も兼ねている。
竜輝とリサがリサの家に入ると、
「お姉ちゃんおかえり」
そう、元気に振り向きながら粧裕が言った。
「今日あの凛さんが来てた」
そして唾をのみ。
「すごいよ。天才少女だよ。クールで最高過ぎる」
今日も将棋オタクっぶりは消えていないようで絶好調だ。
興奮しきっているらしい。
「分かったから」
そう言ってリサは粧裕を落ち着かせる。
その光景を竜輝が眺めていると、
「あ、立花さん」
粧裕はそう言って頭を下げた。
リサの部屋で、勉強会を行う。とはいえ、最近はあまり将棋のイベントも無かったので、授業には出られている。
ただ、学校の先生よりもリサの教え方の方が上手いのも事実だ。
ドキドキとする。
★
「兄さん遅い」
今竜輝がリサの家にいるという事を知らない凛は将棋盤の前で貧乏ゆすりをしていた。
「当然、将棋を指したかった」
かえって竜輝とまた一局指したかったのに、五時になっても帰ってきていない。
仕方ない。
凛は、将棋の駒をそのしなやかな手でつかみ、前へと前進させ、角道を開ける。
竜輝の竜王戦第七局の棋譜だ。
角換わりの定石系。その仕掛けの局面で、凛は駒を動かす手を止め、局面をじっと見る。
そして、しばらく考え込み、そして息を吐いた。
「兄さん」
そしてそう一言呟いた。
★
勉強会が終わった後、リサと将棋カフェと劇について話し合った。
「正直将棋カフェはボドゲでもいいのよね。でも、何かそう言う目論見があったらおもしろいと言うだけ」
「新しい盤技を広めていくってこと?」
「うん、そう!! そう言う事なの!!」
(田島さんの喜ぶ顔を見れれば僕は……)
もう劇じゃなくてもいい。
リサの喜ぶ顔さえ見れれば、リサの好きな将棋カフェで言い。
「それは……田島さんの意思なの?」
「それはどういう事?」
「だって僕に気を使ってるとか」
「ないない。だってさ、この前の指導対局を見て面白そうだと思ったもん。だから粧裕に将棋教えてもらってるんだよ」
「いつの間に」
行動力がすごい。
「それに広めていきたいなって」
その言葉で分かった。
将棋カフェはあくまでも自分の意志の元計画しているものだという事に。
「分かりました。僕もアイデアを考えます」
そう言って竜輝は一枚の紙を取り出す。そして紙に、色々とかいていく。
例えば詰将棋。決められた手数で、相手の玉をつます、所謂パズルみたいなものだ。
それを置き、挑戦状としておくというのもあり。
将棋だけじゃなくて、チェスや囲碁なども置いても良し。
それに恐らく、将棋だけじゃ通らない。盤技をメインにしたボドゲカフェ。それが一種の落とし所だろう。
「僕は、将棋をメインにして、他のボドゲも置いていくような形の方が通りやすいと思います」
そして竜輝はリサに、そう告げた。
「懸念点としてそう言う事を言っている人もいましたし、懸念点は消せるんじゃないかと」
勿論それだけですべての懸念点を消せるわけではないが、それでも一部の人達の厄介な言いがかりなくなるであろう。
「後は劇をどうするかよね」
「劇は別にいですよ……」
小さな声で言う竜輝。今となっては幽霊屋敷か劇がしたいのはしたい。
だけど、幽霊屋敷と将棋カフェ基ボドゲカフェを合わせる事は出来ない。
だからこそ、劇とボドゲカフェが今の基準線だ。
だけど、リサに変な気を遣わせるならば、別にどちらもしなくてもいい。
だけど、リサはそんな竜輝の口をふさぐ。
「だめだよ、そんなこと言ったら」
そんなリサに反骨の意を捉えようとする竜輝。
だが、リサはお構いなく。
「竜輝君がしたいって思ったんだから、それを曲げることはしたら駄目だよ」
「だけど……」
快い感じは得られなかった。そんな中でこの選択を曲げずにいるなんて言う事は、それこそ危険な事だ。臆病な竜輝にはその選択肢はあまり選びきれなかった。
「私に任せなさい」
そう胸を張るリサ。そんな彼女はそのままノートにどんどんとかいていく。それを見て、竜輝は唾をのむ。
それを見ていると。中々形になって行っている。そんな感じがした。
そして、ノートにはもう劇の内容まで軽く書いてあった。
もう、ある程度は決めているようだ。
「それ、将棋?」
「うん。有名な棋士がいるでしょ、立花竜輝っていう。それを題材にしようかなって」
「え、それって」
自分の事。それはもう辱め殺そうとしている。
「いえ、それは却下で」
竜輝は冷淡に言い、
「普通にシンデレラとかにしましょう」
「あ、竜輝君が自分の意思を口にするなんてまずらしい」
「まあ、珍しいですけど……」
そもそも、意思を口にしないと、最悪な展開になりそうになった。
「それに、劇がもし賛同を得られなかったとしても、手はあるから」
「手?」
それは、有志による、自由出演の時間だ。つまるところ、クラスとしての枠組みを超えてすることも可能なのだ。
そしてそれは部活動の活動でなかったとしても。
「え、」
竜輝は分かりやすく戸惑った。
「いざとなればこれでやるから大丈夫」
何が大丈夫なのだろうか。
そう、竜輝は思った。
そんな時、インターフォンがなった。
「何だろう」
リサは椅子から立ち上がる。そして、玄関の方に向かう。
「来た」
そこにいたのは、凛だった。
「竜輝君!」
リサは竜輝を呼んだ。
竜輝は恐る恐る向かう。
「凛」
なぜここにいるんだ。そう、疑問に思った瞬間、抱き着かれた。
「兄さん、寂しかった」
「ごめん、何も言わずに行っちゃって」
「心配した」
そんな凛を抱きかかえる。
まるで大きな子供だ。
「田島さん」
竜輝はリサを見る。
「凛はずっと一人暮らしだったんです。だから寂しかったんでしょ」
そう言って竜輝は凛の頭をよしよしと撫でていく。
「わたし、寂しがり屋じゃない」
「そうか」
竜輝はまた凛の頭を撫でる。
「わあ、尊い」
そんな二人を見る人が一人。粧裕だ。
「確かクラスの」
「田島粧裕です。ファンです、サインください」
咄嗟のその発言に凛は「は」と声を漏らす。
「私、兄さんを回収しに来ただけだから、それじゃ」
「待ってくれ」
竜輝は思わず叫ぶ。今の状況は何だ。勝手に帰る事になっているじゃないか。
「待ってって何? 帰るよ」
凛の竜輝の手を掴む手は強く、中々引きはがせない。
思えば凛は、スポーツ万能だ。それは、運動の苦手な竜輝とは違うのだ。
どうしよう。このままだと強引に連れて返される。
「あの、凛さん。ここで私たちと一緒に遊びませんか?」
そう提案するのは粧裕だ。
その言葉に一瞬戸惑い、凛は「兄さんを独り占めしたい」と言った。
(なんで!?)
竜輝はまた戸惑う。意味が分からない。なぜこの提案を断るのか。
それに、独り占めしたいとは。
「僕は凛だけの物じゃないよ。それに、皆とも仲良くしてほしい」
仲良くしてもらわないと色々と困る。
「ん、分かった」
凛も何とか納得してくれたみたいで、竜輝はほっと一息ついた。




