第10話 リサの部屋
そして、完全に教え終わった後、リサの部屋にまぬかれた。
粧裕に将棋を教えたお礼として勉強を教えようというのだ。
実際感想戦も、粧裕はしっかりと全てを理解してくれて教え甲斐があった。
追加の一局も、粧裕はしっかりと反省点を踏まえさらに強い将棋を指していた。
それを見ると、教えてよかったと思うとともに、この子は強くなると感じた。
そして、リサの部屋。その部屋は、少しいっそな部屋だった。
ベッドと机。そして本棚に参考書や教科書ノート。そして数冊の漫画があるのみだった。
ぬいぐるみなどもあまりおいてはなく、花のJKにしてはあまりにも質素だという印象だ。
竜輝が部屋の内装をじっと見ていると、
「何見てんの」
そう、リサが言う。その言葉に、竜輝の肩が軽く跳ねる。
「まさか」
「何も変な気持ちで見てませんよ!!」
だが、その竜輝の否定も必死過ぎる。
それを見て、リサが笑った。
そして――
「そういえば今日、かっこよかったよ」
リサは、くすくす笑いながら、言った。
竜輝はドキッとする。顔がどんどんと紅潮していく。
「まるでさ、別人みたいだった」
それはつまり、普段の竜輝はかっこよくはないという事なのかと、がっくりと肩を落とす。
それを見て「ほめてるのに」と、トントンと背中を叩くリサ。
「僕はかっこよくありませんよ。将棋だけですから」
「っもう」
呆れたように、顔を膨らませる。
怒っている様子だ。
「そんなこと言わないでよ。ネガティブ禁止」
そう言ってリサはバッテンマークを作った。
「なんでそんなに自信がないよ。わたしから見たら立派な人間なのに」
「僕は将棋だけしか取り柄がありませんから」
「竜輝君、教えるの上手かったじゃん、それに勉強での学力も上がってるよ。私が保証する大丈夫、自信持ってよ」
「……はい」
そんなことを言っても、自分自身をそこまで信用できないというのが実情だ。
「私は結構好きだよ」
「友達として、ですよね」
「勿論、まあ、そうだけど。でも、付き合ってもいいかも」
「何言ってるんですか」
「気心知れた仲だから言えるんだよ」
そう言ってリサが笑う。
冗談かと、思い竜輝は苦笑する。
すると、次の瞬間、抱きしめられた。
ハグという感じではない。軽くといったものだが、竜輝はその場で驚いた。
「え?」
竜輝は驚きの表情を見せた。
「大丈夫だから」
何を言っているのだろうか。
いや、あのことを言っているのだろうか。
竜輝は二時間前、食事の時に言っていたのだ。
そう、まさに自分の過去を。
自分が病気の際に家族が全員旅行の際の飛行機事故でみんな死んでしまったことを。自分が病気にかかったから代わりに叔父が飛行機に乗ったことを。
そして、棋士であった叔父が亡くなったことを。
「前まではさ、竜輝君がなんでそんなにネガティブなのか分からなかったけど、今ならわかるよ」
今ならわかる。竜輝の気持ちの事だろうか。
「粧裕がいる手前、私もね、言えなかったけど、私達も親がいないの」
前に家には妹しか居ないと言っていた。
だけど、それはあの時だけではなく、永遠に、だったのだろうか。
「いじめられてたって言ってたでしょ。わたし、いえ私達ね、捨てられてるの」
「捨てられている」
想像以上に重い。
「原因はさ、私なの。私が我儘だったから、親があきれて家に帰ってこなかった。だけど、それもしばらくたつとお金も送られずに蒸発しちゃった。だから、親戚からのわずかな仕送りを当てにして暮らしている訳」
「なるほど……」
辛いのは竜輝だけではなかった。
彼女もまた、しんどい思いをしている人だった。
(僕はだめだな)
気を使わせている、それも明らかに。
今、背中に抱き着かれているのだって、そう。元気付けるため、ただ一つだろう。
「田島さんは、どうしてそこまで」
「私と竜輝君は一緒なんだよ。最初から気になってたしね」
「僕が竜王だから?」
「ううん」首を振る。「私と同じ匂いがしたから」
「ああ、そうですか」
竜輝は頷く。理屈は分からないが、なんとなく納得してしまったのだ。
「だから僕に対してそんなに優しいんですね」
「そゆこと、まあ先に話しかけられたのは驚いたけどね」
そう言って笑う彼女の姿もまた、美しい物を感じた。
ここまで、自分の過去を開示してくれる人。
もう、ただの商売相手ではなさそうだ。
「それに、私は思うの。人には運命があるって。その……おじさんの件は残念かもしれないけど、竜輝君が生き残らないといけない理由があったんだよ」
「田島さんはずるい」
竜輝は言った。言ってしまった。
「そんなことを言ったら、嬉しくなるじゃないですか」
「嬉しくなってもいいんだよ。私にとって、竜輝君は大切だからさ」
竜輝は背中に抱き着いてくれるリサの手を優しくほどく。
「ありがとう、ございました」
「もう、ネガティブにならない?」
「はい」
竜輝はそう、笑顔で言った。
その後、しばらく二人きりで勉強をした。
リサと二人きりの勉強。
だけど、今日は少し違う。今日はリサの部屋での勉強だ。
リサが普段使っている机に教材を置いて勉強をしている。それだけで、ドキドキをしてしまう物だ。




