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「アレ……の話なんかいいから。そろそろ練習しましょうよ」
なんとも便利な言葉なのだろう……『アレ』とは。
ストレートに言いたくない場合、だいたいこの言葉を用いればその場しのぎにはなる。
それにしても休憩が休憩にならない、やはりここはブラック部活動だ。
「稲本くん。そんな怪訝な顔で私のことを見ないでもらえるかしら?」
「そうさせているのはアンタですよ」
人前で堂々と下ネタという言霊爆弾投げ飛ばすのやめてもらえませんか、的なことを言い返しても無駄骨だというのは明らかで、より疲れそうなのでそれはしない。
「一つ訊ねても? あなたは練習時、常に座っているかしら?」
なんだ、まともな質問もできるじゃないか。
確かにギターを弾く際多くの人が立った状態で演奏するか、椅子やソファなどに座って演奏するか、基本的にこの二つに一つだ。
「たとえば家にいて自分の部屋で練習する時とか、今みたく部室で練習する時は基本座ってますね。動画を撮る時は立ってやりますけど」
「そう。では立って練習する目的は?」
「当たり前だけど立った時と座った時ってギターの角度が違うなるというか、あと太ももがボディに当たって支えになるけどら立つとそれができないし。座りっぱなしだと指板を覗き込んで背中が丸まりやすくなること多いし、だから座って練習する方が多いですけど演奏動画の撮影する時は基本立ちますね」
自分の部屋でギターを演奏する人ならある程度わかるだろう。
別に座って練習することが悪いわけではないが、座った状態だとどうしても姿勢が悪くなりやすいなどの問題が起きてしまう。
人それぞれかもしれないが、立った状態で練習しておくことも重要だ。
たとえば好きなバンドのギタリストをイメージすると、ライブのステージでは演出を除けば皆立った状態で演奏している。
「ふふっ、さすがね。当たり前のことではあるけどそれ故に重要ね。だから稲本くんは座った状態でもきちんとギターにストラップをかけているのね」
「ええ、座っていてもストラップが張っている状態を意識すると姿勢も良くなるし立ったときに近い状態になれるので」
ギターを座って練習する際、ストラップを外してしまう人は少なくないかもしれない。
これはとても良くない。
座った状態でもなるべく姿勢を良くして弾いた方が立った状態と近い感覚で演奏できる。
ストラップが少しダルンダルンになるのは仕方がないので、なるべく綺麗に張った状態になるように演奏すると、立った状態でも演奏しやすくなる。
これはお世話になっているオンラインのギター講師から教わった。
「だから稲本くんはギターがとっても上手なんだね。私は面倒だからストラップやってないことが多いな〜」
俺たちの会話にふむふむと相槌を入れつつ耳を傾けていた副部長が割って入ってきた。
確かに彼女の持つSGにはストラップがない。
おそらく、座って演奏するときにストラップをかけない人の多くは、面倒だからというのが理由だと思う。
「確かに面倒に感じるかもしれないけど、つけないのは良くないわ。稲本くんもそう思うわよね?」
「そうですね。できればあった方が良いと思いますよ」
珍しく部長と意見が合った。
弦交換の時に切れるかドキドキする1弦の細さほどの嬉しさもないが。
「確かに夏緒里ちゃんと稲本くんの言う通りだね。私もきちんとつけた方がいいのかな?」
「無論よ。プレイする際は必ず、毎回つけるべきね。その方が安心でしょ?」
「そうだね。きちんとつけた方が安心なんだね」
「ええ、安心安全よ。取り返しのつかないことになる前につけることを習慣化すべきね」
「夏緒里ちゃんはしっかり者だね! だからから夏緒里ちゃんはいつも立った状態なんだね」
「その通りよ。私はプレイの際は必ず立ってやるわ。必ずつけてやるようにすれば良くなるし、色々なテクニックも上達するわね」
ギターの話に聞こえないのは、俺の心の穢れが悪いのか。
「稲本くんも、これからも必ずつけてやるのよ」
「ええ、必ず"かけて"やるようにしますよ」
「かけて……? 貴方、顔面にぶっかけとか、そんなことをして女子が喜ぶとでも? 思春期だからといって猥●動画の見過ぎよ。現実とフィクションの区別ができないのは感心しないわ」
「そろそろ延髄蹴り飛ばすぞ、マジで」




