↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
41/50

7-5

 下ネタの連鎖地獄からなんとか解放された。

 やはりギター弾きならばギターを弾いてなんぼ、ここはそのための練習をする部室だ。

 弦をかき鳴らす。

 1弦から6弦まで全部を思い切って鳴らすこともあれば、一音ずつ綺麗に響かせるアルペジオ、その音を残さないようにほうきで掃くように奏でるスウィープ、特に難しいことを考えずに人差し指と小指で弦を押さえるパワーコード、それに時折混ぜるブリッジミュート、このようにギターの基本的なテクニックには様々なものがある。

 俺が影響を受けたギターソロの速弾きでレガートを使うことが多くある。

 そうした練習もする。

 ギターをやっていない人間にレガートだのアルペジオだの熱心に語ってもその魅力はおそらく伝わらないだろう。

 この部だが、部長が部長だし、そもそも訳ありの部ではあるのだ。

 それでも入部したのには一応理由はあるが。

 いずれにしてもこうしてギターを弾くのは、やはり楽しい。

 楽しい時間はあっという間で、ふと部室の時計を見ると一時間以上経過していた。

 ギター部には俺と部長と副部長、現時点でこの三名しか部員がいない。

 それぞれ好みの音楽ジャンルや好きなミュージシャンも異なり、演奏する楽器は全員ギターということもあってそれぞれ好きなように練習している。

 たとえば俺ならB'zが好きでコピーしているし、B'z以外にも最近聴いているギタリストのインスト曲がありそのフレーズを練習している。

 演奏時は部室に置いてあるマルチエフェクターにヘッドフォンを繋いでいるので部長たちの演奏はあまり気にならない。

 ちなマルチの設定は自分好みにいじってある。

 俺の場合耳に入ってきても特に気にならないが、正直他の二人がどんな曲を好み練習しているかあまり興味がないのでただ自分の練習に集中している。

 というより演奏に集中しないと部長の下ネタのせいで嫌でも集中が途切れるのだ。

 さて、熱心に練習するのは良いとして、それでも手を休め気分転換をすることも大切なので、一旦休憩だ。

 意図的か偶然か、二人も休憩に入る構えを見せていた。


「う〜ん……」

「……どうしたんですか、副部長。俺の方をじっと見て」


 副部長の視線の先には俺、というより俺のギターがあった。


「えっとね、やっぱりレスポールのギターってかっこいいなぁ〜と思って」


 なるほど、どうやら俺のレスポールに興味があるみたいだ。


「確かにレスポールはかっこいいというか、Gibsonギブソンのレスポール、好きなんですよね」


 ギターを弾く人間なら誰もが一度くらいはGibsonギブソンの名前を耳にしたことがあるだろう。

 有名な老舗メーカーだ。

 今使用しているこいつはかなり昔に両親からプレゼントでもらった一品だ。

 ちなみに同じモデルを二本持っていて、そのうちの一本を部室に置いて練習時に使用している。

 Canary Yellowというギターだ。※


「レスポール、いかにもギターって感じがしてなんか憧れちゃうね。私は小柄だし、レスポールだと上手く演奏できるが不安だから避けちゃってるけど」

「それでSGを?」

「うん! ヘッド落ちしやすいけどレスポールより軽いし、私には合ってるかなぁ〜て」


 副部長のギターはSソリッドGギターと呼ばれるタイプで、俺が使っているレスポールと呼ばれるタイプの後継機種だ。

 ボディが薄いためレスポールよりも軽いというメリットの反面、ヘッド落ちと言って手で支えないとヘッドの方から下に傾く現象が起きてしまうデメリットもある。

 ただメジャーなタイプではあるため、レスポールやストラトのように多くの楽器店で見かけるギターだ。


「確かにレスポールって重いってイメージあるかもですね。必ずそういうわけじゃないけど」


 レスポールのギターが必ず重いわけではない。

 たとえば俺が好きなGibsonだって様々なギターを世に出している。

 ハイグレードなレスポールは軽い、という話を聞いたことがある。

 レスポールなのに軽い、と驚く人もいるかもしれない。

 つまりレスポールが必ず重いとは言い切れない。

 使用されている材によっても異なる。

 それに人によって感じ方が違うので、女性で小柄な人は重たく感じやすいかもしれない。

 ただ、確かにイメージとしてはストレスなどよりレスポールの方が重量感があるかもしれない。

 個人的にはその重量感が好きなのだが。


「確かにGibsonは老舗でレスポールにも賛否両論あるけれど、やはりギターの王道、王様というイメージはあるわね」


 そういう部長だが、彼女が抱えているギターもなかなか魅力的だ。


「俺の場合、好きなギタリストがGibsonのレスポール使ってるから真似というか、影響を受けてやってるだけですけだ。ところで、部長はどうしてフライングVなんですか?」


 ボディの形状がアルファベットの「Vブイ」のように見えるギター。

 フライングVについて簡単に説明しろと言われたら、そんな説明で問題ないと思う。

 もう少し語るとGibsonからもフライングVのギターは出ている。

 1957年に開発がスタートし、翌年にエクスプローラーという別のタイプと共に発表されたらしい。

 発売当初は先鋭的なデザインが受け入れられずまったくヒットしなかったようだが、その後デザインや素材などを変えて再びリリースされた。

 有名なギタリストでいうとジミ・ヘンドリックスなどが使用し、知名度を上げたようだ。

 B'zの松本氏もレスポールのイメージが強いがフライングVを使用する場合もある。

 ちなみにフライングVはデザインやマテリアルが見直されてリリースされた年式がベースとなっているらしい。


「そうね……私も稲本くんのようなレスポールではないけれど、安い種類なら一本持っているのよ。ただ、一番演奏時にしっくりと来るのがフライングVなの」


 フライングVはその形状、サウンドが特徴だ。

 悪いギターではないのだがレスポールやストラトキャスターと比較すると癖が強い、かもしれない。

 そこで、俺の中である疑問が浮かんだ。


「ひょっとして、フライングVだと形状的に座って練習するのが難しかったり、あとヘッドの方が重いからヘッド落ちしやすいから、立って練習する機会が増えてそれが良い、とか……?」


 この問いかけ、俺的にはかなり自信がある。

 フライングVは他のギターとバランスが異なり、ヘッド側が重たくなっている。

 SGと同様、ヘッド落ちが起きてしまうのだ。

 ストラップをかけて立っているとヘッド落ちは避けられない。

 またレスポールのような丸みを帯びたボディではないため、設計そのものが座って演奏することを考慮していないとも言える。

 要するに、フライングVのギターだが、絶対とまでは言えないが必然的に立った状態で演奏することになるのだ。

 そうした理由から俺には自信があった。

 まあまあの根拠がある自信だ。

 しかし、瞳に飛び込んできた意地悪な笑みはそれを否定したいようだ。


「ふふっ……悪くない推察だけど、残念。確かにフライングVは座った状態で演奏するのには適していないけれど、そんな真面目な理由ではないわ」 


 俺的には自信があったのだが、どうやら違うらしい。


「部長がフライングVを選ぶ理由は?」

「立つ、という言葉が『つ』を連想させるからよ! それに他ならないわね」


 即答だった。

 もう何度目かって回数を重ねたので学習した。

 この人、こうして改まって訊ねても返答は聞くに耐えない幼稚な下ネタ、そして涼しげで勝ち誇った顔。

 残念な美人、とはこの世で唯一、彼女を形容する言葉に違いない。

※https://antique-guitarshop.wixsite.com/2016/product-page/gibson-tak-matsumoto-signature-les-paul-1999%E5%B9%B4%E8%A3%BD-canary-yellow


こういう黄色のギターです。主人公はこれを二本持っているという設定です。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。