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竜王の学園生活  作者: 有原優


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第12話 研究会

 そして翌週の日曜日。その日は研究会だった。


 竜輝は欠伸を噛ます

 竜輝は、そこへと向かう。


「おはよ」


 凛が声をかける。奨励会二段の子だ。

 女ながら奨励会を着実に上がってきている。

 今注目を集めている有名人でもある。


「来るの早いですね」

「ん、当然。将棋の時間は長く確保したいから」


 そう言って駒を並べる。大橋流の並べ方だ。


「早速指しましょ」

「うん」


 そして、駒を触る。


 竜輝は、凛の事をあまり異性とは見ていない。

 かわいい妹のように見ている。

 

 可愛い親戚だ。



「お願いします」


 二人はそう言って頭を下げる。


 そして、対局が開始された。

 こういう研究会では、指すことだけが重要ではない。

 その後の感想戦も大事なのだ。


 二人の対局は熾烈を極める。実際凛の実力はかなりの物で、プロにも勝てるレベルにあるだろう。


 それは竜王である竜輝にも匹敵するかもしれない程だ。

 舐めてかかれば、負ける。そう、竜輝に感じられる差し回しだ。


 凛は主に飛車を回る振り飛車を多用する。

 時代の流れ、AIの発展などによって時代から消されつつある戦法だが、はまれば協力だ。

 下手な差し回しをすれば最後、強烈なカウンター攻撃をくらって負ける。


 竜輝は慎重に駒組を勧めながら、攻めに取り掛かるタイミングを見計らう。


 竜輝は手を思索しながら指していく。


「そう言えば兄さん」

 

 凛が話しかける。

 その顔には真剣さが入っている。


 竜輝の気持ちを散らすため、なんてくだらない理由で話しかけたわけではないのだろう。


「私、兄さんの学校に転校することになったから」


 転校。つまり、粧裕と同じ学校に行くことになったのだ。

 そう、中高一貫校の中学に入るという事だ。


「どういう事?」

「私、学校で上手く行かなかったから」

「いじめとか?」


 いじめだとしたら最悪だ。


「違う」


 違うのか。ならよかった。


「でも、人間関係なのは本当」

「なにがあったかは」

「訊かないで」


 だろうな、とは思った。


「でも、それはどうでもいいの」

「どうでもいい?」


 それは、どういうことなのだろうか。


「私、住む場所決まってないの」

「決まってない?」


 中学は決めたのに、住む場所は決めていない。

 いったいどういう事だろうか。


「兄さんの家に住まわせて」


 将棋中に持ちかけるお願いじゃない、と。竜輝は思った。

 でも、筋が通った。

 最初からこの子は、竜輝の家に住まわせてもらうつもりだったのだ。

 いや、それは理解したのだが。


「一緒に住むの?」


 そこが問題だ。


「広いでしょ。お願い」

「だめ、ではないけど」


 元々、彼女の家からだと、それなりの距離がある。一時間かかるのだ。

 

 

「だからお願い。兄さんの家に住まわせて」

「いや、でも」


 男女が、同じ部屋にいて、大丈夫なのか。


「お願い」


 凛は、手を合わせてお願いしてくる。

 竜輝の家は一人で住むには広いし、凛の事を性的に見ているわけではない。

 凛を襲う未来なんて、きっと存在しない。


「はい」


 竜輝は、静かに答えた。

 もう、そう答えるしか選択肢がなかった。


「やった」


 凛は小さくガッツポーズをした。



「何の話をしているんだい?」


 そこに人影が。佐山幸彦八段だ。


「兄さんと――」

「何でもないです」


 竜輝は凛の口をふさぐ。


 変な誤解を招きそうだ。


「ちょっと兄さん」

「ちょっと、色々と互いの話をしていました」


 竜輝は早口でそう、捲し立てる


「はは、仲いいね」

 そう、佐山は笑う。


「私と兄さんは仲いいです」


 そして、笑った。


 そこから本格的に研究会の流れになる。


 棋士同士が、研鑽のために対局や研究をし合う会だ。

 凛の他にも奨励会三段の人も何人も呼ばれている。

 皆、真剣な顔で将棋に向き合う。



 竜輝は本来こういう会は苦手だ。だけど、凛や佐山に呼ばれるから、仕方なく参加している。


 竜輝は駒を持つ。


 相手は佐山だ。

 先程の凛都の将棋は無事に竜輝の勝ちに終わった。

 凛の仕掛けたいくつもの罠を見事に回避して言った形だ。


「凛さんと、どんな話をしていたんだ」


 将棋の最中に、佐山がそう口を挟む。


「えっと」竜輝はたじろいでしまう。


「良くない話だったり、例えば異性のそれとか」

「色々と冗談やめてくださいよ」

「そんな事は」

「無いです」


 竜輝にとってこの人は苦手だ。高校生で棋士になり、28で八段に昇段し、今様々な棋戦でいい所に言っている棋士。

 だけど、その金に染められたパンチアーマーが示すように彼は陽寄りの人間だ。

 その将棋の実力は認めているが、少し苦手だった。


「えー、教えてくれたっていいのにな」

「佐山さんこそ、付き合っている人とは今どうなってるんですか?」

「っ今はやめてくれよー、その話」

「やっぱり上手く行ってないんですね」


 佐山と付き合っている彼女、山瀬らるかとの二人は上手く行っていない。


 毎日喧嘩しているらしい。それなのに、なぜ分かれていないのかは分からないのだが。


「痛いところ疲れたからって人の傷口をえぐるな用」

「そんな事よりも、将棋指しましょうよ」

「ほーい、分かりましたよ」


 そして将棋を指していく。


 いい対局ではあったが、結局は。


「負けました」


 そう、竜輝が頭を下げた。


 負けた。

 普通に実力で負けた。



 油断からしたからではない、動揺したからでもない。

 純粋な実力で負けた。


「感想戦しようか」

「はい」

 これは非常に悔しい事であるのだが、竜輝は対戦成績で大きく負け越している。

 通算で8も負け越しているのだ。


 人間性だけではなく、将棋でも苦手な相手だ。


 だからこそ、将棋の相手に選んだんだが。


「竜輝君、君の攻めはいつも美しい。だけど、僕には勝てない理由があるんだ」

「何でしょう」

「君の攻めは分かりやすい。だから僕にいつも受け止められてしまうんだ。単純な攻めだけではなく、もっとからめ手を使ったらいい」

「使ってるんですけどね」


 現に、竜輝はそう言うのが上手いと言われている。


 単調な攻めだけではないと、攻めの上手さに定評があるはずなのだ。

 だけど、通じない。だからこそ苦手なわけだが。


「うーん、だから僕が立花キラーとでも言われてるんだろうけどね」

「かもですね」

「だから僕が見る竜輝君の逆転を見極めよう」


 そして、感想戦が始まっていく。

 その、佐山の解説は非常に分かりやすかった。



「ちなみにね、」感想戦が終わった後、佐山がくちを開く。「次、王位戦予選で当たるのは僕だよ」


 そう言って、去って行った。

 その姿にぞくっとした。


 王位戦。竜輝はいい位置まで行っている。

 次は王位戦準決勝だ。


 そこで佐山と当たる。

 その宣言は、次も負かすという事だ。

 対策しなければならない。そう感じた。





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